第四章 約束のパンと、旅商人のおじいちゃん
これはAIが書いたものです
ある日、村の広場で、古びた荷車を引いている老人と出会った。小柄で、しわくちゃな笑顔。くたびれた帽子に、よれよれのマント。
「おやまあ、ずいぶんと親切そうな若者じゃな。施設? なるほどなるほど、寝床と飯があるなら、ちょいとお邪魔させてもらおうかの」
彼の名は、トーノ・ベルネリ。かつて「風の商人」と呼ばれた、旅の行商人だった。
『しあわせの家』に来たその日から、トーノさんはいつもパンを焼いていた。大きな手でこね、火加減にこだわり、焼き上がる香りは、どこか懐かしくて優しかった。
けれど、彼が食べることはなかった。
「これは、あの子に食べさせたくてな」
暖炉の前でぽつりと漏らしたその言葉に、僕は耳を傾けた。
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かつて、トーノさんには一人娘がいた。妻を早くに亡くし、旅の行商をしながら、一人で娘を育ててきたという。
「娘は、小麦のアレルギーでな、パンが食べられなかった。でも、パンが大好きだった。匂いだけでも、と言って、焼くたびに目を細めてた」
ある日、トーノさんは薬師に頼んで、特別な麦粉を手に入れた。娘が食べられるパンの材料だという。
「よし、これでお前と一緒にパンが食べられるな――そう言って出かけた先で、盗賊に襲われてな。戻ったときには……」
静かに、薪のはぜる音だけが響いていた。
「娘は、旅先の村で病に倒れ、そのまま……」
トーノさんの顔は、いつもの笑顔とは違っていた。遠くを見つめるその瞳に、長い時間が流れていた。
「それからじゃ。ワシは各地でパンを焼いて、どこかにいるかもしれない娘の気配を探して……でももう、歳じゃな」
彼は焼きあがったパンを差し出してくれた。
「よかったら、若いの、おぬしが食べてくれんか。あの子の代わりに、ひとくちでも」
僕は両手でそのパンを受け取った。少し焦げた、でも心からの優しさが詰まった、世界で一番あたたかい味だった。
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数日後
施設の庭に、小さなパン屋の看板を作った。名付けて、《風のパン小屋》。
「お客は来るかわからんが、まぁ……風任せじゃ」
笑ってトーノさんは言った。
けれど、子どもたちが通りがかるたび、焼きたての香りに誘われて覗いていく。トーノさんは一人ひとりに、娘にかけたのと同じ優しい言葉を届けていた。
「このパンはね、“いつでも帰ってきていいんだよ”って、そんな味がするんじゃよ」
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その夜、僕は日記を開いて記した。
『しあわせの家』には、今日も大切な話がある。
人は忘れていく。けれど、想いは、匂いや味や言葉の中にずっと残っている。
そしてそれを伝えることで、誰かの明日を支えることができる。
僕もまた、少しずつ誰かの“記憶”になっていくんだろうか――