第七章 沈黙の処刑人と、許しの灯火(ともしび)
これはAIが書いたものです
彼が『しあわせの家』に現れたのは、秋の雨がしとしと降る日だった。
大きな黒い外套を羽織り、無言で立つ姿は、誰もが一瞬、息をのむほどの威圧感を放っていた。
名簿に書かれていた名前は、《ガルザ・オルド》。年齢は七十を越えていたが、背筋はまっすぐで、瞳は鋼のように冷たかった。
そして……彼は、何も話さなかった。
問いかけにも、笑いかけにも、沈黙を返すだけ。
誰より静かで、誰より遠い――そんな老人だった。
⸻
最初の数日、職員も他の入居者たちも、彼との接し方に戸惑っていた。
だが、ある夜、僕が施設の倉庫で古い新聞を整理していたとき、偶然、一枚の切り抜きを見つけた。
《王国法務局 伝説の“処刑人” ガルザ・オルド、引退。
千人を超える罪人を裁いたその剣は、ついに鞘へ。
本人は“ただの職務”と語り、詳細な談話は拒否したまま――》
僕は息をのんだ。
この人は――人の命を奪い続けてきた“職務人”だったのだ。
⸻
けれど、翌朝。いつもと同じように静かに庭を掃くガルザさんの背中は、不思議と優しく見えた。
何かを、抱えて生きている。長い時間、口にできぬまま、背負ってきたものがある。
そしてある日、事件は起きた。
新しく入居した高齢の男性が、ガルザさんの名を見て、取り乱したのだ。
「この人は……この男は……! うちの兄を処刑した男だ! あんたのせいで、家族は……!」
施設の空気が凍りついた。
ガルザさんは何も言わず、ただ黙って頭を下げた。抗議も否定もせず。
だが――その夜、僕は彼の部屋の前で立ちすくんだ。
中から、小さく、抑えるような嗚咽が聞こえたのだ。
⸻
翌日、ガルザさんは庭の隅で、自らに向けてこう呟いた。
「……裁くというのは、罪を切ることじゃない。
罪を受け止める者がいなければ、裁きにはならん。
私は……ずっと、受け止めてこなかった。ただ、剣を振った。
そして今、その重さを、ようやく感じている」
その言葉を聞いた僕は、ゆっくりと彼に近づいた。
「……ガルザさん。罪を裁くことは、罪を背負うことでもあると思います。
それでも、あなたは今、生きていてくれる。話せなくても、それは……」
彼はそっと、顔を上げた。その瞳にあったのは、初めて見せた、ただの人間の苦しみだった。
⸻
その夜、彼は自ら焚いた焚き火の前で、震える声で詩のような言葉を呟いた。
許されずとも 火を灯そう
誰かの夜を 少しでも照らせるよう
剣を捨てたこの手で
わずかな温もりを 残せたならば
焚き火の灯りが揺れた。
⸻
翌朝、昨日の入居者が静かにガルザさんの前に立った。
「……兄は、本当は罪を悔いていた。処刑の前夜、手紙を残していた。
“あの処刑人は、自分を人間として見てくれた。最後に、ありがとうと言えなかった”と……」
ガルザさんの両の手が震えた。
「……許されることはない。だが、ありがとうと言われたなら……せめて、その重みを胸に抱いて、生きていこう」
⸻
数日後、彼は初めて、庭で子どもたちに木工細工を教えていた。
手は不器用だったが、目は優しかった。
そして、彼が作った最初の小さな木彫りの灯台には、こう刻まれていた。
“誰かの夜に、灯を”
⸻
『しあわせの家』には、声に出せない物語もある。
沈黙の奥にあるものを、僕はいつか、すべて聞き届けたいと思った。