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第九章 想い出祭と、人生の贈り物

これはAIが書いたものです


 『しあわせの家』では、年に一度、特別な祭が開かれる。

 名前は《想い出祭》。

 入居者たちが、人生で大切にしてきたものを一つだけ選び、それを“語り継ぐ”というささやかな催しだった。


 準備は、静かに、けれどとても丁寧に進んだ。


 誰かは昔のアルバムを開き、誰かは古い楽器を磨いた。

 戦争を生き抜いた人、恋を貫いた人、家族を守った人、そして誰にも言えぬ後悔を抱えた人。


 それぞれの“想い出”が、この一夜のために、少しずつ顔を出しはじめていた。



 ある日、僕はおじいさんのひとりに尋ねた。


「何を選びますか? 昔の写真? 旅の記録?」


 彼は照れくさそうに笑って、答えた。


「……わしはな、妻が作ってくれたおにぎりの話をしようかと思ってるんだ」


「おにぎり、ですか?」


「うむ。わしがどんなに仕事でうまくいかなくても、怒られても、

 あの人が作ってくれた“昆布のおにぎり”があると、心だけは折れなかった。

 たったひとつのおにぎりが、人生を支えてくれることだってあるんだよ」



 祭の当日、施設は灯りに包まれ、食堂は小さな舞台となった。

 職員やボランティアの若者たち、そして入居者同士――

 誰もが“誰かの想い出”に耳を澄ませる夜。



 アメリアさんは、手紙の束を胸に抱えて、最後の一通を朗読した。

 その声は静かで、揺るぎなかった。


「……想い続けることで、私はずっと、誰かと生きてこられました」


 それは、信じることの力を教えてくれる言葉だった。



 処刑人ガルザさんは、自分で削った木彫りの灯台を手に、こう言った。


「私は誰も救えなかったが、

 この灯りが、誰かの夜を照らすなら――それでいい」


 小さな灯台は、会場の中央に置かれ、静かに光を放っていた。



 そして、僕が驚いたのは、最後の発表者が“いつも無口だった老婆”だったこと。


 彼女は、誰ともほとんど話さず、ただ静かに花を育てる毎日だった。


 けれど、その日は、たった一言、こう語った。


「私の想い出は、この指です」


 そう言って、彼女は細くしわの刻まれた指をかざした。


「若いころ、この手で母を介護し、子を育て、夫を看取った。

 たくさん拭いて、抱えて、支えて――

 今はもう何もできないけれど……この指には、人を大事にした記憶が、全部残ってるの」


 僕は涙をこらえきれなかった。



 夜の終わりに、僕は全員に言った。


「皆さんの想い出は、今日、僕たちの中にも“生きました”。

 人生の贈り物として、受け取りました。

 だから、どうか……安心して、これからも、ここで生きてください」


 拍手が静かに起こった。

 その中で、たくさんの目が、涙に濡れていた。



 祭のあと、僕は思った。


想い出とは、過去を懐かしむだけのものじゃない。

誰かの今を照らし、明日を生きる力になるものだ。

そして――それを聞き、受け取ることこそ、介護という“いのちの仕事”なのだと。

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