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合服と青服

作者: 千秋

制服だけが自慢だったはずの母校の夏服は、地元の海をイメージした青い半袖開襟シャツだった。

梅雨が終わるギリギリまで合服を着られる制度だったのは、歴代の先輩たちの努力の結晶だったんだろう。


陽当たりの悪い南棟の三階には理科室があって、

受験に使う予定もない化学の補習を受けていたのは僕と君だけだった。

早々に夏服に衣替えをした君と、合服の袖を捲って暑さに耐えていた僕。

青い夏服が一番似合っていたのは君だったと思う。


先生が出ていった後の陽当たりが悪い理科準備室の、

二人だけの無色透明な時間が永久に続けばいいと願っていた。

真面目な君が一生懸命に悩む横顔を見ていると目が合って、

びいどろみたいな大きな瞳に吸い込まれるような気がして、怖くなって、そうして目を逸らした。


綺麗な目をしているね、なんて気取ったことが言えなかったあの時が、

一番綺麗な心を持っていたんだと今では分かる。


水泳の授業があったあの日、僕も君もうたた寝して、

薄暗いあの部屋に西日が差し込んできてようやく目が覚めた。

隣の君はまだ机に突っ伏したままで、西日の差す静かな理科準備室には、ほんの少しだけ塩素の香りがしていた気がする。


陽が当たった君の髪は少しだけ茶色いことに気がついて、

思わず僕は手を伸ばしてしまった。

指を通した髪は柔らかくて、少し傷んでいて、僕はその傷みの方が愛おしかった。


好きだということに気付かないふりをして、好きだということに気付かれないふりをして。

無色透明のあの時間が、永久に続かないことだけは気付いていた。


でも今なら分かる。


あの日君は僕が触れたことにきっと気付いていて、それでも気付かないふりをしてくれて。


僕より早く夏服を着た君が、僕の少し先にいたことに、僕は大人になってからようやく。

匂いで思い出す記憶は、総じて切ない気がします。

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