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肉じゃが稲荷の双子狐  作者: 葵くるみ
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第一話(十一)

小鳥の鳴き声が聞こえる。いつの間にか朝になっていたらしい。また涙が頬をつたっていて、涙脆いのはいつ頃からだったかと思い返す。

 それから目覚まし時計を見て、思わず悲鳴をあげそうになった。今から行くと遅刻確定だ。それでも急いで支度をして、特に腫れぼったくなっている目はよく冷やして、急いで家を出た。

 父親は今日も早く家を出たのだろう、もう家にはいなかったけれど、せめて起こしてくれればとほんの少し恨めしく思う。それでも遅刻は自分の責任だし、仕方が無いので急いで走ることにした。くつをはいて扉を開ける。と、

「――えっ?」

 驚いたのはその次だ。くるんと言うかぐにゃりと言うか、目の前の景色が一瞬大きく歪んで、次にはっと気がついたら学校の校門前だったのだ。何度瞬きしてもそうなのだから、きっとこれも神様の持つと言われる神通力とかいうものなのだろうか。こうやって見るとやっぱり昨日のことは夢ではなかったのかと思い知らされるが、まあ今更言っても始まらない。それに便利なものは使わせてもらうことにしよう。

 そう開き直って考えながらカバンの中身を用意していると、どこか浮ついたクラスメイトの声が聞こえてくる。

「転校生? こんな時期に?」

「うん、よく分からないけど職員室はそんな話してたよ」

「男? 女?」

「男! それもめっちゃイケメン!」

 道理で教室がいつもよりザワザワしているわけだ。と、

「あっ、みのり、おはよー」

 話しかけてきたのはクラスメイトでも仲のいい相模さちという子だ。名前の通りというかついていることの多い子で、当たりくじ付きのお菓子は二回に一回は当たっているのではないだろうか。

「ね、転校生ってどの席になるかな?」

 そう聞かれると、みのりはうーんと軽く悩んでから、

「どこか空いてる席にとりあえずなるんじゃないかな、まだ新しい椅子とか見当たらないし」

 と、適当に答えておく。正直あまりそういうのに興味のある方では無いのだ。まあ、そんなにイケメンというのなら、ひと目拝みたくはあるが――そう思っているうちに、朝のショートホームルームが始まる。

 担任がやってきて、生徒たちが慌てて席に着くと、担任はひとつ咳払いをしてから

「今日から転校生が来ることになった。入れ」

 そうドアの向こうに声をかける。そしてやってきたのは――学ランに身を包んだ、あかりだった。

(……は?)

 みのりは驚いたけれど、クラスメイトたちは彼のイケメンぶりに声を上げている。確かに整った顔立ちだし、イケメンには違いないが。とはいえもしかしたら、多少周りに印象操作みたいなことをしているのかもしれない。……神様の力とか、そういうことには詳しくないけれど、恐らくそういうことなのだろうとは推測できる。

「米内あかりくんだ。このクラスにいる米内みのりとは元々双子の兄妹だったが、家庭の事情で長く離れて暮らしていたそうだ。本来同じクラスに双子が在籍するのはあまりないが、本人のたっての希望ということもあってこのクラスに編入することになった。みんなよろしく頼むぞ」

「米内あかりです。そんなわけで妹ともどもよろしくお願いします」

 そう言うとあかりは何食わぬ顔でみのりの横に机と椅子を持ってきて座った。小さな悲鳴のようなものがあがるが、それより何より、なんでここにいるのかを知る必要がある。

「ちょ、なんでここに。しかも双子って……」

「いやさ、現代の事情を知るにはこういうところにいる方がいいかと思ったんだけど。それにみのりの様子も見ておきたいし。あと、双子なのはある意味間違ってないだろ?」

 最後の言葉はみのりにしか聞こえないくらいの声でそっと囁いてニヤッと笑う。

「それよりさ、後でちょっと来てくれないか」

 一瞬その言葉に目を瞬かせたが、おそらくあの祠に関わることなのだろう。小さくこくりと頷いた。


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