第一話(三)
コンビニを出て近くの公園に入るといつも座っている道沿いのベンチに座り、いそいそとエコバッグを開けてあたたかな肉まんを取り出した。湯気がたっている肉まんにさっそく一口かぶりつくと、口のなかにじゅわっと少し熱い肉汁が溢れる。
「んー!」
声もでないほどのおいしさに、みのりははふはふさせながら嬉しそうにその口のなかの肉まんを飲み込み、やはり先ほど買ったペットボトルのお茶を喉に流し込む。
「やっぱりこれからの季節は中華まんよねっ……!」
美味しさに感激しつつそう言いながらまた一口頬張ろうとすると、ふと目の前にキラキラした瞳の少女がちょこんと立っていることに気がついた。少女はまだ小学校低学年くらいだろうか、真っ白いリボンを使ってポニーテイルにした髪をわずかに揺らしながらみのりの手にある肉まんをじっと見つめている。ちょっと変わっているのは、その少女の髪の色が年齢にそぐわない、けれどとても綺麗な銀がかった白い髪で、身に付けている服もまるで巫女さん風の白い上衣に赤い袴の着物姿ということだった。
そんな少女が、よだれをこぼしそうになりながらみのりの食べている肉まんをじっと見つめているのだ。その様子がどこか可愛らしくて、みのりは少し首をかしげながら、
「……おなか、すいてるの?」
そう、思いきって聞いてみた。目の前にいる少女は一瞬きょろきょろとしてから自分に問われていると気づいたらしく、大きな瞳を何度もぱちぱちとさせる。その瞳はどこか神秘的な琥珀がかった色をしていて、それもこの少女にどこか浮き世離れしたような感じを与えているのだな、と改めて気づかされる。
「うん、あなた。もしかしておなかすいてる? これ、ひとくちたべる?」
できる限り優しい声音で尋ねてみると、少女はこくりと唾を飲み込んでから大きく頭を縦に振った。その様子がひどく愛らしくて、みのりは少女をベンチのとなりに座るようにちょいちょいと手招きして、それからとなりにちょこんと座った少女に肉まんを一口大にちぎって渡してやる。すると少女は目を更にキラキラ輝かせて肉まんを受けとると、それに勢いよくかぶりついた。一口ぶんはあっという間に口のなかに消え、少女はまるでリスか何かのようにほっぺたを大きく膨らませてもぐもぐと顎を動かしている。小動物めいたそんなしぐさがひどく可愛らしくて、みのりはついほほを緩めてほっこりとしていた。
それと同時に、この子の家族は近くにいるのだろうか、ひとつ間違えたら誘拐犯かなにかと勘違いされないだろうか、そんな不安も脳裏を掠める。みのり自身も幼い頃から『知らない人と話をしたり、知らない人にものをもらったりするのはいけません』なんて風に教わってきたから、あとで変な噂がたったりしないだろうかと心配になるのはある意味当然なのかもしれない。それでもその女の子はそんなみのりの不安をよそに口をもぐもぐさせながらちょっと小首をかしげて見せる。そのさまはまるで野生動物がこちらを覗き込んでいるときのようで、なんとも愛らしく見えるからこまったものだ。
「もう一口たべる?」
ついついみのりも嬉しくなって問いかけるが、少女は一瞬戸惑うように首をキョロキョロとさせたのち、不意にぴょこっと立ち上がってさっきとは逆にちょいちょいとみのりを誘うように手招きした。
「……え?」
みのりが瞬きをすると、少女はパッと身をひるがえしてゆっくり歩きだした。その様子を見て、みのりは慌てて荷物を持つと少女のあとを歩いてついていく。
――なんだかまるで、不思議の国のアリスになったみたい。
小さな女の子を追いかけて歩く構図は、前を歩く少女がもし白兎の扮装をしていたら、確かにあのおとぎ話の主人公に見えるかもしれない。そんなことを思いながら、みのりは足を動かしていた。