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古都からの使者(3)

「理事長、例のメールは見ましたか?」

 誠が聞いた。最終日、またしても彼は理事長室を訪問し、ソファに座っていた。

「うむ。大変興味深い内容だね」

 理事長は勿体ぶったように顎髭を触った。

「日向野さんに、あのような秘密があったとはね。資料に目を通して、腑に落ちたよ」

 彼は笑顔を作り、言う。

「魔法少女たちには、どこまで教えたかね?」

「いえ、まだ、何も」

 誠は居ずまいを正した。

「まあ、言わないことに越したことはない。――麗は聞きたがりなのだが、大丈夫だったのかね」

「はい。どうやら僕を嫌っているようで、あまり喋りたくないようです」

 誠は苦虫を噛み潰したような表情をした。

「なるほど」

 理事長はニヒルな笑みを見せた。


 * * * * *


 いつも通り中庭でお弁当を広げる少女たち。

 麗は三日目となると厳しくなったのか、本日はベーシックなお弁当だった。

「さすがに、三日連続で重箱はきついわ。食べるのも作るのも」

 と彼女はクールビューティに笑った。

「そういえば」

 希が小松菜の胡麻和えと嚥下すると、言った。

「うちの担任の小橋、そろそろ退院するらしいよ」

「あら、そうなの」

 麗が相槌を打った刹那、

「じゃあ、魔法研究部で、退院パーティしないとね」

 茜がウキウキして言った。祝う気持ちよりも美味しいものを食べたいという欲求でパーティをしたいようだ。

「なにか楽しい話でもしているのかい?」

 誠が現れた。

「……」

 途端に茜は沈黙し、麗はそっぽを向いた。

「お兄ちゃん、また来たの」

 希はゲンナリしていた。

「君たちの、魔法少女に耳よりな話をもってきたのにな~」

「ちょっと、やめて」

 希は彼の話を遮った。

「私も、この場所で、そのような話はやめていただきたいわ」

 麗も同調した。

「はあ。そうか。では、僕自身の能力を話すのは問題ないかな?」

 少女たちは「Yes」も「No」も言わないが、構わず誠は続けた。

「僕は変身こそできないが、何故かモンスターたちとコミュニケーションがとれる。それは昨日見たよね?」

 彼は聞くが、誰も頷かない。

「まあ、いい。そのスキルがあるせいか、カザマ学園の理事長に気に入られてね。ちなみに、カザマ学園も同じ研究施設があるし、同じように化け物は出るよ」

「……」

 茜は相変わらず沈黙を貫く。麗は耳だけを傾けていた。希だけが複雑な表情で誠を見ていた。

「そのスキルの反動のせいか、君たちのような魔法を使える少女たちからは嫌われるようだね。一般的な女性には好かれるのだが」

 彼は前髪を掻きあげた。

「その性癖のせいで嫌われるのでは」

 麗は小声で毒づいた。

「え、ちょっと待って。お兄ちゃん」

 希が戸惑った顔をして、兄の話を止めた。

「ということは、あっちの学園にも私たちみたいな子たちがいるの?」

「そうだよ」

 彼は妹に慈愛をこめた表情で頷いた。

「え、知らなかった……」

 希は驚愕していたが、麗は半ば予想していたことだったので驚きはなかった。茜は話の流れをわかっているかどうか不明で、空を眺めていた。

 十秒ほどの沈黙が流れ、茜は唐突にポロリと泣いた。

「明先輩に会いたい」


 * * * * *


 放課後、部室で三人は小橋の退院パーティの会議をしていた。

「会場はここでいいとして、やっぱケーキだよね!」

 茜が明るく言った。さきほどまで泣いていたとは思わせない言動だ。

「美味しいケーキ屋さんで購入するか、自分たちで作るか、どちらがいいかしらん」

 麗は顎に手を宛て、首を捻った。

「うーん」

 希も同じく首を捻った。

「そういえば、一度食べたことあるけど、K市にあるメーポルハウスも美味しいわ」

 麗が言うと、

「あ、あそこ美味しいよね。私はデパートにある支店の方だけど、美味しかった」

 希が垂涎するかの如く反応した。

 その後も女子トークをしていると、

「あら、何かしら、外が騒がしいわ」

 部室の外から、男女が言い合いをする声が聞こえていた。

 ドアを開け、三人はそっと外を見た。


「ひ、ひどい。私はアソビだったのね。に、二枚」

 枚数数え幽霊だ。相手は誠だった。

「いや、違うよ。誤解だって! たまたま女の子のおパンツがポケットに入っていただけなんだ!」

 彼は必死に弁明をした。

(たまたま入っていることなんて、ないよ。苦しい言い訳)

 希は我が兄の醜態に苦笑した。

「ゆ、ゆ、許せない。に、二枚、三枚」

 幽霊は誠の首を絞め始めた。

「これは流石に危ないですわ」

 麗が二人に近づいた。

「は、早く助けてくれ」

 息も絶え絶えに彼は言った。

「しょうがありませんね」

 麗は氷パンチを幽霊に食らわせると、吹っ飛んでいった。

「ない、ない、”ママレンコン・ボーイ”のブルーレイディスクが、なーい」

 と幽霊は叫んで、誠に突撃していった。

「だから、ネットで買えばいいですわ」

 麗は氷の刃で幽霊を切り裂いた。

「転売ヤーからは買いたくないんだよお」

 と言いながら、幽霊は黒いもやとなって消えていった。

「ふう」

 麗が嘆息すると、

「ありがとう。セニョリータ」

 誠は手を握ってきた。

 茜が無言で彼を押しのけ、麗から引き離した。

「麗ちゃん、手を消毒しないと」

 彼女は、携帯用のアルコール消毒のスプレーを、これでもかと麗の手にかけていた。

「茜ちゃん、流石にそれはやりすぎ」

 希は言う。

「麗ちゃんの手がカサカサになっちゃう」


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