第10話 迫り来るシルヴィア派閥の策謀
王太子サーシス殿下との婚約が“強行”された数日後。
私は辺境伯クラール家の邸宅にて、ドレスも脱ぎ捨てラフな部屋着でソファに沈み込んでいた。
形式的な式が終わった途端に訪れた「虚無感」と、次に来るであろう嵐の気配に、心がざわついて仕方がない。
両親や兄は、今回の急な婚約儀式がどんな影響をもたらすかと頭を悩ませている。
私としても気が重いが、考えていても状況は変わらない。
むしろ、シルヴィア令嬢やその取り巻きが私を排除すべく策略を巡らせていることは想像に難くない。
(さて、どう出るか……)
サーシス殿下からは「余計なことをするな」と強く釘を刺されている。
しかし、“余計なこと”の解釈次第で、私にも対抗手段はあるはずだ。
前世から引き継いだ“資料を調べ、証拠を手にしてから動く”という社畜仕込みの戦略を活かし、私はシルヴィア派の動向を探る決意をする。
すると、早速家に怪しい文書が届いた。
差出人は記されておらず、書面には「あなたの身に危険が及ぶ。
シルヴィア令嬢の背後には強大な権力者がいる」という、脅しとも忠告とも取れる文言だけ。
(……やっぱり動き始めたわね)
同じタイミングで、城下町の知人からも情報が入る。
曰く「クラール家の令嬢は予言の偽物」「実際には王太子の本命はシルヴィア令嬢」といった噂がさらに過熱しているらしい。
私が婚約者として正式に認められなかったとしても、国王陛下の“お墨付き”が一応あるので、私を罵る行為は本来ならば反逆的だ。
しかしそれすら承知で、シルヴィア派閥は私に“存在を諦めさせる”ためのあらゆる工作を仕掛けてくる可能性がある。
(でも、私だって黙って蹂躙されるつもりはない。**とっておきの“切り札”**をまだ使っていないもの)
私がそう思いつつ策を巡らせ始めた矢先、王宮から招待状が届く。
「近日中に、小規模な晩餐会を開催する。王太子殿下および“婚約者”たるクラール令嬢も出席されたし」
——どうやら、早くもお披露目の第一歩として開かれる食事会らしい。
大規模な舞踏会や祝賀パーティーは後日、正式に行う予定だが、今回は緩い顔見せを兼ねているのだとか。
……これはいい機会かもしれない。
シルヴィア派閥がどんな手を使ってくるかを、実際の社交の場で確かめられる。
そう考え、私は意外にも前向きな気持ちでその招待を受けることにした。




