第一話(一)
――そんな夢を見たのも忘れてしまってから何日もたった、ある晴れた秋の午後。
青い秋空には、ぽっかり浮かんだ白い雲がふわふわと。
「……あの雲、ソフトクリームみたい……おいしそう……」
そんな雲を見つめながら、長袖のブラウスとニットのベスト、紺のスカート、それにリボンタイを身に付けた少女が一人歩いている。見るからに学校の制服といった風体の少女は確かに近所の高校に通っている二年生で、背中には教科書やノートを詰め込んだリュックを背にしており、今は下校途中だった。
「あー、おなかすいてきちゃった……」
少女がそう呟くのと同時に、きゅるるるる、とお腹のなる可愛らしい音が響き渡った。
彼女――米内みのりは小さくため息をついてから、ポケットに入っているキャンディをひょいっと口に放り込む。甘いキャンディを口のなかで転がして多少なりとも空腹感を紛らわせながら、またみのりはとことこと帰り道を歩きだした。ポケットに入っているスマートフォンを確認すると、デジタル時計は午後四時を数分ばかり過ぎていて、なるほど空腹にもなるわけだ。
ただでさえ彼女は大ぐらいで早弁夜食は当たり前、一日五食は軽々食べられるというタイプなので、この時間になると空腹になるのはどうしても免れない。だからキャンディなどはいつもポケットに忍ばせているし、下校途中にコンビニによるのもしょっちゅうのことで、結果として一日の総摂取カロリーは恐らくとんでもないことになっているのではないだろうか、いやそうに違いあるまい。しかしみのりの見た目は非常に標準的で、まさか毎日のようにとんでもないカロリーを摂取しているようにはまったく見えない。むしろ胸はさほど大きくもなく、それをコンプレックスにしているくらいだ。染めたりしたこともないのにわずかにピンク色がかったようにも見える茶色い長い髪を後ろでひとつに結っていて、学校でも決して目立つ方ではないが、それでも愛嬌のある笑顔を持っている憎めないところのある少女だった。
それにしても空腹感はそう簡単に止めることができるわけではないし、とわずかに手を腹部にあて、少ししょんぼりしながら歩く。それでも我慢できるわけではなく、近くのコンビニにふらふらと引き込まれるように入っていった。