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5、流星

 オーハ世界政府が今後の宇宙開発指針を発表した。


 ・バードAの宇宙運用計画

 ・宇宙都市シン・オーハの建設


 特に斬新なものはなく、当初から予定されていた計画がそのまま継続される。

 ただし、新しい人員が新たにその計画に参加することが決まった。


 サザンはクリスの部隊と共にバードAの宇宙テスト飛行プログラムに参加することが決まった。

 宇宙都市シン・オーハは現在の第一宇宙都市と違い、そこで自活することが可能な設備が導入される。わざわざ都市に資源を持ち込む必要もなくなる。

 そのシン・オーハの交通手段の中軸になるのがバードAだった。

 サザンらに課せられた任務はとても重要なものだった。


 サザンはいずれ宇宙での任務を想定して訓練を続けていた。

 今回、初めての宇宙任務が決まったことにより、より本格的な宇宙適用トレーニングが課せられることになった。


 その前にサザンらに1週間の休暇が与えられた。


 サザンはクリスが率いる部隊に所属しているが、クリスの部隊には約40人の飛行士が所属している。

 40人のうち、サザンと同じように宇宙飛行士まで習得している者は17名。その17名全員が今回の任務に参加することになった。

 その17人の中で、サザンが最年少だった。あまつさえ、サザンを除けばみな25歳以上のベテランで、サザンと同じ世代の者はいなかった。


 サザンの先輩に当たるブロックルンが旅行を計画していたので、休暇の間、サザンはそれに参加する予定だった。

 だが、そのブルックルンが酔った勢いで暴行を働き、彼は今回の任務から外されてしまった。同時に旅行もなくなった。


 ゆえに、サザンは個人的に休暇の計画を立てた。

 それは故郷を廻る計画だ。


 サザンはかつてネフィム王国マンハール地区で暮らしていた。

 そのころの思い出はほとんどなかったから、サザンにとってネフィム王国は仮の故郷でしかなかった。

 そのままではいけないと思ったサザンはちょうどいい機会だと思い、旧ネフィム王国を目指すことにした。


 ちょうど、しばらく前の事故でマンハールの病院に世話になっていたから、そのお礼も兼ねての旅行だった。


 サザンはテリーア地方から魔動列車に乗り込んだ。

 サザンは6歳のころ、その列車でマンハールからテリーアにわたってきた。


 あのころから景色もだいぶ変わった。テリーア地方は開発が進み、路線の左右には大きな建物が連なっている。

 列車は緩やかな下り坂を降りていき、やがて大きなトンネルに入った。

 列車はかなり長い間トンネルの中を走っていた。


 そこを抜けると、オーハとマンハールの国境付近に出た。

 国境は森の中にあり、このあたりまで来ると6年前と変わらない景色だった。


 国境には看板が上がっていた。


「帝国オーハ自治区マンハール」


 ネフィム王国という文字は消えていた。もうこの世にネフィム王国は存在しなかった。

 長い間、「天上花ネフィム」の王政が続いていたが、オーハの力の前に屈した。


 オーハの審判からかなり時間が経過したが、今でもここがネフィム王国だと思っている住民は少なくなかった。

 サザンにはそんなネフィム王国の誇りなどなかったから、ここがオーハの地になったことに違和感はなかった。


 マンハールは貧しい。マンハール地区に入ってから、魔動機は2つの駅に停車したが、駅のみすぼらしさが示すとおりだった。

 列車に乗ってくるのは貴族ばかりで、普通の住民が魔動機に乗るケースは少なかった。

 オーハの審判の後、マンハールにもオーハの兵団駐屯地や市役所が建ったが、そのビジネスチャンスをものにした新興成金が少なからずいた。彼らのみが列車を利用することができた。


 サザンが下りたマンハール南端の駅は特に貧しかった。

 歩くと、子供たちがお小遣いをせびってきた。


 サザンは子供たちに硬貨1ジェムずつ渡した。

 彼らはろくに教育が受けられないので、おそらくこのままマンハール鉱山で働くことになるのだろう。

 あるいは、オーハへ移住する選択肢もあるが、サザンがテリーア地方に渡ったときとはもう時代が異なる。

 いまや、マンハールからテリーアに渡るためには、それなりの実績がいる。

 学業が優秀だったり、オーハで良く親しまれているフットボールが得意だったりする必要がある。


 6年前は無条件で誰でも保護されたものだった。

 そういう意味で、サザンは恵まれていた。


 サザンはひとまず世話になった病院にやってきてお礼の言葉を述べた。

 受付で話をしていると、サザンの記憶に良く残っている少女がやってきた。


「お久しぶりですね」

「前はお世話になりました」


 サザンは頭を下げた。


「サザンさん、私のこと覚えていますか?」

「レーズン・ケアフリー」

「グー」


 レーズンは喜んだ。

 サザンはあれから宇宙飛行士のライセンスを取ったということをレーズンに話した。

 すると、レーズンは困惑した顔になった。


「えー、もう宇宙飛行士になったんですか? 早すぎますよ」

「運が良かったんだ。最初の試験でうまく突破できた」

「こっちはまだ道のりは長いというのに。あなた、流星みたいな人ですね。早すぎます」

「流星か……」


 サザンはその呼称におかしさを覚えた。記憶はあいまいだったが、マンハールにいたころ、そう呼ばれていたことがあるような既視感があった。


「この競走は私の負けですね。そんなに早い人にはついていけません」


 レーズンは大きくため息をついた。

 

 レーズンとは競走をしていた。

 当時、レーズンは医者を目指していて、サザンは宇宙飛行士を目指していた。

 どちらが先に夢を叶えるかという競走だったが、サザンが流星のごとくぶっちぎってしまった。 

 レーズンはまだ医者になれる年齢にも達していなかった。


「こうなったら第二の夢で競走しましょう。サザンさん、第二の夢はなんですか?」

「第二の夢か……」


 宇宙飛行士になった後の展望をサザンは思い浮かべた。

 念願の宇宙飛行士になって何がやりたいだろうかと思案したが、特になかった。


 宇宙にロマンは感じていたが、見渡す限りの星空のうち、どこに行きたいかなんてことまでは考えたことがなかった。

 どこかに行ければ面白そうだと思うぐらいだった。


「どこか新しい星に行けるといいかな。もしかしたら、おれたちと同じように人が住んでいる星があるかもしれない」

「大きな夢ですね。でも、それなら私にも勝てるかもしれません。私の第二の夢は学校を再開させることですから。今度こそ、あなたが別のお星さまに到着する前に叶えてしまいますよ」

「学校?」

「うん、私の通っていた学校。いまは廃校になってしまったんですよ。園長先生も病気で倒れてしまわれましたし。そこで、私が再開するんです。そうだ、一緒に見に行きましょう」


 レーズンが誘ってきたので、サザンはうなずいた。

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