9.10年後の僕
「明美〜!
お弁当っていつもの所に
置いてあるの〜?」
「そうよ〜!
ごめんね〜。
今、麗奈で手が話せないの〜!」
「いいよ!いいよ!
このまま行っちゃうから〜!」
1階と2階で
大きな声が響き渡る。
玄関を出て、
自転車にまたがり
駅へ向かう。
毎日同じ動きだが、
その中でも意識的に
毎日行ってる事がある。
家の門を自転車で通り過ぎる時に
「飯塚」
の表札を見るようにしている。
家族がいる。
その事を意識して
会社に行くようにしている。
そして半年前にマイホームを
買った事も!
3軒並んだ分譲住宅!
けして高い給料ではないが、
両親と明美の親のバックアップもあって、
勢いで買ってしまった。
まだ20代でローンも払い始めではあるが、
子供も授かり、生きる喜びを
感じている。
両親とも良好な関係を続けていて、
孫の顔を見せに来いって、
しょっちゅう電話がかかってくる。
実家はそんなに遠くないので、
麗奈を連れて頻繁に帰るようにしている。
明美とは今の職場で知り合った。
彼女は僕より4つ年上で、
こんな性格の僕なので、
向こうからどんどん
話しかけてくれた。
付き合ってる時も
奥手な僕の事を
ほんとに理解してくれて、
無理なく僕を引っ張って
いってくれた。
プロポーズも僕が言いやすいように
全て計画してくれた。
明美は麗奈の出産を機に
1年前に退職した。
僕の仕事は関東各地のダムや
工場排水などの
水質調査をしている。
家族のためにしっかり
仕事をして幸せを
かみしめている。
しかし…
ひとつだけ気になることがある…
ここ2ヶ月程だが
ちょっと変わった事が起こっている。
玄関の前にゴミが置かれていたり、
ポストの郵便物が
道に散らばっていたり、
自転車がパンクしたり。
頻繁ではないが少し気になる…
酔っ払いがしたのか、
近所の人なのか。
引っ越してきた際は
明美が先頭になって周りには
きちんと挨拶をしたし、
お隣さんも僕らより後に
引っ越してきたが、
とてもいい人達である。
全く心当たりがない…
会社での業務の日は
比較的早く帰れる。
飲みに誘われる事もあるが、
大抵は断る。
昔とは理由が違う。
周りも
「子供小さいもんな!
早く帰ってやれよ!」
と理解してくれている。
少しずつ、少しずつ
僕は変わってきてるのかなって
思う。
人は生まれ変われるんだ…
「ただいま!」
「おかえり!」
幸せなキッチンでの
生活音。
首がすわりやっとひとりで座れる
麗奈の所へ真っ先に行く。
最高の瞬間だ。
「ねぇ、聞いてよ!」
それから明美の
1日の出来事を聞く。
「今日、ベランダで
シーツ干してたら
泥のついたボール
投げ込まれてて!
シーツ泥だらけに
されたのよ!」
「本当に?」
怪我はなかった?
「私がベランダに
いない時だったから
大丈夫だったけど。」
明美は明るい性格で
物事を楽観的に
考えるが
少しずつストレスを
感じていそうだ。
「ちょっとひどいね。
ビデオカメラとか
設置した方が
いいのかもね。」
もう酔っ払いとかではない。
明らかに僕らの家と分かっていて、
嫌がらせをしている。
少しずつ、その内容も
変わってきているように
思える。
なんとかしないと…
「そうそう、
たっちゃんに
お手紙来てたわよ!」
僕は着替える前に
テーブルの上から
自分宛の手紙を見つけた。
手紙には宛名が書いていない…
少し気持ち悪いが
封を開けてみた。
中には1枚の
白い手紙が入っていた。
「約束を果たそう」
…
これだけ?
約束?
なんだろう。
全く意味が分からない。
この嫌がらせと関係が
あるのだろうか!
おかしな事に巻き込まれなければ
いいが…
とにかく、明美や麗奈に
危害が及ばないようにしないと。