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プロローグと言う名の『設定』

 ある世界の魔法使い。神凪(かんなぎ)は、転移により世界を渡る研究をしていた。


 彼女は既に、転移という魔法を修めている。それはその世界に生きる誰もが手にすることが出来なかった魔法であり、故に、彼女の天才性を示すものだった。


 加えて、驚異的な治癒魔法を編み出し、常に身体を再生し続けるとこで、擬似的な不老不死を可能とした。


 そんな天才が次に目をつけたのが、異なる世界への転移である。


 彼女が想像する仮説のなかでは、世界は数々の選択により分岐されていくはずであった。何故なら、ある人が死に、その世界から居なくなったとしても、故人を偲ぶ人は現れる。


 人が居なくなったというのに、その記憶を他人が有しているという現象が、神凪には不思議に思えて仕方がなかった。居なくなったのなら、全てが無くならなければ理屈に合わない。それが彼女の考えだ。


 つまり、憶えている人がいるのなら、死んだ人は、完全にいなくなったわけではない。どこかで生きている。では、どこで?


 それは異なる世界でしかない。この世界では、“死という選択”になってしまった人が、“生きているという選択”がなされた世界もある筈だ、と。


 しかし、その仮説を立証するのは難しかった。


 何故なら、神凪の仮説が確かなら、実験を行った際に、必ず“成功した自分”と“失敗した自分”がいる世界が生まれるからである。


 成功した自分は、その成功を喜ぶだろう。しかし、失敗した自分が、それを認識していたのなら、それはただ、失敗した自分がひたすら失敗する世界を繰り返しできるほかないのだから。


 二つの世界を、同時に認識する方法はない。それも、神凪の仮説であった。


 その二つは、実にリンクしている。そう直感した彼女は、先ず、別の選択をした自分を認識する術はないか、という研究を始めた。


 しかし、どのように研究すればいいかも見当がつかない。思いつかない。思いつかないということは、選択肢も生まれない。全くの不毛な時間なのではないか。神凪は、苛立ちながら部屋中に落書きをしてみた。


 その時、ふと思った。この部屋も、そうした選択肢を認識するのだろうか、と。綺麗であった部屋と、落書きによって汚れてしまった部屋。今、二つの世界が出来た。世界を生み出すのは、人間の想像の中だけではないのではないか。


 思い違いをしていたのかもしれない。そう神凪は思い至った。


 異なる世界とは、人を基準にしたものではない。それを認識できるのは、おそらく世界。きっと、人が生きるこの星なのだと。


 これで研究の目標は決まった。転移の行先も決まった。自分の中のイメージではない。完全に、この星のことを考えるべきだ。星が生まれたこと。星に命が育まれたこと。そこで起こり得る選択肢。それらに意識を集中する。


 そして彼女の想像は、その類まれなる能力が良いように作用し、世界の――、星の思考と繋がった。


「うあっ、が、はぁ、ぐっ」


 苦しみの声が、神凪の口から漏れる。転移によって降り立った世界は、綺麗なものだった。


 風にそよぐ草原は清々しく。崖の先に見える海は青々として眩しいくらいだ。山は隆々と聳え立ち、空は天高く晴れ渡る。そんな、明るく豊かな世界なのに、その世界は、その在り方は、確かに彼女を蝕んでいく。


 身体が、末端から、塵のように消えていく。その都度、身体は再生されていく。呼吸は出来ない。空気はない。声が出たように感じたのは、彼女の錯覚なのだろう。身体の中で、無意識に空気が作られている。

 熱いのだろうか。寒いのだろうか。まったく分からない。そこに感じるのは、なんだろうか。神凪はじっと、苦しみながらも考え、それは、もっとも純粋な魔力であると気が付いた。


 自身が魔法を使う際に消費するもの。そう言えば、どこから生まれるのかなんて、想像もしていなかったと、自身の迂闊さに笑っていた。


 そこに気が付けば、もっと早くここに辿り着いたのではないか。自身の身体を構築しているものが、この星を包む純粋な魔力に置き換わっていくのを感じる。

 それと同時に、世界の構造も見えてきた。


 すべては、星の創造なのだ。


 子供が自分の未来を思い浮かべるように、星もまた、自分の未来を思い浮かべている。それが、神凪の産まれた世界だった。それが、神凪が仮説を立てた、選択の先にある別の世界だ。


 世界が思い浮かべる、様々な世界に、人は生きている。そうして、世界は、星は、一番最優の在り方を見つけようとしているのだ。


 この魔力に満ちた世界は、いずれ、最優と定められた世界に塗り替えられるだろう。この魔力は、そのエネルギーとなるはずのものだ。


 その魔力を取り込んだことで、神凪は、この星――、オリジンと名付けた星の住人となった。


 いつかこの星が、最優の世界を身に纏うまで、少しの間、間借りさせてもらおう。魔力をエネルギーに、彼女は様々なことをした。

 家を建て、庭を作り、大気を作り居心地の良い空間を産み出した。星が思い浮かべる様々な世界から、絶滅しそうな動物を連れ帰り、そうして、自分だけの楽園を築いていった。


 ある世界で戦争が起こった際には、戯れに介入して終戦に導いてみたり。魔王に襲われる世界があれば、それを倒してみせたりもした。


 今ではそんな彼女のことを、神のように崇める世界もあるほどだ。それだけの力と見識を、世界の魔力を取り込むことで手に入れた。


 自由に世界を渡り、その力を振るう。研究に励む必要もなくなった彼女はただ、愛らしい動物達に囲まれて、のんびりとした日々を過ごしている。


「さぁ、今日も困った人は居ないかな? この私が手を差し伸べてやろう」


 今日も彼女は、誰かのことを振り回す。……される? 

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