第一話(十)
――夢を見た。
真っ赤な炎の中で、ふわふわの子狐、いやふわふわのしっぽを持った少女が逃げ惑っている。あれは昼に出会ったおはぎと名乗った少女だ、と気がついて、
「おはぎちゃん、ここは危ないから! 逃げて!」
思わず大きな声で叫ぶ。みのりの存在に気がついたであろうおはぎはわあっと涙目で自分の方に駆け寄り、
「みのりちゃん! ここ、ものすごく熱いし、あちこちに火がついて……こわい……!」
そう言って抱きついてくる。触れてみると少女はブルブルと震えていて、そう言えば野生の動物は火を嫌うのだということを急に思い出した。それがこの火事では本当に怖かったに違いないと、みのりはよしよしとおはぎの背中を優しくとんとんと撫でてやると、おはぎはますますわあん、と泣き出してしまう。
きっとこれは、神社が燃えたという空襲のフラッシュバック、追体験なのだろう。非常にリアルで、頬にかかる熱風や周りの悲鳴すらも悲しいくらいに覚えのある光景、いや記憶なのだから。
「みのりちゃん、はやく逃げないと、燃えちゃう……!」
もともと人懐こそうな少女がわんわん泣きながら自分と一緒に逃げようとするのは、本当にありがたい心づかいで、おはぎの優しさが伝わってくる。けれど、今は――。
(ごめんね)
みのりは小さく心の中で囁くと、ぎゅっとおはぎを強く抱き締めた。……こうしていれば、おはぎは助かるはず。例え、自分はどうなろうとも。
「みのりちゃん?」
焦りを混じえて問いかける少女に、みのりは優しく囁きかける。
「――あなただけでも、生きのびて」
「みのりちゃん? いやだよ、だめだよ!」
どんどん、と強く胸を叩かれるが、それでも決めたことは譲れない。この子だけは守るのだ。何としても。
だんだん背中が熱くなる。ああ、息ができなくなる。熱い。苦しい。
死とはこういうものなのかと改めて思い知る。不思議なものだ。きっと今までにも輪廻は繰り返していたはずなのに。
そしてとうとう少女を抱きしめたまま、動けなくなった。最後の力を振り絞って、口許に小さく弧をつくる。腕の中の少女を安心させるように。
(でも、……もう一度、おにいちゃんに会いたかったな)
そこで意識は途絶えた。
体調不良で更新遅れてすみません!




