亡霊の隊列(ゴースト・ライン)
改訂版です。ストーリーは同じで、描写・忘れていた伏線回収。
キャラクター名は少しかえます。
書き終えたら、改訂前を削除予定です。
第一章 第一話
『亡霊の隊列』
夜の帳が降りた街外れの工場地帯。錆びついた鉄塔が墓標のように立ち並ぶその場所へ、影が滑り込む。作戦に投入されたのは5個小隊。
洗練された殺戮のシステム――PT。
その1個小隊の先頭に立つのは、唯一の有人機である**LC**だ。 座席に身を沈めると、衝撃緩衝装置が強制的に体を固定し、コックピットはさながら「鋼鉄の棺桶」と化した。
だが、システムが起動し機体が躍動を始めると、シートは加重や慣性に完璧に追従し、不快な拘束感は消え去る。
機体との一体化が進むにつれ、前面モニターはパノラマ状の視界を投影し、あたかも航空機のキャノピー越しに戦場を眺めているかのような錯覚を抱かせた。
「……フェーズ4。全機、同期完了」
コックピットの中で、主人公は感情を殺した声で呟いた。
モニター上で冷たく緑に輝くのは、10機の無人随伴機『PT』の稼働状況。
隠密性を重視したマットグレーの装甲は、深夜の工場地帯に溶け込み、視覚的にもレーダー的にも捉えがたい。
その異形の群れは、畏怖を込めて**『ゴースト・ライン(亡霊の隊列)』**と呼ばれていた。
― 殺戮の滑走 ―
「各機、高速展開!」
操作に呼応し、10機のPTの脚部が一斉に駆動音を上げた。 足裏の機構が唸りを上げる。
これまでは、つま先の一輪と踵の二輪、計三点のローラーが荒れた路面を無骨に噛み、巨体を支えていた。
しかし、加速レバーが限界ノッチに叩き込まれた瞬間、踵の二輪が油圧の咆哮とともに内側へとスライドする。
「ガキィィンッ!」
左右に分かれていた後輪が中心で重なり、一本の太いローラーへと変貌を遂げる。
つま先から踵までが完全な一直線――直列二輪となった瞬間、接地抵抗は劇的に減少し、爆発的な推進力が解放された。
「……行くぞ」
モーターへ過剰な電力が供給され、限界を超えて唸りを上げる。
直結したローラーが超高速回転を始めると、摩擦で生じた白熱の火花が、背後で尾を引く彗星のように流れた。
三点支持による「歩行の延長」に過ぎなかった動きは、この瞬間、物理法則をねじ伏せる「弾丸の滑走」へと昇華される。
「ギィィィィィィィィィン――!!」
大気を切り裂く高周波の摩擦音が工場地帯に響き渡る。
高速滑走に移行した10機の亡霊たちは、慣性を無視した鋭角なターンを刻みながら、防衛線を突き破った。
一輪となった踵のローラーが路面を抉り、砕けたコンクリートの礫が銃弾のように後方へ弾け飛ぶ。
それは、戦場を駆ける死神の足音だった。
思考をAIのネットワークへと沈めていく。
そうしなければ、狭い機内に漂うオイルの臭いが、ふとした瞬間に**「あの病室の消毒液の匂い」**に変わってしまうからだ。
あの日、痩せ細った彼女の手を握ることしかできなかった。
最先端の医療技術も、軍が供給する特効薬も、彼女の命を蝕む病魔の前では無力だった。
戦場であれば敵を撃てば終わる。
だが、彼女の体の中で静かに進行する死に対して、彼は一発の銃弾も放つことができなかった。
「目標、第一工場区画。……掃討開始」
金属が悲鳴を上げるような重苦しい駆動音が、かつての静かすぎる病室の記憶を強引に圧殺していく。
「敵機接近。……また来たか」
モニターを走る敵影。集中が途切れた刹那、忌まわしい記憶がフラッシュバックする。
罪悪感が生み出した亡霊か。
疼くような幻覚を視界から消し去るべく、彼は震える指先に力を込め、トリガーを絞った。
「全機、撃てッ!」
10機のPTが一斉に火を噴く。
重機関砲の連射が、夜の静寂を暴力的に引き裂いた。
空虚な空間を執拗に撃ち抜く銃声だけが、頭の中に響く「彼女の最後の呼吸音」をかき消してくれる唯一の薬だった。
AIに制御された無人機たちは、物理法則を無視した完璧な連携で、防衛線を紙細工のように切り刻んでいく。
その破壊の光景を、彼は淡々と見つめていた。モニター越しに上がる爆炎。
それは、彼が彼女に与えることのできなかった「唯一の抵抗」だった。
(もっとだ……。この騒音で、あの日の呼吸音を消してくれ……)
硝煙の匂いと、焦げたオイルの悪臭。男は、自らを「亡霊の隊列」の一部へと沈めていく。
彼女を忘れるための戦場。そこには救いもなければ、慈悲も存在しなかった。
主人公の担当区画に配備されていた無人PT2個小隊は、瞬く間に瓦解した。別方面の制圧完了の報が届く中、隊列は工場内部へと侵入する。
そこには月面作業用アンドロイドの生産ラインと、逃げ場を失った人間の作業員たちがいた。彼らは震え、命乞いをする暇もなく、システムの一部として「処理」されていく。
「目標個体、殲滅開始」
第一工場の「清掃」はわずか15分で完了した。通路には、頭部を砕かれたアンドロイドの残骸と、同じように物言わぬ肉塊となった作業員たちが、区別されることなく積み上がっている。
「……こちらLC。目標区域の全個体、機能停止を確認。殲滅完了。帰還の許可を乞う」
無線に報告を入れたその時、メインモニターの端に微かな熱源反応が走った。
「未確認個体、1」 AIの無機質信号を受け、LCの剛腕が隠し部屋の扉を抉り開ける。
そこには、一体の女性型アンドロイドがいた。量産品とは明らかに違う、精緻な肌の質感。
それがゆっくりと瞼を持ち上げた。 「……あ……」 唇が動く。ノイズの混じった、しかし、あの病室で最後に聞いた彼女の掠れた声に似た響き。
主人公の心臓が、警告音よりも激しく跳ねた。忘れるために戦場に来たはずの指が、操縦桿の上で激しく震える。
その時、通信機から軍司令部の冷徹な声が響いた。 『了解した、LC。……ご苦労だった。情報汚染物件の完全消去を開始する』
「待て、まだ俺が、LCがいる! 内部に生存個体――」
叫びは、夜空を切り裂く暴力的な轟音にかき消された。
仰ぎ見れば、天を埋め尽くす爆撃機の群れ。放たれた焼夷榴弾が、漆黒の闇を鮮烈な緋色に染め上げていく。
すべてを――犯した罪も、刻まれた記憶も、あまりに似すぎたあの声さえも、この世から灰にするための焔が降り注ぐ。
「……これで、ようやく終わる」
降り注ぐ光の奔流を、主人公はどこか遠い目で見つめていた。
死を恐れる心はとうに摩耗し、残っているのは、ただ彼女のいない世界に対する、底冷えするような虚無感だけ。
焼夷榴弾の熱を、彼は自分を灰にしてくれる「救い」のように感じていた。
だが、その刹那――。
激しい振動に揺れるコックピットの中で、胸元から一本のペンダントが滑り落ちた。
無機質なモニターの光を反射し、それを見た瞬間、彼の脳裏を支配したのは「死への渇望」ではなく、震えるような「拒絶」だった。
(――まだだ。この記憶さえ、消させるわけにはいかない)
死を待ち望んでいたはずの男の指が、獣のような本能で操縦桿を叩き込んだ。
「くそっ……! まだだ、まだ終わらせてたまるかッ!!」
絶叫。それは彼女を失って以来、初めて彼が上げた「生」への叫びだった。
「全機、盾になれ(ファランクス)ッ!!」
主人公の荒れ狂う意思に呼応し、10機のPTが、主を死守すべく一斉にLCを取り囲んだ。重なり合う装甲板、組み上げられる「鋼鉄の円陣」。
次の瞬間、無慈悲な光の奔流がすべてを飲み込み、夜の世界を白熱の地獄へと変え、すべてを白く塗りつぶしていった。
少しずつ直して行くつもりです。




