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龐統の夢

作者: 胡姫

また同じ夢を見た。繰り返される夢は回を追うごとに鮮明になり、どちらが夢でどちらが現実か区別できなくなるほどだった。それは彼が死ぬ夢であった。白い馬に乗った彼が全身に矢を浴び、苦悶の内に谷底へ転がり落ちてゆく夢。

不吉極まりない、と龐統は冷たい汗でびっしょり濡れた体を拭いながら思った。その人物を龐統は知らない。夢の中ではとても慕わしく、大切な人であるようだけれど。焦燥感だけが鮮明に残り龐統の心を重くした。

「士元、また寝不足か?」

寝癖のついた頭を掻きながら学房に入ると、箒を手にした徐庶が揶揄い気味に声をかけてきた。早起きの彼は常に一番に水鏡塾に入り学房を掃き清めている。任侠者と聞いていたが徐庶は話してみると意外に気さくで、苦労人なだけに度胸も気配りもあった。最初は遠巻きにしていた塾生たちも徐々に彼を受け入れ始めていた。

「夢見が悪くて、な」

「それはよくない。水鏡先生に相談してみたらどうだ?」

「それには及ばんよ」

もしかしたらこの時水鏡こと司馬徽に相談していたら龐統の運命は変わったかもしれない。あるいは最悪の事態を回避できたかもしれない。司馬徽が夢占に通じていることは周知の事実であったから。しかしこの時はまだ、夢はただの夢に過ぎなかった。


月日は流れ、紆余曲折の末龐統は夢の人物に巡り合うこととなった。それは荊州で仕えることになった劉備であった。人柄に惚れこみ人生を賭けようと思った相手が夢の人物であったことに龐統は驚愕したが、あまりの凶夢ゆえ人に打ち明けることはできなかった。

やがて劉備は益州を攻めることになり龐統も同行した。軍がある山間の地に至った時、龐統は、来たことのないその場所が夢で見た場所だとはっきり分かった。

「私の馬と殿の馬を替えていただけませんか」

龐統は劉備の的盧に乗り、谷を進んだ。果たして伏兵に遭い、龐統は全身に矢を浴びた。その場所の名は落鳳坡といった。

馬から転げ落ちながら龐統は、彼を救えるなら自分の命は惜しくはないと思った。自分はこのために生まれてきたのかもしれない。夢はそれを告げていたのだ。

彼の代わりに矢を受けた自分は助からないだろう。

どうかお幸せに、と最後に龐統は願った。人の幸せを願うのは彼の信条であった。最後に願うのが最愛の主君の幸せであることに満足し、龐統は谷底へ落ちて行った。


          (了)



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