6.犯人探し、そしてその代償
翌日は雨はやんで
曇り空になっていた。
放課後実行される。
近づくにつれ
緊張してくる…
早く見つかればいいが…
もし長引けば
どんなに目立たないように
していてもみんなにわかってしまい、
いい結果にはならない。
とにかく早い解決が必要だ。
休み時間になると
河原が声をかけてきた。
「大丈夫か?
住んでるところがわからないから
後をつけるしかないな!」
僕は少し微笑んで、
相槌を打とうとした時、
河原の背中越しに
沢山の冷たい目線を感じた。
クラス中のほとんどが僕達を見ている。
冷たい目だ。
河原もそれに気付き、
急いで僕から離れていった。
友達とただ話すだけで
軽蔑される。
どうしてこんな扱いを
されなければならないんだ。
グループのひとりが
自殺したからって、
そのグループはもう
集まる事もしてはいけないのか!
たまらない…
もう犯人探しなんてどうでも良くなってくる。
嫌な事があると最後は
いつも向井のせいにしてしまう。
それもすぐに後悔に変わり
胸が苦しくなる…
一番辛かったのは向井なのに。
それすら分からなくなってしまう…
放課後になったが、
僕は河原と話を交わす事なく、
ただ後ろを付いていくだけだった。
校門を出ると道の向こう側にコンビニがある。
河原とそこで待機をする。
井上の顔は知らない。
河原に任せるしかない…
待ってる間も全く会話はない。
河原にもその気はないらしい…
こういう時、自分から
話しかけられればいいが、
そういう事はできない…
「来たぞ!行こう!」
河原に付いていく。
井上はひとりで歩いている。
タワーマンションが正面に見える
大通りを右に曲がり、小道へ。
公園を過ぎた所で
左の更に細い道へ入っていく。
「ここはうちの学校のやつも
ほとんどいない。
今だ!」
河原が走り出したので付いていく!
「井上君!ちょっとごめん!」
振り向いた井上は僕らを見て驚く!
「ご、ごめんね!突然声をかけて!」
井上はしかめた顔をしている。
「ほんとにごめん!
ちょっと聞きたい事があって!」
「何?」
河原はためらう事なく続けた。
「向井、いるでしょ?」
向井が学校でいじめられてるって噂を聞いて!
クラスでそういうの目撃した事ないかな?」
井上は驚いた表情をしている。
「どうして、俺に聞くの?」
当然の質問だ!
「少しずつみんなに聞こうと思ってる。
たまたま井上君がひとりでいたから…」
「うちのクラスにいじめなんてないよ。
最初は事故って聞いてたけど、そのうち
自殺だったって噂が流れてたけど。
自殺イコールいじめって、思わない方が
いいんじゃないの?」
「そうじゃないよ!
聞いたんだよ!」
「誰から?」
「そ、それは言えないけど…」
井上は不思議そうに河原を見ている。
「いじめは本当にないよ。
俺、自分の席一番後ろだから
向井もよく見える席だったんだよ。
俺もさぁ、同じクラスに自殺者が出るなんで
ショックだから
そういう事もあるのか、色々思い出したんだけど。
本当にそういうのはなかったよ。
みんな勉強で忙しいんだよ!
俺のクラスは一緒につるんでる
仲間とかも少ないし」
井上は続ける
「それとさぁ、
あんまりこういうの
やめた方がいいと思うよ。
反感かうだけだよ。」
そう言って
井上は行ってしまった。
河原はうつむいたまま…
僕も何も言えず、
ただ頭の中で井上の言葉が
繰り返されていた…
その後、片瀬達とも合流したが
内容は同じような物だった。
確かにそんなにあっさり
見つかるわけがない。
根気が必要だ。
ただ聞ける相手は限られてくる。
もし聞ける相手がいなくなったら
どうすればいいんだろう。
それにクラス全体で隠してる
可能性だってある。
自分のクラスでいじめがあり、
自殺者まで出てしまったなんて
事実は避けたいだろうし。
他のクラスの人達に聞く必要もあるのだろう。
ただ範囲を広げれば
それだけ犯人探しの噂は
広がってしまう。
井上が行ったように
反感を買う事は
避けられないだろう。
すごく難しい事になった…
何日かは目立たないように帰り道を狙って
聞き込みをしたが、
何も出てこなかった。
思っていた通り、
犯人探しの噂は広がり、
周りの冷たい目線は
日に日に強くなっていった。
学校に行くのが辛い…
勇気を振り絞った行動が
全く意味を持たなかった…
僕達は、もう学校で会うのをやめた。
それから数日が経ったある日、
河原から集合がかかった。
学校からかなり離れた公園で
落ち合った。
「もう犯人探しはやめよう…」
河原がつぶやいた。
「昨日…、
机の中に…
これが入ってたんだ…」
そう言って白い紙を
ポケットから出した。
「犯人探しはやめろ!
次はお前がターゲットになるぞ!」
背筋が凍った…
やはり…
いじめてた奴は存在する…
僕は弱い…
こいつらを見付けてやろうとは
思わない…
今でさえ、
学校に行くのが精一杯なのに
これでいじめにもあったら…
僕も…
分からない…
「俺もだよ…
机に入ってた…
ふたりはどうだ?」
大野と僕は首をふる。
誰も戦おうとはしない。
4人で戦おう、なんて
気力は誰にもなかった。
でも戦う必要なんてない…
これを受け入れて
犯人探しなんてやめて
大人しくしていればいいんだ。
僕らは弱い人間の集まり…
なんとかこのまま卒業まで…