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第7話 王太子の本音と、噂の“本命”登場 

儀式が終わると、私は父や母と共に王宮内の控え室へ移動し、着替えや簡単な休憩を取ることになった。


 ドレスのまま廊下を歩いていると、曲がり角で突然、シルヴィア・バラティエ侯爵令嬢と鉢合わせする。


彼女は淡いピンク色のドレスを着ていた。


その姿はとても華やかだが、こちらを睨みつける目つきは敵意に満ちていた。


 (……やっぱり出てきた)と思わずため息が漏れそうになる。


 シルヴィア令嬢は王太子殿下の“恋人”と噂される存在。学院時代は殿下と同じクラスで、常に殿下の傍に寄り添ってきたのだという。


 彼女は美貌と高い社交性を持ち、明るい性格で貴族の間でも人気があったとか……しかし、その裏で何人ものライバルを遠ざけたという噂も絶えない。


私とはほとんど面識はなかったが、ここで出くわすのは予想通りといえば予想通り。


 シルヴィア令嬢は私を上から下まで舐め回すように見て、嫌味な笑みを浮かべた。


 「あなたがエヴェリーナ・クラール? 随分と急いで“王太子殿下の婚約者”に収まったようね。占術師の予言が出た途端に、ウキウキと乗り出したのかしら?」


 挑発的な口調。周囲には彼女の侍女らしき者が二人ほど控えていて、こちらを嘲り笑うような視線を向けている。


 私はなるべく穏便にすませようと、そっと頭を下げる。


 「いいえ、そんなことはありません。私も、突然の話で困惑しているのです。シルヴィア令嬢が殿下と親しいことも存じておりますし……」


 言葉を慎重に選んだつもりだが、シルヴィア令嬢は苛立ちをあからさまにし、

 「ふん、ならさっさと破談にしなさいよ。王太子妃にふさわしいのは私なんだから」

 と吐き捨てる。


 私としても「できるなら破談したい」と思っている。


けれど、そんなことを口にすれば、さらなる騒動を呼ぶだけ……。


 それを察したのか、シルヴィア令嬢は軽蔑のこもった視線を向ける。


 「まあ、今回の婚約が国王陛下の命令で進められたなら、あなた一人がどうこうできるわけじゃないのは分かるわ。だけど安心して。すぐに殿下は私を正式に愛人として迎えるはず。むしろ、殿下はあなたには目もくれないでしょうから、寂しい新婚生活でも送るといいわ」


 言葉の端々に見下しと侮蔑が混じっている。


 (……なるほどね。この人はこういうタイプだ。自分こそが殿下に相応しいと本気で信じて疑わないんだ)


 私は出来る限り冷静に受け流そうとする。


けれど、彼女の言葉が真実であるなら、私の今後は“名ばかりの妃”で終わり、それこそ家庭の中で疎外される可能性が高い。


 (正直、彼女と張り合うつもりもないけど……こんな侮蔑的な態度をずっと向けられるのはたまらないな)


 すると、侍女の一人が「シルヴィア様、そろそろ控え室へ戻りませんと……」と声をかける。


 シルヴィア令嬢は私に最後の一言を浴びせるように言った。


 「——いいこと? 王妃の座はいつか私が奪う。あなたなんて、ただの“形だけの人形”に過ぎないのだから。まあ、せいぜい私を怒らせないように気をつけることね」


 言い切ると、彼女は傲然とした足取りで去っていく。


 「……ふぅ」


 思わず溜息が漏れた。あまりの敵意むき出しの態度に、少し気圧されてしまった。


 だけど、私も黙って踏みにじられ続けるつもりはない。


 (……どうせなら、彼らが“私を邪魔者だ”と思って自ら婚約を破棄したくなるような状況を作れないかしら?)


 そんな考えが頭をよぎる。


 私はこの状況から解放されたいのだ。


シルヴィア令嬢も「王太子は自分のもの」と主張しているのなら、いっそ私を追い出すように仕掛けてくれれば話が早い。


……もっとも、上手くいかない場合は私が痛手を負うリスクも高いが。


 「婚約破棄モノ」としては、往々にしてヒロイン(私)が王太子に罵倒され、周囲にも冷遇され、最後はすべてから捨てられる……しかし実はヒロインが何らかの“特別な能力”を持っていて大逆転——という展開が定番らしい。


 前世の少女漫画やネット小説を思い出すと、そんなストーリーは嫌いじゃなかった。


 (でも、このままでは“逆転”どころか、ただ不幸に転落するだけ。私には前世の記憶があるし、魔術もそれなりに扱える。幸せになるために何か手はないものか……)


 思考を巡らせながら、私は控え室へ歩を進める。


 その先に待っていたのは、案の定と言うべきか、**王太子殿下からの非情な“要求”**だった——。

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