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第一羽 迷子のワタリドリ

初めまして!

旅を愛するものの 世界へ ようこそ!


私の 名前は だだだ

みんなからは トリ 博士 と慕われて おるよ


この 世界には トリと 呼ばれる 生物 たちが 至る所に 住んでいる!


その トリという生物は なんと 人間と同じ姿形をしているのじゃ


トリの中には 旅を愛したり 平和を守ったり 秩序を乱したり 変態がいたり

色んな種類の トリが 暮らしておる!


私は この トリの 研究を している というわけだ

専門用語も ここに 貼っておく

解読に 困ったら 前書きまで 戻ってくれ


ワタリドリ 俗に言う 旅人

カラス   俗に言う 犯罪者

ハト    俗に言う 警察


トリかご  俗に言う 監獄

ヒナドリ  俗に言う 子供


「いや、別に怒ってるわけじゃないのよ。誰しも一つや二つ、失敗はするだろうし、その失敗を糧に成長すればいいの。だから今回の件も、あんたの経験の、つまりはよき失敗談の一つになればって俺は思っているよ。俺はその一つの犠牲にすぎないけど、今後は川を見たら、おじさんが日課の水浴びをしていると思った方が身のためだぜ」



 こんなにも身にならない身のためは生まれて初めての経験だ。

 ギラギラと輝く太陽の下、川の上で、あろうことか全裸のトリが堂々と仁王立ちしていた。そんなはずはないのだが、服を着ているこっちが恥ずかしく思えるほど、さも当たり前のようにふんぞりかえって立っていた。頭髪は毛色が大分白っぽい坊主の中年太りした、トドのような情けない見た目であるが、確かにこの男はトドではなく一羽のトリであった。

 対照的に、俺は河岸で、スネが川の水に浸るようにして正座をする。かれこれ三○分ほど。河岸には大小さまざまな石が集まっていた。小石が岸辺に散らばり、石がスネに当たって痛い。痛みに耐えながらも、俺はなおも正座を続けた。

 目の前で、全裸のトリが川に浸かりながら、血相を変えて俺に説教し続けているからだ。

 俺はいつものように、お気に入りの石を蹴りながら旅をしていた。しばらくして、力加減を間違えて蹴った石ころが、道から外れて空中を舞い、あろうことか川で水浴びしていたこの全裸のトリの額に直撃して、大流血という事故を招いてしまったからだ。

 


「大変申し訳ございませんでした」

「いや、だから俺は怒ってるわけじゃないのよ。わかる?」

「はい、痛いほどわかります」

「は? あんたに俺の何がわかるんだよ」

「いえ、やっぱりわかりませんでした、申し訳ございませんでした」

「だから怒ってるわけじゃないって」



 いや、それは怒っているトリの言い方だ。

 証拠に、このやり取りは今回で四回目である。そう言って怒らなかったトリを俺は今まで見たことがない。俺はチラッと上目遣いで全裸のトリを見上げたが、依然として鬼の形相であり(流血も相まって一層怖い)、俺はぎこちなく目を逸らした。


 そもそも日課の水浴びって何?


 ちなみにここはヌーディストビーチでは決してなく、どこにでもある、至って普通の川。つまりノーマルリバーサイドである。もちろん全裸が許されている場所では決してなく、俺が通報をすれば、もれなくこの全裸のトリをトリかご送りにすることができるだろう。

 まあ、俺は俺で傷害罪でトリかご送りかもしれないが。。

 だから俺はジッと堪えて、静かに川に浸かって説教を受けていた。



「てかさ、この俺が誰かって、あんたわかってるわけ?」

「……いえ、勉強不足のため、存じ上げません」

「はあ? この辺りに住んどいて、俺を知らねえっていうの? この辺り一帯を牛耳っている、泣く子も濡らす”水面(みなも)のワタリドリ”とは俺のことだ。これでもそこそこ有名だと思うんだけどね」

「いえ、俺はこの辺りのトリじゃありませんので。申し訳ございません」



 水面(みなも)のワタリドリ?

 おいおい、よく呼びすぎだろ、実態はただの変態水浴びおじさんだろ。



「この辺りのトリじゃない? ……もしかして、あんたもワタリドリなのか?」

「はい、恐れながらヒソヒソと」

「そうか、そうか、道理でここらじゃ見ない顔だと思ったよ。こんなクソ田舎でよそ者とは珍しいな、少しだけ、あんたに興味を持ったぜ」



 水面(みなも)のワタリドリは納得感を示すように、力強く手を振り下ろし、尻を叩いた。乾いた音を立て、まるで空間全体がその小汚え音に包まれるかのようだった。



「異名は? あんた、巷でなんて呼ばれているんだ?」

「異名?」

「ああ、俺たちワタリドリは一羽ごとに、そのワタリドリの生き様や心根を表す異名が付けられているはずだ。俺からしたら、あんたはまだまだヒナドリだが、逆にその若さでこれまでにどんな旅路を歩んで、どんな異名で呼ばれているか興味がある」

「異名、異名ねえ」



 俺は引っかかる言葉を誤魔化すように頭をかいた。

 水面(みなも)のワタリドリは、俺が同じくワタリドリだと知ると途端に雰囲気が変わり、その表情や言動に心が躍るような感覚が広がった。尻尾を振る犬のように、下半身に付いているゾウさんの鼻をブンブンと揺らして好奇心を表していた。

 それもそのはず、この世界でワタリドリ同士が出会うのは極めて稀だった。俺ですら、最後にワタリドリと出会ったのは半年以上前に遡る。

 ワタリドリとは今までの歴史において、何かしでかしたわけではなく、何かされていたわけでもなく、俺が生まれた時からワタリドリとはそういう生き物であると認識されていた。例え石を投げられて血を流しても誰も助けてくれない、餓死一歩手前でも誰も餌を分け与えない、俺が生まれた時からワタリドリには、そのような訳ありの常識が深く根付いていた。

 つまり、この世界でワタリドリを名乗るようなトリは、不自由を好み、まともな脳みそを持ち合わせていない、物事を一般的に考えることができない、極めて変態的なトリなのである。嫌われて当然だ。

 水面(みなも)のワタリドリの言うとおり、ワタリドリにはそれぞれ異名が存在する。ワタリドリ、それだけで世界を敵に回すには十分に不名誉な肩書きであるが、俺の異名はそんな不名誉な肩書を、より変態性を増幅させるような異名であった。



「俺は」



 俺は一つ大きく深呼吸する。言葉にするその瞬間、やはり、胸の内では拒否したい感情が渦巻いていた。言葉を口にしようとするが、そのたびに吐き気を催し、喉元で詰まってしまう。俺の心情は混乱し、苦しさに満ちていた。



「”迷子のワタリドリ”だ」



 ぶっきらぼうに投げ捨てた言葉は、どこに向かうでもなく、ふらふらっと彷徨いながら消えていった。

誤字脱字、指摘、感想大歓迎です


ですが初投稿なので多めに見てクレメンス

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