第5話 婚約の儀式準備
婚約の儀式では、まず私が王太子殿下から「婚約証の書類と婚約指輪」を賜るのが通例となる。
その後、両家の代表(父と王家側の重臣)が正式な書簡に署名し、これを国王陛下へ届け出て裁可が下りる。
さらに、その後日には盛大な“お披露目パーティー”が宮廷で行われる予定だ。
そこには各国の要人、貴族たちが大勢集まる。
普通は婚約発表とパーティーは同日、または数日連続で催されるが、今回は殿下が「パーティーは後日でいい」「すぐにでも形だけ整えろ」と言い出したため、取りあえず“婚約儀式”だけを先行して済ませることにしたのだ。
だからこそ、ドレスや細かい準備があまりに急すぎて、母は悲鳴を上げている。
ドレスは仕立て屋に連絡しても「三日で仕上げるのは無理に近い」と言われ、あわやキャンセルかという大騒ぎ。
最終的には、母が用意していた未使用の高級生地をなんとか縫い合わせ、形にするように交渉し、夜通し作業してもらうことで間に合わせることになった。
宝飾品に関しても、王太子から贈られる指輪はあるにしても、ドレスに合わせる首飾りや髪飾りをこちら側で準備するのが通例。
だが、ゆっくり選んでいる時間などない。
とりあえず家にある“家宝クラス”の装飾品を引っ張り出して、緊急で調整してもらうことに。
このドタバタだけでも、私としては相当ストレスが溜まる。
しかし、もっと大きい不安は、「あのサーシス殿下と婚約して、私のこれからは一体どうなるのか?」ということ。
シルヴィア侯爵令嬢からの嫌がらせを受ける可能性も高いし、王太子本人からも「お前には興味がない、むしろ愛人の方が大事」と面と向かって言われるだろう。
——私としては何とも居心地が悪い結婚生活になる未来しか見えない。
いっそ、殿下の方から“婚約破棄”を切り出してくれればいいのに、と思わずにいられない。
けれど、王族の婚約を一方的に破棄するなど、一大スキャンダルだ。
その事態は国の面子を大いに傷つける。
もちろん私や家が大きく傷つくことにもなるだろう。
(破棄されるならされるで、うちの家名は大打撃——いや、それで済めばまだマシかもしれない。下手したら処罰を受ける可能性すらある)
頭を悩ませながらも、時間は無情にも過ぎる。こうして、あっという間に儀式当日の朝が訪れた。