幸せとはなにか? 日本人の不安遺伝子
(* ̄∇ ̄)ノ 奇才ノマが極論を述べる
日本は世界で54番目に幸福な国、と聞いてあなたはどう思うだろうか?
世界幸福度ランキングとは、国連の『持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)』が、毎年3月20日の『国際幸福デー』に合わせて発表しているランキングデータだ。
日本は2022年は54位。
前回の2021年の56位より少し順位を上げた。
■幸福度の調査方法
幸福度の調査は、主観的なアンケートから生活の満足度を測る。加えて以下の項目から採点される。
1.一人当たりの国内総生産(GDP)
2.社会保障制度などの社会的支援
3.健康寿命
4.人生の自由度
5.他者への寛容さ
6.国への信頼度
そして『各項目が最低値を取ると仮定されるディストピア(架空の国)』と、どれだけ差があるか、これを加えて最終的なランキングが決定される仕組みとなる。
調査はアメリカの調査会社ギャラップ社が対象国の数千人を対象に行う。過去3年間の平均値をもとに、最終的なランキングが公表される。
幸福研究では西洋文化に根ざしているところがあり、これが北欧の順位の高さに現れる、といった批判がある。
東洋で大事にされているバランスと調和については、これまで比較的軽視されてきた。
そこで2020年のギャラップ社の調査では初めて、次のような体験について質問をしている。
・自分の人生はバランスが取れているか?
・自分の人生にやすらぎを感じるか?
・一日の大半を穏やかに過ごすことができるか?
・刺激的な人生よりも穏やかな人生を好むか?
・他人や自分への思いやりを大切にするか?
ところがその結果は、バランス、やすらぎ、穏やかさを体験した人は、満足度が最も高い欧米諸国に多かった。
また、ほぼすべての国、地域で、大多数の人が刺激的な人生よりも穏やかな人生を望んでいることが解った。平穏度が低いアフリカなどをはじめとする貧しい国々では、穏やかな人生を望む声がより大きい結果となった。
そして、東洋の方が他の地域と比べてその割合が特に高いということはなかった。
これは逆にバランス、やすらぎ、穏やかさを得られにくいからこそ大事にしよう、という思想が東洋に根付いたからではないだろうか。
■先進国の中では下位の日本
『世界幸福度ランキング』から日本の要因別順位を抜き出すと。
肯定的感情体験(幸せ、喜びなど)の多さ 67位
否定的感情体験(悲しみ、怒りなど)の少なさ 12位
1人あたりGDP 28位
健康寿命 1位
社会的関係性 48位
自己決定感 74位
寛容性 127位
信頼感 28位
健康寿命では世界1位だが、寛容性の低さが際立っている。肯定的感情体験と自己決定感もまた先進国の中では低い。
■人間の4タイプ
幸福とは何か? これまで多くの学者、宗教者が研究し幸福論、幸福について、といった書物は大量にある。
最近私が興味深く感心したのは、評論家、岡田 斗司夫の提唱する人の傾向4タイプだ。
外交的か内向的か、を縦軸に。
抽象的か具体的か、を横軸にし人の傾向を4つのタイプに分けるというもの。
〇司令型
外交的で具体的
競争して勝つことで満足するタイプ。競うことが好きであり向上心がある。
理性的で合理的。上下関係に厳しい。
行き過ぎれば勝つために手段を選ばないとなる。マキャベリズムの傾向がある。
〇注目型
外交的で抽象的
人と仲良くすることを好む。そのため勝ち負けを決めることを嫌い、順位をつける競争を嫌がる。
人から注目されることで満足する。人には嫌われたくはない。
過度に人の感心を得ようとすれば、ナルシズムの傾向がある。
〇法則型
内向的で具体的
観察し、分析、考察し、理解することに満足を覚える。仮説を立てて検証することに喜びを感じる。
自分が得をしようが損をしようが関係無く、原因を理解すれば納得し、原因の分からないものに不快を覚える。
感情的にならず、理性的。
行き過ぎればサイコパス傾向になる。
〇理想型
内向的で抽象的
社会的成功より、自身の中にある理想に近づくことが重要。正義感や拘りが強い。
人間とは斯くあるべき、という理想像がある。
また、その理想は万人が理解できるものでは無く、少数の人にしか理解できないと思いがち。
行き過ぎれば人に自分の理想を押しつけるカルト傾向に、また、世界の真理は自分にしか理解できないといった妄想に取りつかれることも。
それぞれのタイプで望む傾向、満足する行為が違う。
競争して勝つのが好きな司令型と、競うのが嫌いで皆で仲良くしたい注目型を両方満足させる仕組みを作るのは難しい。
この、人の傾向4タイプは物語を作る上でのキャラクター造形を深める役に立ちそうだ。
また、この人の傾向4タイプは自身がどのタイプかを判断するのは難しいようだ。人は自分に無いものを求めがちになる。
簡単な判別法としては自分の苦手なタイプ、嫌いなタイプの反対側が自身の傾向、と見るのが良いらしい。
この話を友人にしてみたところ、友人の判別ではノマは、「ブッチギリで理想型」と言われた。
何に満足を覚えるか、何を幸せとするかは大まかにこの4タイプに収束しそうだ。
■遺伝子
また、遺伝子の研究から日本人は世界の中でも幸福を感じにくく不安を感じやすい民族性、という研究結果がある。
セロトニンは、別名、幸せホルモンとも呼ばれる脳内分泌物。不安感を抑え、精神を安定させる物質。
ノルアドレナリン(興奮、覚醒)
ドーパミン(好奇心)
セロトニン(楽観、安心)
この三つが三大神経伝達物質。
脳は緊張やストレスを感じるとセロトニンを分泌し、ノルアドレナリンやドーパミンの働きを制御し、自律神経のバランスを整えようとする。
セロトニントランスポーターには遺伝子量の多い『L型』と遺伝子量の少ない『S型』がある。
L型はセロトニン分泌量が多く、S型はセロトニン分泌量が少ない。S型はセロトニンの量が少なくなるために『不安遺伝子』と呼ばれる。
遺伝子の型では SS型、SL型、LL型の3種類がある。
比較すれば SS型の遺伝子を持っている人は不安を感じやすくなり、LL型の遺伝子を持っている人は楽観的な人となる。SL型は中間だ。
セロトニントランスポーター遺伝子のL型を持つ人の割合は、アフリカ人に多くアジア人が少なくなる。
一方、S型遺伝子を持つのは、
日本人 80.25%
中国人 75.2%
台湾人 70.57%
スペイン人 46.75%
アメリカ人 44.53%
南アフリカ人 27.79%
地域で見ればアジア人に多くなる。
SS型は日本人が最も多く、SS型遺伝子保有者は全体の68.2%に昇る。
アメリカ人のSS型は全体の18.8%だ。
LL型遺伝子は、アメリカ人は32.3%で、日本人は僅か1.7%しかいない。
日本とアメリカを比較すれば、日本人はセロトニンが少なく不安を感じやすくなり、アメリカ人は楽観的、となるだろうか。
セロトニンの多い人は前向きでストレスに強く精神的に安定していると言われている。
セロトニントランスポーター遺伝子が少ない人は、放出されたセロトニンがリサイクルされずに体外に排出され、慢性的にセロトニン不足の脳になる。
慢性的に不安を感じやすくなってしまうのだ。
日本人は遺伝的に不安を感じやすい傾向にある民族というのが、遺伝子の研究で分かってきた。
極論すれば、SS型遺伝子を持って生まれた時点で、幸福感を感じにくく不安に悩まされやすいというのは、生まれつき決まっているということになる。
■不安を感じやすい日本人
なぜ、日本人は心配性のSS型が多いのか、これは今だに不明。
しかし仮説はある。
歴史から見て、日本は世界有数の災害大国だ。
地震や台風など災害が頻繁に起こる国土において、楽観的な人はなんとかなるだろうと対策せず、対応せずに死ぬことになりLL型遺伝子保持者が数を減らす。
不安を感じやすいSS型遺伝子保持者が生き残りやすくなることで、日本人はSS型が多くなった、という仮説だ。
余談になるが、この気象災害が起きて当然、という国土に暮らすことに慣れた日本人は、世界の気候変動問題について欧米とは温度差がある。
日本人が気候変動問題に無関心なのは、自然災害の多い国土に育まれた民族的な傾向と言えるだろうか。
このSS型遺伝子、不安遺伝子が多い日本人の行動は集団行動や貯金といった面に現れる。
日本では、個人が保有する金融資産の残高は1864兆円(2019年)であり、単純に人口で割ると1人あたりの金融資産額は1470万円。
世界有数な個人資産保有国になる。
不安を感じやすい性格だからこそ、何かあったときの為に溜め込む。これで災害の多い国で生き残りやすくなる。
日本人が幸福感を感じにくいのは、生物の自然淘汰と生存戦略の結果とも言える。
■アニメとマンガの国
私が思うのは日本がアニメ大国、マンガ大国となったのはこの不安遺伝子が理由だからではないだろうか。
幸福感を感じにくいからこそ、幸福を得る為のコンテンツ、その質の高さと種類の多さを求めて大量の作品を作ることになったのではないか、と。
■アンデルセンと宮崎駿
不安に悩まされた作家で思い出すのがアンデルセンだ。
みにくいアヒルの子、雪の女王、マッチ売りの少女、など数々の作品を描いた童話作家アンデルセン。
極度の心配性であり、外出時は非常時に建物の窓からすぐに逃げ出せるように、常にロープを持ち歩いていたという。
また、就寝する際は間違って埋葬されないように心配し、枕もとに『まだ、死んでいません』というメモを残すといったエピソードがある。
アンデルセンは幼少時から天才児と言われていたが、挫折に次ぐ挫折に心を病む。
『貧困層は死ぬことでしか幸せになれない』
という哲学を持ち、それに対して無関心を装い続ける社会への嘆きを、童話という物語を通して訴え続けた。アンデルセンの作品では主人公がラストに死ぬ、マッチ売りの少女などがあり当時はラストの悲劇に批判も多かった。
極度の心配性であるからこそ多くの作品を描くことができたのではないだろうか。
アンデルセンは晩年には、死以外にも幸せになる方法があることを童話の中に描き出していく。
不安に悩まされ、幸福を感じにくいからこそ、誰かの感じる幸福に真剣だったのではないだろうか。
また、創作家ではアニメ監督、宮崎駿がインタビューで応えた言葉を引用する。
『人に楽しんでもらいたいという意識なんだよ、動機はね。
なぜ楽しんでもらいたいかといったら、楽しんでもらえたら、自分の存在が許されるんではないかっていう。
無用なものではなくてというふうな抑圧が自分の中にあるから。
それは、幼児期に形成された物が何かあるんだろうと思うんだけど。
それを別にほじくりたいとは思わない。
僕はとにかく人に楽しんでもらうことが好きですよ』
人に楽しんでもらえたら、自分の存在が許される。逆に言えば、人が楽しめるものを作れなければ、自分の存在が許されない。そんな不安と闘っていたのではないだろうか。
■まとめ
SS型遺伝子を持って生まれたなら、一生を不安に苛まれて生きるのも当然。
幸福を感じにくいからこそ、誰かが幸福を感じるコンテンツ作りに必死になれる。
そして未来の危機を真剣に想像するから生き延びやすい。
これらを踏まえておけば、安心して不安になれるというもの。逆に幸福感を感じにくい体質なのに無理に幸福感を求めたなら、アルコール中毒になるか、麻薬中毒になるか。
最近では市販薬の薬物依存も増加傾向にある。
咳止めの薬や風邪薬のなかには覚醒剤の原料であるエフェドリン、麻薬の成分であるリン酸ジヒドロコデイン、興奮作用をもつカフェインなどが含まれているものがある。
咳や頭痛を抑える効果があるが、多量に飲み過ぎると疲労感が無くなり、多幸感を感じ、頭が冴えるなどの覚醒作用がある。
何事も過ぎ足れば及ばざるが如し。風邪薬も使い方しだいで身体を蝕む麻薬になる。
また、一時の幸福感を味わうためにギャンブル中毒になることも有り得る。
安易に平穏を求めたならばオカルトに引っ掛かり、カルトに染まる危険もある。人の不安につけこむビジネスはいくらでもある。
無理に幸福な振りなどしていては、空しくなり心を病むばかりだ。
内閣府の『幸福度に関する研究会』の報告の中には面白いデータがある。
日本人の1人あたりの実質GDPは、1960年代から上昇し続け、50年でほぼ6倍に上昇した。
だが、人々の生活満足度はほとんど変わっていない。稼ぐ金の量が増え、健康保険や年金といった不安を解消するシステムができようとも、生活に満足する度合いにほとんど変化が無かった。
しかし、不安を解消するシステム作りに必死になったのも、不安に悩まされた結果だ。
極論すれば、幸福を感じにくいからこそ幸福を生み出すものに真剣さを増す。
SS型遺伝子保持者は、作家、コメディアンといった芸人の才能を持っている。
不安はあって当たり前。役に立たない一時の酩酊のような幸福感の方がよほど害毒だ。
だから安心して不安と付き合っていこう。
BGM
『アヤノの幸福理論』
じん