第16話 婚約破棄への引導――ざまぁの幕引き
騒ぎの中心で半狂乱になっているシルヴィア。
その横で、なんとか自分の保身を図るサーシス殿下。
私は深呼吸して、フロア中央へと進み出る。周囲の視線が再び私に集まった。
「皆様、ご存じの通り、私は王太子殿下の“婚約者”という立場です。しかし、私は今日ここで、この場で、その婚約を“破棄”いたします」
驚愕の声が上がる。「えっ、破棄!? だが王太子殿下との婚約は国王陛下が……」
ランドル殿下も目を見開き、**「エヴェリーナ嬢、今そんなことを言っても……」**と戸惑っている。
しかし、私ははっきりと声を張り上げる。
「そもそも、この婚約は私の意志ではなく“予言”に基づくものだったと聞いております。ですが、結果的に殿下は私を一度も認めず、裏では私を陥れる陰謀に同調していた疑いまで浮上しています。こんな形だけの婚約、私にとっても名誉とは言えません!」
サーシス殿下が焦った様子で私を睨む。
「待て、まだ俺はそんなものを認めたわけじゃ――」
私は殿下の言葉を遮り、毅然として言い放つ。
「王太子殿下。あなたの心は初めからシルヴィア令嬢にあり、私を国の道具としてしか見ていませんでしたね? それは先日の晩餐会でも、ここ数日の態度でも明白です。……たとえ国の命令であっても、そんな人と結婚などしたくありません!」
周囲はやや呆気に取られているが、ここで私が臆しては流れを変えられない。
「クラール家としては、王家に背く意図はございません。ですが、この婚約が国益になるどころか騒動を引き起こすなら、逆に国の恥ともなるでしょう。……よって、私は自ら婚約破棄を申し出ます!」
それは、私の中にあった**「前世からの決意」**でもある。
理不尽な権力の下で、ただ搾取される人生はもう二度と御免だ。
自分の意思で、自分の未来を選ぶ。それがたとえ困難を伴うとしても。
サーシス殿下は茫然としたあと、すぐさま怒りを爆発させる。
「ふざけるな……お前のような女が勝手に婚約を破棄などと! これは国王陛下の勅命だぞ!」
しかし、ここで王弟ランドル殿下が割って入り、低い声で言う。
「サーシス、これだけ証拠が揃っている以上、エヴェリーナ嬢を引き止めるのは得策ではない。シルヴィア嬢との不正も大きな問題となるだろう。下手をすれば、お前こそ王位継承権を剥奪されかねんぞ」
(……ランドル殿下、意外と分かってらっしゃる)
殿下が青ざめる。
シルヴィア令嬢は崩れ落ち、あんなに威勢が良かった取り巻きたちも蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている。
事態を治めるため、ランドル殿下は厳粛な声で私に告げる。
「エヴェリーナ嬢……この場で正式な破棄とは行かぬが、後日きちんと王家の書簡をもって対応しよう。おそらく、その旨は国王陛下も了承されるはずだ。もはや、この一件は王太子にはどうにもできん」
私は深く一礼をする。
「ありがとうございます。クラール家としては、徹底的に調査と報告を行います。その際、シルヴィア令嬢の悪事と、王太子殿下がどこまで加担していたかも余すことなく提出いたしましょう。……以上にて、私からは何も申し上げません」
こうして、私が自ら選び、自ら勝ち取った**「婚約破棄」**が事実上ここに成立した。
サーシス殿下は事の重大さに気づいたのか、後ろ盾を失って激しく動揺している。
「ば、馬鹿な……俺は……シルヴィアが勝手にやったことだ!」
今さらそんな言い訳が通用するはずもない。
既に彼の名誉は大きく傷ついた。
もしかすると、彼の継承権が大幅に下げられるかもしれない。
ざまぁ——私の胸には、すっと清々しい解放感が広がる。




