第13話 影を操る魔術と前世の知恵
晩餐会が終わった夜、家に帰ると早速、私は書斎にこもり“ある準備”を始めた。
机の上には魔力を込めたクリスタルや、古い魔術書、さらに前世の知識で作り出した特殊な道具が並んでいる。
「さあ、久しぶりに使うわよ……“影写しの魔術”」
私が幼い頃から研究していたこの力は、“周囲の空間に溜まる微小な魔力の動き”を感知し、形として投影するもの。
慣れれば**“他人の行動や会話”を遠くから察知して投影できる**という、いわゆる盗聴・盗撮に近い機能を持つ。
問題は、これが国の規範上はグレーな魔術だということ。
個人のプライバシーを大きく侵害する可能性があるため、あまり公には認められていない。
でも、不正に苦しむ人を救うために使うのであれば、私はそれを厭わない。
晩餐会で見たシルヴィア令嬢の様子や、彼女の背後にいる派閥の動向。
何よりも、今回の婚約に絡む王族の腐敗があるなら、私はその“証拠”を掴みたい。
手当たり次第に影写しを仕掛けるのは時間もリスクも大きい。
だからまずは、シルヴィア派が集う場所を絞り込み、そこに意図的に魔力の“トレース”を仕掛ける必要がある。
私の作戦はこうだ。
1. シルヴィア令嬢の取り巻きが出入りする特定のサロンや、派閥の会合場所を突き止める。
2. そこに私が“影写しの魔力”をこっそりと付与した小さな魔石を仕掛ける。
3. 彼らが内部で話していることや動きを、私の手元の魔術道具で受信し、“映像”として記録する。
運が良ければ、王太子を巻き込んだ“重大な不正の計画”や、“私を陥れる決定的な罠”の存在が見えるかもしれない。
そのときこそ、私は白日の下にすべてを晒し、一気に“ざまぁ”へと持ち込むつもりだ。
しかし、一筋縄ではいかないだろう。シルヴィア側も警戒しているし、派閥には優秀な魔術師がいるかもしれない。
(それでも、やってみる価値はある……)
覚悟を決め、私は魔石の準備を進める。
前世のサバイバル仕事術で培った**“準備力”**が、こんな異世界で活きるとは我ながら皮肉なものだ。
「さあ、待っていなさい……シルヴィア、サーシス殿下。あなたたちがどんな手を使おうと、私は冷静に証拠を掴んでから……“婚約破棄”をさせるなり、あなたたちを窮地に追い込むなり、どちらもやってみせる」
脳裏に浮かぶのは、シルヴィアから向けられた憎悪の眼差しと、サーシス殿下の冷酷な警告。
そしてエルマー公爵という外部のキーパーソン。
彼が何を企んでいるのかは分からないが、今は利用できる駒は多いほどいい。
まさに嵐の前の静けさ。
これから起こる事態を思うと、恐怖よりも“燃え上がる”ような決意が私を駆り立てていた。
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