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第8話 流れ星

作戦空域に到着した。


天気は最悪なことに雨、予報では曇りベースということだったのだが到着前に急激に悪化してきたらしい。


雲の上に出れば青い空が広がっているが、今回は油送船の護衛だ、基本的には空のやや下に広がる黒い雲の下、昼間なのに薄暗い空での作戦になるだろう。


《アルフレート隊、タックネーム、シューレ及びラズリ、到着しました。よろしくお願いします》


僕達はレバノバジギスタン所属、灰色通常色のF-14戦闘機三機の後方につく。


三機編隊ってことでちょっと期待していたのだけど、さすがにF-35じゃなかった、仕方ないけど残念だ。


《遠い所からご苦労、レバノバジギスタン第8戦闘飛行隊、ルーク隊隊長、ルーク1だ》


F-14戦闘機の隊長機に労われる。確かにここまで来るのに空中給油が1回必要だし、下手に飛び回ると帰りにも1回の空中給油が必要だ、かなり時間をかけて飛んできてるし、その言葉は意外と嬉しかった。


《だが、これからが作戦だぞ》


そうなんだよね、今から大変なんだ、何も無いことを祈りたい。


《油送船はまもなくナワバスタンの勢力圏に入る、護衛の駆逐艦もいるしそれほど気負う程でもないが、何があるかわからん。前々回の油送船護衛の時も妨害にあっている。それに天気も悪いしな、目視見張りを怠るな》


妨害を受けたからボクたちエルゲートに支援を頼んだんだろうけど、天気が良ければレーダーでそれなりに目標は探知できるがこの雨だ、雨雲と戦闘機の区別なんて瞬時には分からない、雨足も激しいし目視見張りは限界があるが、目と言うよりは赤外線カメラで探した方が早いかも。


《アルフレート隊、ウィルコ。シューレからラズリへ、バイザー表示をIRモードに切り替え》


《ラズリ、ウィルコ》


スイッチを押すとヘルメットバイザーに映し出される風景が白黒に切り替わり、熱を持っている部分が白っぽく表示される。360度カメラだし自動捕捉機能もある、滅多なことがない限り見逃さないと思うけど。


《こちら駆逐艦『サラン』ナワバスタンの勢力圏に入った、対空見張りを厳となせ》


レバノバジギスタン製駆逐艦『サラン』、事前に貰っら資料では兵装は100ミリ砲一門、30ミリCIWS二基、VLS32セル、四連装短魚雷発射管二基、回転式対空レーター、射撃方位盤二基を装備する至って汎用的な駆逐艦だ。性能はさすがにイージス艦には劣るが、レバノバジギスタンでは新鋭の部類に入る。


ここまでしてるんだ、たとえ何かあっても大丈夫、自分にはそう言い聞かせていた。


〈お手並み拝見といこう〉


突然今まで聞いたことの無い声が無線から聞こえる、周波数を確認すると国際無線だ、ということは。


〈バクヤ隊、参る〉


J-20のバクヤ隊の登場だ、しかも会敵前に自分から名乗ってくるなんてどんだけ自分の腕に自信があるというんだ。


しかしまだレーダーにも写ってないし、目視でも確認できない一体どこから来るんだ、一気に辺りの空気が張り詰める。


それよりも先に!


《バクヤ隊と殺り合えるとは光栄だ、ルーク隊、エンゲージ!》


ボクたちの前を飛んでいたF-14は三機が各方位へ散開。


《アルフレート隊交戦許可、シューレ交戦!》

《ラズリ交戦っ!》


ボクとラズリは一定の距離を保ったまま直進する。バクヤ隊は二機編隊、機体性能は不明な点が多すぎてよく分からないが各隊で一機に絞ればなんとかなるだろう。


赤外線カメラ越しに周囲を警戒するが何も映らない、散開したルーク隊も雨の向こうに消えていって見失ってしまった。


《シューレ、どうする?》


ラズリが指示を待ってるみたいだけど、どこにいるか分からない敵相手に変に動く訳にもいかない。相手からは位置はもうバレてるかもしれないし。


《このまま》

《ウィルコ》


とりあえずは警戒を続けるしかなかった。


それから何十秒経っただろうか。


《居たぞ!雲の上だ!》


ルーク隊の2番機か3番機かが叫び、ボクたちはエンジン全開で操縦桿を思いっきり引っ張り急上昇。


程なくして晴れ渡った雨雲の上に出た瞬間、先に戦っていたのであろうF-14一機が煙を吐きながらゆらゆらと落ちていくのが遠くに見えた。


その後すぐに小さなパラシュートが開くのが見えたけど、あの一瞬で何が起こったんだよ。


《くそっ、ルーク3墜落。やっぱりアイツら理不尽だな》


僚機が撃墜されたというのに意外と冷静なルーク1、ベイルアウトしてパラシュートが開いてるし生きてるのが分かればそれはそれでいいってことなんだろうけど、ボクからしてみたら胃が痛かった。


そして、ボクたちもJ-20一機を視認、ルーク隊が対処に向かっているのが分かる。


しかし、バクヤ隊は二機編隊のはずだもう一機はどこに?


《ブレイク!》


とてつもなく嫌な予感がして叫ぶと、回避行動をとった直後にミサイルアラートがコックピットに鳴り響き、ラズリがフレアを発射、ボクたちに向かってきたミサイルはフレア目掛けて爆発した。


《そのまま回避!一旦雲に逃げ込みます!》

《ラズリ、ウィルコ!危なかったーぁ》


ボクとラズリは機体をそのまま上下反転させ急降下、すると雲の隙間からから上昇してくる暗緑色のJ-20とすれ違い、奴もそのまま反転し追従してくる。


数では有利なのに何故か勝てる気がしない、ラズリと散開した方がいいとも思うが、各個撃破されてしまう可能性がある、デタラメにバラバラに行動することは避けた方が良さそうだ。


《どうするの!?》

《考え中です!!》


雲に逃げ込んだのはいいものの敵を見失ってしまった、それは敵も同じことだろうどおちおち雲の上に出る訳にも行かない。


海には駆逐艦もいる、このまま雲の下に降下して艦対空ミサイルで対処してもらった方がいいとも考えるが敵の目標はボクたち戦闘機だ、油槽船を無駄に危険に晒すわけにもいかない。


どうすればいいんだ・・・・・・。


ツルギならどうする・・・・・・。


考えろ、ボク!!


このまま逃げ回っていても埒が明かない。そうだ、だったらツルギのようにすればいいんだ。


《ボクが先に上がります、敵がボクの後ろに付いたら合図するので上がってきてください》


《囮になるってこと!?》


《藍さんにしか頼めません》


《んもーー、頑張る》


若干否定的な藍さんだったがもはやこれしかない、二人同時に上がったところでどうすることも出来ないだろうし、やっとツルギが囮にこだわってる理由がわかった気がする。万が一何かあってもボクだけが危険で済む。


《いきます!》


《ラズリ、ウィルコ!》


ボクは機首を上げ先に上昇、勢いそのままに雲を出た瞬間。


「え?」


主翼が当たるか当たらないかぐらいの右真横に、今までいなかった機体がボクにピッタリとくっついていた。


ラプターのような形だが水平尾翼がついていない先進的な機体。


灰色デジタル迷彩のYF-23。


垂直尾翼に描かれているのは中央に一つの白色の流れ星、その周りにある薄灰色の四つの流れ星。


「うそだ・・・・・・」


なんでこんなところにいるんだよ、なんでまだ飛んでるんだよ!!


《スカイレイン・・・・・・》


思わず口から出たその言葉。

それをYF-23は聞いていないとは思うが、途端に一気に青い炎を吹き出しエンジン出力を上げボクの前に出たと思うと。


《いつの間にこっち向いてんだよっ!》


ピタッとYF-23はボクに背面を見せたと思うと空中に止まって見せ、今の今はまで同じ方向を向いていたのにいつの間にか機首が僕の方を向いている。くそっ間に合わないかっ!機体を捻って回避行動を取ろうとするも時すでに遅し、YF-23はミサイルを発射しそのまま一回転、どこかえ飛んでいく。


《ソラ!!》


藍さんの叫び声が聞こえる。こんなところで終わってられないんだよ!と必死になって操縦桿が折れそうなぐらい倒して機体を捻るとミサイルはボクを通り過ぎ後ろで爆発。


「え??」


振り向くとラズリとボクの間にいたのであろうJ-20だった物が火をまとい、バラバラになって落ちていくのが見えた。


《大丈夫!?》


その後すぐにラズリが僕の横に来て心配してくれる。

良かった、のか?


でもなんであのYF-23がこんなところに?

あの機体色、エンブレムは間違いなくツバサお兄ちゃんと一緒に飛んでいたタックネーム「スカイレイン」に間違いない。


まさか、まだツルギを探しているのか?


《ソラ?》


《あ、ああ、大丈夫です。ありがとうございます、あの機体は?》


《レーダーロストしたよ》


《そうですか、・・・・・・ルーク隊の援護に向かいましょう》


《うん?ウィルコ》


考えるのは後だ、スカイレインらしい機体は一瞬でどこかへ行ってしまったし、ラズリの言うようにレーダー探知機すらしてない、先ずは残ったバクヤ隊の対処が優先だ。


《ルーク1、援護します!》

《助かる、大きく周り込め!》

《シューレ、ウィルコ》


それから圧倒的数的有利、敵の増援も来ることはなく、残ったJ-20はたまらず撤退。YF-23もそれから現れることなく作戦終了。


ボクたちはルーク隊から労いを貰って端島へ帰投した。



端島基地。


無事に帰投し、駐機場に機体を駐めてコックピットからタラップを使ってゆっくりと降りる。


なんであの人はまだ飛んでるんだ。


飛ぶ理由なんてないはずだ。


あの人はあれからずっと飛んでいたのか?


いろいろな思いが交錯し歩きながら考え込む。


ツバサお兄ちゃんとエレメントを組んでいた、ウイジクラン空軍のパイロット、ルイ・アレイという女性。実際には会ったことは無いがあの時、ツバサお兄ちゃんの仇を打つ時にそれなりに調べたし、顔ぐらいは分かる。


元スカイレイン隊五番機、領土問題による突発的な戦闘で、当時ローレニアに所属していた「イエローライン」ことツルギたちに一番機と三番機を撃墜され、繰り上げでスカイレイン3となるも。その後、新たな一番機と二番機もツルギたちに撃墜され、一機になってしまう。


そこで、傭兵としてウイジクラン空軍に入隊したツバサお兄ちゃんとエレメントを組むことになる。彼女のタックネームは「スカイレイン」、流れ星という肩書きを持って、タックネーム「メドラウト」ことツバサお兄ちゃんとあの戦争を戦っていた。


だから、僚機を全員イエローラインに撃墜され、ツルギを殺したがってることは知っているが、まさか今の今はまでずっと飛んでいるとは思いもよらなかった。


ツルギたちはここ十年全く音沙汰がない、出てくるまで強いやつを片っ端から落とすつもりなのか?


「ソラってば!」


「え!?あ、何ですか?」


背中をバチーンと叩かれ我に返ると、隣にいたのであろう藍さんが僕の顔を覗き込んでいた。


「何じゃないよ、ずっと呼んでるのに返事もしないで。何か考え事?」


「いてて!」


ほっぺをグイグイと摘まれる。


考え事、か、彼女にはなんて説明したらいいんだろうか。ツバサお兄ちゃんがどんな人かは説明したけど、異国の地でエレメントと結婚してたことも言ってないし、ましてや死んだことも言っていない。


あんな大々的に出てこられるとずっと秘密にすることも難しいだろう、ボクたちの敵にならないとも限らない、落としたくないけど・・・・・・。


いつの間にか立ち止まって考え込んでしまう。


「ツバサお兄ちゃんの事覚えてますか?」


「え?ああ、ソラを拾ってくれたって人?」


「そうです」


唐突なボクの質問に首を傾げながらも、彼女は覚えてくれていたようで答えてくれる。


「あのYF-23、見ました?」


「うん、凄い理不尽機動だった。・・・・・・ツバサって人と関係あるの?」


大ありだ、まあ知らなかったら分からないか。


「あの機体はタックネーム『スカイレイン』、ツバサお兄ちゃんのエレメントで、奥さんなんです」


「え?はえ??」


その反応は妥当だ。


「エレメントで奥さんなのは、まあいいとして、なんで単機で?」


「ツバサお兄ちゃんは死んだので・・・・・・」


「え、あ、ごめん・・・・・・」


自分で「死んだ」と言ったのに涙が込み上げてきた。


助けようと思えば助けられたツバサお兄ちゃん、いや、シロお兄ちゃんを助けることが出来なかった。


そのせいであの人はまだ空を飛んでいる、あのままお兄ちゃんを守ることが出来たら幸せな生活を送ることができたはずなのに。


「え、ちょっと、そんなつもりじゃ・・・・・・」


突然泣いてしまうボクの背中を擦ってくれる藍さん、貴女のせいじゃない、これはボクのせいだ。


「全部ボクのせいなんです・・・・・・」


「どういうこと?一回落ち着いて」


そんな彼女の言葉も耳に入らず、ボクは地面に座り込んでしまった。

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