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肉じゃが稲荷の双子狐  作者: 葵くるみ
3/12

第一話(ニ)


 コンビニに入店するとき独特のメロディが流れ、自動ドアががーっと開く。

「いらっしゃいませー!」

 店員の明るい声が店内に響く。学校帰りの道沿いにあるコンビニは、みのりのしょっちゅう訪れる、いわゆる馴染みの店というやつだ。特にこの時間のコンビニは、顔馴染みの店員もいたりすることもあって、彼らとは支払いのときなどに何気ない世間話なんかもしたりする。今日のレジに立っているのは、少し長い髪を後ろでゴムで留め、ヘアピンも使ってきっちり留めている細身の青年だった。

「……あっ」

 みのりはにっこりと笑顔を浮かべて、それから小さくレジに向けて手を振る。それに気がついたらしい青年も、小さく苦笑いを浮かべながらみのりの方を見た。

 あのバイトの青年は、みのりの中学時代の先輩だ。今は高校を卒業しているその先輩は、美容師になるために専門学校に通いながらこのコンビニでアルバイトをしているのだった。今日はその先輩がちょうどシフトだったらしい。

(いつもながら先輩きれいだよねぇ)

 美容師志望ということもあるのだろうか、その先輩は男性ながら中性的な魅力が強くあって、中学時代の頃から男女ともから人気のある人だった。当時は生徒会の会長を務めていたりもしたし、いわゆる才色兼備、天は二物を与えるというイメージの強い人だったのだ。

 だからみのりも先輩のファンだったし、そのために中学では委員会活動をがんばって、少しでも顔や名前を覚えてもらおうとがんばったのだ。その甲斐もあってか、委員会でのもろもろの経験が高校受験ではずいぶん役に立っていたようだが。そしてありがたいことに先輩にも学年が少し離れているが名前や顔を覚えてもらえていて、それもずいぶんと当時は嬉しかったものだ。そして今も手を振り返してくれる先輩に対して、みのりは尊敬とほのかな憧れを抱いている。

 とりあえず腹ごしらえ用の菓子パンとおにぎり、ペットボトルのお茶をとり、更に虫おさえ用のキャンディとチョコレートもレジかごに入れると、ホクホクした顔でレジにそれを持っていく。

「井原先輩、お久しぶりですっ」

 そう言いながらみのりがかごをレジに置くと、先輩――井原優は少し懐かしそうにうなずくと同時に、かごの中身を見てまた苦笑を浮かべた。

「相変わらず米内はよく食うなぁ。これ、夕飯じゃないんだろ?」

「はい。あ、ついでに肉まんもひとつ」

 みのりはレジ横に並びだした中華まんの入れ物を見てちょっと照れ臭そうに追加を要求する。井原先輩はかごの中身のバーコードをレジに通しながら、またクスクスと笑った。

「食っても太らないのは本当に羨ましいけれど、あんまり変などか食いはするんじゃないぞ? まあ、米内ならその辺は大丈夫だとは思うけど」

 みのりの標準体型をしみじみと眺めながら指摘されるとなんだか照れ臭くなって、さすがのみのりもほんのり顔を赤らめた。みのりの大食らいは小中学生の頃から学校内ではすでに有名で、だから中学で面識のある先輩はもちろん知っているし、更にこのコンビニではしょっちゅう買い物をしていることもあってすっかり食べ物の趣味嗜好まで把握されてしまっている。

「わ、わかってますよ……」

 でも空腹には逆らえないのだ。太らないことも含めて特異体質の一種と思い、みのり自身も諦めている。実際、自分の食費だけでエンゲル係数上昇待ったなしなので、夜は賄いつきの居酒屋兼小料理屋でアルバイトをさせてもらいつつ、賄いの夕飯だけでなく作り過ぎてしまった料理などを持ち帰っていいという優しい小料理屋の店主夫妻にずいぶん助けてもらっている。そのことを先輩に話すと、

「そりゃあ、優しい人に拾われたな。そういうご縁は大事にしたらいい」

 そう言ってにこっと頷き、みのりの差し出したエコバッグに購入した食料をひょいひょいと器用に入れてからそれをみのりに返すと、スマホ決済をすませたみのりは嬉しそうに顔を輝かせながらエコバッグを受け取り、先輩の

「ありがとうございましたー」

 という声と、入退店時の耳慣れたやわらかいメロディが彼女を送り出した。


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