4.自殺の真相
ひとりになってからまた数日が流れた。
その間、みんなもひとりでいた。
たまに廊下ですれ違うが挨拶もしない。
もう戻れないのか。
みんなその気は全くないのかなぁ。
そんなある昼休みに突然河原が声をかけてきた。
「みんなで話したい事がある。来いよ!」
体が震えるほど嬉しかった。
早くみんなに会いたかった。
しかしみんなの神妙な顔を見て
すぐに笑顔が消えた。
僕は何も言わず下を向いたまま
河原の後ろに立った。
しばらく無言が続いたが片瀬が口を開いた。
「向井の49日が過ぎて、結構経ったよな?
そろそろ4人で向井の家に行ってみないか?」
少しだけそれぞれの顔を見る時間が経過した。
河原は何も言わずうつむいている。
しかし大野は納得いかない様子だ。
「俺は行く必要ないと思う。
今更何を話すんだよ!いいやつでしたって?
向こうだって同じ歳の俺たちなんかに
会いたくないだろう。」
大野が言う事も一理ある…
「飯塚!お前はどうなんだ!」
大野は誰も反応しないのを見て、
突然僕にふってきた。
「ぼ、僕は…」
突然過ぎて言葉に詰まる。
「飯塚、思ってる事を言った方がいい!
ゆっくりでいいから」
河原が救いの手をくれた。
「僕は…
もし自殺の理由があるのなら、聞いてみたい。」
勇気をふりしぼって話した。
「だな。
大野、俺達はこのままだったら前に進めない。
おばさんに聞いてみても
何もわからないのかもしれないけど
向井の事をこのままにはしておけないだろう。」
片瀬が大野の肩を叩いた。
今日の放課後、みんなで向井の自宅に
行く事になった。
10月初旬で丁度いい気温ではあったが
向井の家に行く足取りはとても重い。
誰ひとり何も喋らない。
どんな理由なんだろう。
分からないのかもしれないけど…
でももし分かったとしても
胸の気持ち悪さは消えないような気がする。
答えがでたとしても、また悩む日々が続くのでは
ないだろうか。
それでも行かなくては行かないんだと思う。
少しでも前進するために…
全員で向井の自宅の前に立った。
少し間があいて片瀬がインターホンを押す。
しばらくすると「はい、向井です。」
おばさんの声だ!
少し明るいように思えた。
「片瀬です。4人できました。」
「なに?
来てくれたの?ありがとう。
ちょっと待っててね。」
明るい感じだったので
みんな安堵した様子だった。
ドアが開く。
「来てくれたのね。
ずっとバタバタしてて、やっと落ち着いたのよ。
ナイスタイミングね。
さぁ、上がって!」
おばさんは本当に明るかった。
それでも玄関を入る時には息を呑んだ。
玄関に入るとお線香の匂いが漂っている。
靴が並べられているが、うちの高校の靴や
若い男性用のスニーカーも置いてある。
向井の靴だ。
そういえば向井の自宅に入るのは初めてだ。
片瀬だけでなく、河原や大野も何回かは
あるだろう。
廊下は直線で、階段を過ぎた最初の和室の部屋に
僕らは招かれた。
お線香の匂いが更に強くなる。
薄暗い部屋。
そこには仏壇があり、向井の遺影が置いてある。
いつもみんなに見せてくれてた笑顔である。
それでも遺影を見て、向井は死んだんだと
実感せざるおえなかった。
「座って待ってて。
今、ジュースとお菓子持ってくるから。」
4人だけになっても言葉はない。
ただ仏壇や和室の様子を眺めていた。
僕だけでなくみんな緊張している。
それは仕方がない事だ。
自殺した友達の自宅に行くなんて…
誰にも想像できない。
「座って、本当に。
オレンジジュースしかないけど。」
片瀬が口を開いた。
「す、すみません。
お線香をあげさせて頂きます。」
そういうと仏壇の前に正座する。
河原、大野、僕は真似するようにその隣に
正座をし、順番にお線香をあげた。
「ありがとね。
さぁ、こっちでジュース飲んで!」
片瀬の動きを見るようにみんな
お膳の周りに座った。
「学校帰りにありがとね。
病院にも来てくれて。」
みんな無言で話を聞く。
「でも、驚いたでしょ?特に片瀬君。
あなたが見つけてくれた時、
私を呼んだ声が今でも忘れられないのよ。
辛い思いをさせてごめんなさいね。」
「いいえ、僕は…」
片瀬は言葉を探している。
卒然、河原が前のめりになり
強い口調で言った!
「す、すみません!」
「なに?」
「僕達は、理由を知りたいんです!
自殺した理由を!
学校でもあんなに楽しくしてたのに!
向井は本当に僕らの親友でした!」
笑顔だったおばさんの顔が真顔になる。
おばさんは何を言うんだろうと
息を呑んだその時!
突然、玄関が開いた音がした。
「お姉ちゃんかしら!」
おばさんはホッとするように言った。
しかしドアを締めてから少しの間
玄関から動かないように思えた。
しばらくして足音が聞こえたが
和室の隣の階段を足早に登っていってしまった。
気まずい空気が流れる。
おばさんは苦笑いを浮かべながら言った。
「ごめんなさいね。
あの子、まだ受け入れられないのよ。
あの日も大学の友達と遠くに遊びに行ってて。
病院に駆けつけた時はかなり遅い時間だったから。
いまだに整理できてないのよね。」
確かにあの日お姉さんはいなかった。
しかし向井にお姉さんがいたことを
初めて知った。
「それに…
お姉ちゃん、私とお父さんの事、恨んでるのよ。」
「え!どうしてですか?」
片瀬が当然の疑問を言う。
「実はあの子、学校でいじめられてたのよ。」
おばさんが向井の遺影を見ながら
小さな声で言った。
えっ?
いじめ!
意味がわからなかった!
みんなも同じ気持ちのようで
おばさんの顔を凝視する。
「あの日の5日前に俊二が突然、
学校休むって言ってきたの。
具合でも悪いのか聞いたんだけど、
そうではないが、どうしても休みたいって。」
おばさんは下を向きながら話を続けた。
「そんな事初めてだったから、
分かったって言ったの。
そしたら、あの子…
学校でいじめにあってるって!
だけどお母さんは何もしないで!
どうしても無理な時はその時言うからって。」
向井が自分から言ったのか!
そんな…
そんな事信じられない!
「その時はただ頷いただけで、
お父さんに連絡したんだけど、
結局少し様子を見ようって事になって…。
もちろん、それが理由なのかはわからないけど…
後悔してももう遅いのよね。」
おばさんもいじめなんて信じられないと
いう様子だ。
河原が納得していない様子で口を開いた。
「い、遺書はなかったんですか?」
「遺書ねぇ。あの子のかばんや机の中、
色々探したけど何も。
片瀬君、最初に見つけた時もなかったのよね?」
片瀬は小さく頷いただけだった。
「俊二が学校でいじめられてるとこを
見た事がないのは、みんなの顔を見て分かるわ。
片瀬君や河原君、大野君が家に遊びに
来てくれた時も楽しそうだったし。
飯塚君はこういう風にお話するの初めてよね?
俊二が学校でそういう目に合っているの
見た事ないでしょ?」
おばさんの目線が僕に向いた時、
僕は目線を下にそらして
頷く事しか出来なかった。
みんなも同じだ。
信じられない。
もし本当にそうなら
どうして気付いてあげられなかったのだろうか。
向井は何か信号を送っていたのだろうか。
僕らにも責任があるのだろうか。
「ごめんなさいね。
辛いわよね。
これが理由なのかは分からないけど…
いじめの事を聞いてからの5日間も
いつも通りだったのよ。
あの日も今日は片瀬君が遊びに来るから
塾の宿題早く済ませるために
邪魔しないでねって。明るく言ってたのよね。
今思えばそれがひとりになる
口実だったのかもしれないけど。」
おばさんは目に涙を浮かべていた。
もう話すのが辛そうだった。
「ごめんなさいね。
ちょっとお姉ちゃんの事が気になって。
上見てくるわ。
みんなはここでもう少し…」
「いや、僕らも帰ります…」
河原が会話にかぶせて言った。
「そ、そう!
ごめんなさいね。
みんなは気にしないで
残りの高校生活頑張ってね。」
僕らは頷く事も出来ず、無言で
向井の自宅を後にした。
信じられない…
これが理由なのか?
もしそうならば
このままではいけない…