終幕――転生令嬢は婚約破棄を恐れない
こうして私、エヴェリーナ・クラールは“婚約破棄”という形で不当な縛りから解放された。
国中で噂になった大騒動の末、王太子殿下はその地位を大きく失墜し、シルヴィア令嬢は公の場から追放。
辺境伯クラール家はむしろ「曲がったことを正した家」として評価が高まる結果となった。
私にしてみれば、ただ“自分の幸せ”を手放したくなかっただけ。それだけのことだ。
幸い、私を心配していた両親や兄も、私が凛と立ち回る姿を見て「よくやった」と笑ってくれた。
今、私の指にはもう“王太子殿下から贈られた婚約指輪”など存在しない。それが何よりも、心地よい。
「さあ、次は私の選んだ道を歩む番……」
バルコニーに立ち、夜風を受けながら私はそう呟く。
遠くに見える王都の灯りは、前世でも見たような都市の夜景を思い出させる。
けれど、今度はもう、過労や絶望で潰れてしまう私ではない。
転生令嬢は“愛されない婚約”を自ら破棄し、幸せを掴むために羽ばたく。
そう、私は決して望まぬ婚約や理不尽な扱いなど受け容れない。
前世で果たせなかった“自分を大切にする人生”を選び取ったのだから。
——これが、私の新たなる始まり。
誰が何と言おうと、もう二度と「愛さない相手」に囚われたりはしない。
もしも真に私を愛してくれる人が現れるならば、それは私が“自由”の中で見つける運命だろう。
「さようなら、サーシス殿下。あなたとの婚約破棄を望んだのは私の方……だけど、それでよかったのですわ。
私はもう、あなたに愛されなくとも、愛する人を見つけるし、何よりも自分自身を愛していけますから」
夜空の星が瞬く中、私はそっと笑みを浮かべていた。
――転生令嬢の痛快“婚約破棄”物語は、こうして幕を降ろす。
しかし、これは彼女の本当の人生が始まる前章に過ぎない。
彼女はやがて、望むと望まざるとにかかわらず、多くの仲間を得て、新たな恋と冒険へと歩み出していくのだろう
(完)
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