5.僕らの立ち位置
まさか向井の自宅からの帰り道が
こんなに気持ちが落ち込むとは
思わなかった。
みんな信じられない様子。
まさか一番ありえないと思っていた
いじめなんて…
おばさんが嘘を言ってるようには
思えない。
でも向井のそんな姿は見てないし、
聞いた事もない。
向井は本当に頭がよく
3年からは僕らとは違い、進学クラスに
入っていた。
クラスのみんなは個人主義の人が多くて
すごく助かってるって言ってたし…
もちろん向井とずっと一緒に
いるわけではないけど、
集まる時は本当に楽しそうだった。
でも…
みんなで集まるのは昼休みと帰り道。
普通の休み時間や朝、掃除の時間等、
階が違うからその状況は知らない。
全くいじめられてないとは
言い切れない…
片瀬は休み時間も向井のクラスに
行ってると思うが、とても信じられない
顔をしている。
このままではだめだと思う。
やる事はひとつ…
みんな全く話をする様子ではない。
下を向いてそれぞれ色々考えてるようだ。
もうすぐ帰り道がバラバラになる。
話すなら今しかない!
「は、犯人を見つけようよ!」
全員が足を止めて僕を見る。
その様子に話せなくなりそうだが、
勢いで話を続けた。
「みんな信じられないんだよね?
向井がいじめられてたなんて!
でも…
誰も向井のクラスの事は誰も知らないし、
学校の中でも僕達と会ってない時も
沢山あったよ!
いじめられてないなんて言い切れないよ!」
みんな驚いた様子だ。
それは僕が発言したからか、
その内容に驚いているのかは分からない。
「そうだよな。
もしいじめがあったならそれは許せない。」
河原が賛同し、片瀬も頷く。
しかし大野はそうでもない。
「俺達に何ができる?
まずは先生に行った方が
いいんじゃないか?
問題にしてもらえば
向井のクラスを丸裸にできるだろう!」
「なんの証拠もなく向井が言ってました、
だけだったら何もしてくれないだろう。
少しでも確信を持って伝えた方が
いいんじゃないか?
学校側だってもみ消す事を
考えるかもしれないし。」
河原が正論を言う。
「…」
大野は静かに頷いた。
「よし!
明日の昼休み、どういうふうに
進めるかみんなで話し合おうぜ!」
片瀬が会話をしめてみんな
それぞれの自宅に向かった。
俺達5人は学校ではイケてないグループだ。
女の子ともほとんど話した事はない。
果たしてうまく行くのだろうか!
不安でいっぱいの中、微かに達成感が
湧いてきた。
とても不謹慎ではあるが、
僕の言葉にみんなが動いてくれたから…
それに…
またみんなで集まれる。
明日から頑張ろう。
また毎日みんなで集まれるようになるために…
翌日は朝から強い雨が降っていた。
今日は一日雨らしい。
昼休みが近づくと、徐々に緊張してくる。
犯人探しを提案したが、何をどうしていいか
分からない。
もちろん聞き込みがベースになるだろうが、
僕らの事を相手にしてくれるだろうか?
そして実際にいじめてた奴を見つけたら
どうすればいいのだろうか?
先生に言うのか?
向井の母親に言うのか?
そこらへんまで話し合わないと…
通常昼休みにみんなで会うときは
靴に履き替え自転車置き場の横と決まっている。
しかし雨の時は、比較的使用者の少ない
1階トイレ付近の廊下で集まる。
少ないとはいえ、外よりは人通りがあるので
大きな声では話せない。
いつもなら購買で買った物をみんなで
話しながら食べるが、今日はそれぞれ昼食を
終えてから集まる事になっている。
しかし今日も食欲がなく早めに約束の場所へ。
しかし、みんなすでに集まっていて、
話し合いが始まっていた。
「そんなやり方だったら目立つだろう。
自殺したやつがいじめられてたか
聞いてもまともに答えるわけがない!」
「でも、聞き込みするしかないじゃないか!」
「二人とも声が大きいよ!」
片瀬と河原が強い口調で話し、
大野が困っている様子だ。
結局僕は話を聞くだけになりそうだ。
おかしな方向に行きそうだったら
なんとか発言しよう。
そんな事を考えてる時だった!
信じられない言葉が耳に飛び込んできた!
「おいおい!
あいつらまたつるんでるよ!」
「マジかよ!
あんな事があったのに?
俺なら無理!」
衝撃的だった…
ひとりの人間が死んだっていうのに、
そういう目で見られていたのか?
気持ちを気持ちを落ち着かせて
廊下を通る人達を見てみると
明らかにこっちを軽蔑に似た目で
見ている。
冷たい目だ。
笑ってる人もいる。
気が付かなかった…
周りは自殺者がでたグループとしか
見ていない。
期待はしていなかったが、
周りは少しでも同情の気持ちで
いると思っていた。
現実は違った…
僕らはもう集まる事もできないのか!
元々、周りの目は気にはしてたが、
無視はできた。
でも今回は違う。
かなりのショックだ…
どうしても向井を恨んでしまう。
自分なりに楽しかった高校生活を
返してほしい…
同じように無言で何かを考えていた
河原が口を開いた。
「どうって事ないでしょ!
俺達は元々嫌われてるんだから。
今更、どう思われたって
何も変わらない。」
「そうだよ。
ひとりぼっちよりましだ。」
大野が同調する。
「と、とにかく
犯人を見つけるしかない。
そこに集中しよう。
周りはそういう目で見ている。
なるべく目立たないように。」
目立たないように…
確かにそうするしかない。
みんなが沈黙する。
僕はなんとか自分の意見を言えるように
勇気を振り絞った!
「ちょ、ちょっといいかな?」
進まないで困っていた3人が
一斉に僕を見る。
「向井のクラスにもいつものひとりで
いる人がいると思うんだよね!
誰とも一緒にいないから
真実を話してくれるんじゃないかな?
目立たないようにするには、
帰り道に人気がないところで
聞けばいいんじゃないかな。」
みんな顔を見合わせる。
「それだ!
向井のクラスでそういうやつ、
知ってるか?」
河原の声が少し弾む!
「斎藤って知ってる?」
大野が自信気に話す!
「知ってる!
あのかなり頭のいいやつだろ?
確かにあいつ、いつもひとりでいるぜ!」
片瀬が即答する。
また3人で会話が弾みだす。
「井上は?」
大野はよく他のクラスの事を知ってるようだ。
「まぁ、たまに誰かと一緒にいるけど、
ひとりでいる事も多いよな!」
河原も知ってるようだ。
「よし!
そのふたりで行ってみよう!
ひとりに4人で行ったら
警戒されるからふたりに別れよう。
俺と大野は斎藤に。
河原達は井上を頼む!
今日は雨だから、明日の放課後
実行しよう。」
片瀬が話し合いを締めくくった。
早くこの場から
離れたいようにも思えた。
僕も同じだ…
方向性が決まって、
ホッとはしたが、
やはりショックだった…
みんなの目に恐怖を感じた…
犯人探しをして
いいのだろうか?
何も起きなければいいが…