7、政治紛争
帝国オーハは世界統一に成功し、巨大政党「世界政府オーハ」が世界の政治を行うようになった。
当初、右派が独裁的に世界の秩序を取り決めていた。
世界統一を果たした実績があったし、強力なオーハの軍隊を囲っていたから誰も右派に逆らえなかった。
しかし、最近は左派が台頭していた。
当初、左派はオーハの帝国主義に待ったをかけていた。当時は力が弱く、右派の快進撃を止めることができなかった。
いまはオーハの審判などの反省から、左派が力を付けつつあった。
帝国主義というのは勢いに乗っているときは強い。
しかし、ひとたび世界を統一して、もう攻める場所がなくなると脆さを発揮した。
宇宙都市開発も、左派に多い優秀な学者に頭を下げるほかないから、右派はだんだん偉そうにできなくなった。
オーハが誇る魔動機の数々は左派の技術力あって成り立っているものだった。
右派の代表は「アルゴーンド・オールアビリティ」という男が担っていた。
アルゴーンドは皇帝オーハの片腕として、オーハの世界統一を主導した人物だった。
戦好きの男で、いつも戦争をやりたがった。それが功を奏して世界統一したが、最近はオーハの審判などで評判を落としていた。
左派の代表は皇帝オーハが担っている。オーハはオーハの最終血統を継いだ皇帝だ。
オーハは43歳になったとは思えない美貌の持ち主でもある。
オーハの血統は昔から美しかった。
かつてのオーハの血は「王国を斬る者」と恐れられたものだが、最近は柔和傾向にあり、現オーハ皇帝は左派だった。
ただし、世界統一と同時にオーハは自ら皇帝の冠を捨て、世界政府オーハとして新たな政治方針を取り、自身はアドバイザーとして隠居していた。
ところが最近になってアルゴーンドの暴走を止めるために、政治を主導する立場に復帰していた。
かつては共闘したが、いまや左派と右派は真っ二つに分かれ対立していた。
アルゴーンドはいま宇宙都市にいる。
140棟のタワーがそびえる宇宙都市は惑星オーハの軌道上に造られた。
宇宙都市はオーハの象徴でもあり、オーハの宇宙開発技術の結晶だった。
ここからは惑星オーハを一望できる。
アルゴーンドは付き人と共に惑星オーハを見下ろしていた。
「世界は次のステップに移ろうとしている。幕開けは近い」
アルゴーンドはそう言って口元を緩めた。しかし鋭い視線で惑星オーハを見つめていた。
「世界を真にわが手中に収めるためのステップだ」
アルゴーンドはそう言って拳を握りしめた。ちょうど惑星オーハを握りつぶす感触だった。
「アルゴーンド様、本当に計画はうまくいくのでしょうか?」
付き人が尋ねた。彼はアルゴーンドの片腕のような存在だった。
「当然だ。このおれの意思が叶わなかったことなど一度もないのだからな」
「しかし、この大いなる惑星を失うと思うと、一抹の寂しさがあります」
「くくくく、こんな引力にひかれた猿どもに何を同情することがあるのか。こんな猿の惑星があるから、愚かな思想が生まれるのだ」
「たしかに。その通りかもしれません」
「このがらくたの都市ごとくれてやるさ。そうすれば、もはや誰もおれに逆らえなくなる」
アルゴーンドはそう言うと、とても愉快に笑った。
アルゴーンドは左派に押されている実情を面白く思っていなかった。
世界統一を果たしたとき、アルゴーンドは世界で最も偉い存在だった。
しかし、あの日以降、戦いの日々が消えてしまった。剣の鋭さが売りだったアルゴーンドは影響力を失っていった。
軍事クーデターでも起こそうと画策したこともあったが、左派の科学者を敵に回す勇気を持てなかった。アルゴーンドはそのとき臆病風に吹かれた。今でもそのときのことを根に持っていた。
だが、彼はいま恐ろしい計画を立てて、大胆に世界を変えようとしていた。
この宇宙都市を惑星オーハに落とすという恐ろしい計画だ。
いま第二の宇宙都市「シン・オーハ」が建設中である。完成すれば、この宇宙都市は用なしになる。同時に惑星オーハも役目を終える。
「だが、一つだけ問題があるのだ」
アルゴーンドはある心配事を掲げていた。
「アースの遺産ですか?」
「そうだ、原初の生命が誕生したとされるアースの遺産だ。その力は強大かつひねくれているというではないか」
「心を持った魔動機と言われているそうですな。まだ科学班が解析をしていますが、よくわかっていません。魔動機が心を開いてくれないと言っております」
「おれたちの科学者は役立たずばかりか。ちっ、だがいまさら左派の科学者どもの援助は受けられねえしな。まあいい、そのうち何とかなるだろう。くくくく」
アルゴーンドは先の心配をやめて再び愉快に笑い出した。