うさぎサスペンス
ここはどこだろう。
目覚めたばかりで意識がぼやけている。
ずっと夢をみていた。
夢こそが現実であった気がして、自分がなにものなのかも定かではない。
薄暗い場所で伏している。
離れたところにスポットライトの光があった。
あそこがステージだとしたら、ここは舞台袖だろうか。
ライトに照らされているのは…………。
もしかしなくても虎でタイガーな大型の肉食アニマルにしかみえないな王者の風格がすごいもの逃げようか全力を尽くして逃げようか。一気に目が覚めたはどうしようこれ喰われるは気づかれたら絶対喰われるわ思い出したわ自分がどういう存在か! ちょっと待って落ち着こうか感覚ビンビンになってわかるけど背後にもなんかいるね自慢のラビットイアーで大きめの寝息をとらえたもの!
呼吸を止めて、後方、薄暗い闇のなかにいる者の正体は…………。
詰んだ。
前方には不動の猛虎。後方には居眠り龍。リアルホラーとファンタジーホラーに挟まれた絶望の兎。
字面だけなら負けていないが、動くことも跳びはねることもできない。
なぜこんなことに。
なぜこんなところにいるのだろう。
ここはいったい…………いや、自分は、たしか…………ブラボー?
どこからか歓声が聞こえる。どんなすごいことがあれば「ブラボー!」と叫べるのかわからないが、歓喜の声が、感情が、想いが、伝わってくる。
不動の虎が、寅さんが、こっちをみていた。
期待の込められた視線を感じて、ようやく思い出した。
十二の支による円循環。
そうだった。
待っていたのた。
ずっと出番を待っていた。
スポットライトのもとを去り、反対側の舞台袖へ歩をすすめる寅さん。
任された。
想いを受け継ぎ、ぴょんぴょんと光のもとへ跳ねてゆく。
わたしの出番がきた。
わたしの時代がやってきた。
わたしこそは、選ばれし一羽の兎である。
「今年こそー、いっとーとーせん!」
まばゆい光をあびながら、わたしは叫んだ。