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週末デート(1)

「今週末、私と一緒にK市に行かない?」

 金曜日の放課後、巨大な手の化け物を倒した後、麗が言った。

「パフェ食べたり、ショッピングしたり、しましょう」

「いいね!」

 茜は目を輝かせたが、すぐに目を伏せた。

「でも、私、交通手段がなくて。自転車になるし……」

 I県K市は隣の市だが、中心街までは山を越えてから車で三十分ほど進む必要があり、気軽にいける距離ではない。

「問題ないわ。私のいつもの運転手の方にお願いして、一緒に行きましょう」

「うん! それなら行く!」


 * * * * *


 土曜日の午前9時半、茜は自宅前に立っていると、ワゴンタイプのシルバーの車が目の前で止まった。

「ごめんなさい。一分ほど待たせたかしら」

 車の窓から顔をだし、麗が言った。

「ううん、大丈夫。待ってないよ」

「さ、乗って」

「お邪魔します!」

 後部座席のドアを麗が中から開け、茜が入った。


「校門前では黒い車ばかりだったけど、今日は違うんだね」

 車が出発して間もなく、茜が聞いた。

「今日は運転手の横田さんの自家用車よ」

「あ、そうなんですか」

「はい」

 横田はバックミラー越しに会釈した。

「横田さんは普段父の会社で働いているのだけれど、朝夕の送り迎えは社員の給料とは別途、父が懐から出しているみたい」

「退社後の副業バイトみたいようなものです」

 と横田。

「普段の黒い車、ベンツなのだけれど、あちらは社用車なので休日出勤とかでないかぎりは使えないの」

「その代わり、私の車を出しました。あ、交通費や運転手としてのお手当はお嬢様からいただいているので、お気遣いなく」

 茜は社会人ではないので、何故普段の車が使えないのか理解できなかったが、そういうものなのだろうと納得した。


 三十分ほど車を走らせると、中心地が見えてきた。

「わあ」

 茜は感激した。隣県とはいえ、I県K市の繁華街にくるのは数年ぶりで、綺麗に舗装された道路、街路樹、整列した雑居ビルや施設はすべて魅力的に映った。

 普段自転車で走っているでこぼこな田舎道とは大違いだ。

「まずは、フルーツパーラーでパフェを食べましょう」

 麗はお嬢様なので豪華なものは食べ慣れているはずだが、茜と出かけるのが楽しいようで、うきうきと心躍らせていた。


 フルーツパフェの店は、存外に空いていた。開店間もないので、これから混んでくるのだろう。

奥のほうの席に座り、麗はジャンボフルーツパフェ、茜は苺ケーキパフェを注文した。運転手の横田は所用でどこかに消えてしまっていた。

「ところで、部活はどうするの?」

「うーん。それなんだけど、魔法研究会の残りひとりのメンバーに会ってみようと思う」

「たしか、引きこもりの方でしたね」

「そう。だから、今度、先生に住所を聞いて、行こうと思うの」

「それなら、私も同行します。どんな方か興味もありますし」


「シュッシュッと! シュシュシュッと!」

 店外から甲高い男の声が聞こえた。禿頭でぽっちゃりとした体型の男だ。しきりに手を上下に動かしながら歩道を歩いていた。

「妖怪!?」

 茜が素早く席を立ったが、

「たまに街で見かける、ちょっと変わった人間だと思いますわ」

 麗が制した。

「え、でも」

「シュシュシュッシュシュシュッシュッシュッ! シュシュッと~」

 男は相変わらず奇妙な言動をしていた。

「気にしていたら、都会では暮らせないわ。色々な人がいるのだから」

 その時、「お待たせしました」と店員がパフェを運んできた。

「わ~。美味しそう」

 茜の興味はすぐにパフェに移った。


 フルーツは新鮮で甘く、パフェを構成する生クリームやアイスクリームも絶妙だ。ファミリーレストランのパフェと異なり、ボリュームがあって食べ応えがある。

「そういえばさ、あの後、パラレルワールドについて、ちょっと調べたんだ」

 茜は苺を頬張った。

「スマフォで調べたんだけどね。まだよくわかってないんだけど、こちらからあっちの世界には行けないんだよね?」

 茜の問いに、麗は生クリームをすくったスプーンを止めて答えた。

「そうね。ただ、おじさまの研究所は観測しているだけって言っていたけれど、どうなのかしら」

「どうって?」

「観測しているなら、パラレルワールドを跨いでいる存在を確認できたりしているのではないかと考えたの」

「ふんふん」

 茜は新聞記者のようにメモを書くジェスチャーをした。

「私たちにとっては、連続している世界だけど、観測者にとってはそうではない事態もありうるのかも。たとえば、茜ちゃんが変身した日を第一話だと仮定したら、”あれ、今のこの場面の茜が一話の時と少し違うぞ。おかしいな。いつの間にか観測しているパラレルワールドが変わったのか“……みたいな感じでね」

「ふむふむ」

「茜ちゃんはいつも、この癖がついているじゃない」

 そう言って、手を伸ばし、麗は茜のショートカットの後ろ髪を触った。

「癖ではなく、トレードマーク!」

「一話では左に髪が跳ねていたけど、この回では右に跳ねているぞ、みたいな」

「あはは。私だったら、気づかなさそう」

「ミステリ小説では、よくある伏線だわ」

 麗はクールビューティな笑みを浮かべた。

「食べ終わったら、カラオケに行かない?」


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