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第82話 代償

それからあっという間に日にちは経ち。


8月6日。16時、駐機場。


パレン空軍基地にはローレニア空軍のプロペラ輸送機「Il-112」がエプロンに今後方から駐機されたところだ。


黄色の二等辺三角形の国籍マークがよく目立つ。


ソラたちの姿は無い、要らぬ誤解を回避するためと、居たら居たでうるさそうだからな。ローレニアの指定で俺と整備員以外は出るなとなっている。


格納庫からレッドクロー隊の三機と無人機が出てきた、彼女たちの護衛の元、ここから西へ飛び立ちタワナで検査やらなんやらして一泊し、バルセル経由で明日の昼頃にはローレニアに到着する予定た。


輸送機後部のカーゴドアが開き、誰かが降りてくる。


ロングコートを着て、パッと見幼そうに見える人影は直ぐに誰か判別できた。


「ツルギ!迎えに来たよ!」


やけにハイテンションなやつ。


「やっぱお前かよ、ヒナ」


「へ?」


はぁ、と思わずため息が出た。


お前のアンチどれだけいると思ってんだ、ソラが居なくて本当に良かった、危うく交渉決裂するところだったよ。俺だって表面には出さないが、こいつのことは好きではないし。


それにあいつは車椅子生活だったはず、だけどなんで自立してるんだ?


「行くよツルギ」


あー、そういう事か。


ヒナが俺に手を伸ばすとカチャカチャと音を立て機械式の義手が見えた、すげーなちゃんと指一本一本が動いている、神経に直接繋いでるのか?よく分からん。


俺はその手を取るのに躊躇する。


「あのニグルムのことは不問にするからさぁ、そんなに怒らないで欲しいなぁ」


いつまで経っても子供っぽいな、だが、ソラのことは見逃してくれるのか。嘘か本当かは分からない、こいつは信用出来ないランキング世界トップだからな、兄さんに許可取ってるとは思えないし聞き流しておこう。


「ああ」


俺はヒナの手を取った。



自室。


ボクはベッドに横になって二段ベッドの天井をじっと見ていた。


お別れはしたものの最後ぐらいは見たかったな、いや、最後では無い、きっといつか会える。


それでもだ。


そして、藍さんはカリムに手伝って貰いながらボストンバッグに荷物を入れ、帰る準備をしている。


そう、ボクたちはツルギが引き渡されるとエルゲートに帰る、正確には明日だけど。


あまり実感は無い、約二ヶ月と短い間どったけどいろいろありしすぎたし、後悔しかない。


「はぁ」


出したくないが、ボーッとしていると思わずため息が漏れてしまった。


「ため息しないの」


「すみません」


「謝らない!」


「はい」


荷物をしまいながら怒られた。


ちなみにボクの荷物整理は終わっていて、ロロウとルイさんの荷物はさすがに戦闘機には載らないのでダンボールに収めて空輸で端島に送るようにしてある。


「イテテテ」


まだ時々刺された腹部が痛む、「うぅ」と目をしかめながら藍さんたちの方に寝返りを打ち、痛みが引いできたので目を開けると、目の前にカリムの顔があった。


ボクよりイケメンでどことなく可愛い・・・・・・じゃなくて!


「わっ!ど、どうしました?」


「いいや、何も」


「??」


どうしたんだろうと思っていると荷物整理が終わったようで、藍さんは自分のベッドの縁に座り、カリムはパイプ椅子に座る。


ボクも少し痛む腹部を擦りながら、自分のベッドの縁に座り肘を膝について前かがみになる。


「・・・・・・隊長らしいことは全然できませんでした、ロロウもルイさんも守れなかったですし、ツルギみたいな戦果もあげることができなかったです」


ボクの反省の弁を二人は静かに聞いてくれる。


「藍さん」


「なに?」


「頼りないボクを、いつも支えてくれてありがとうございました」


「なによ、今から死ぬんじゃあるまいし」


確かにちょっと変な言い方だったかな?珍しく彼女はクスクスと笑っている。


「カリム」


「ん?」


「飛行隊長なのにボクの下に着いてくれてありがとうございました、カリムがいると安心しましたし、とても頼りになりました」


「ああ、当然だ」


腕を組みフッと少しドヤ顔をするかリム、そんな彼女を藍さんは睨んでいた。


「ロロウ」


ここに彼女はいないがエレラメントだった、二人はハッとしたがすぐに視線を落とす。


「ボクが不甲斐ないばかりに守れなくてごめんなさい、またいつか天国で会いましょう」


いつかはいつになるか分からない、どこかの戦闘で死ぬかも分からないし、寿命で死ぬかも分からない、それまで彼女は待ってくれるかな。


「リズさん」


カリムが顔を上げてボクを見つめる。


「カリムを責めないであげてください、カリムは凄いです、だから、仲良くしてください」


「なんだよそれ」


鼻で笑って頬を掻き、少しだけ恥ずかしそうにしている。


「ルイさん」


神出鬼没でいつも助けられていた彼女、最後は非常に呆気なく、何もすることが出来なかった。彼女はここに死に場所を求めていたのかもしれない、そんなことを考える。


「天国でシロお兄ちゃんとお幸せに、あなたといた時間はとても楽しかったです」


言い終わって少し湿っぽい感じになると、藍さんとカリムがボクの両隣に座る。


バチーン!


「いった!!??」


カリムに思いっきり背中を叩かれた、結構な痛さで背中を捻って悶えていると。


「泣くなよ」


肩を組まれ頬に息か当たるぐらいの距離でニッと笑いながら言われた。


「な、泣きません」


出てきそうだった涙が引っ込んでしまったよ。


「ちょっと!どさくさに紛れて何してんのよっ、ソラから離れなさい!」


焦った藍さんがカリムをグイグイ押して引き剥がそうととするがボクよりガタイのいい彼女をどうにかすることも出来ず、「んー!んー!」と頑張っていると。


「あぁ?別にお前の所有物じゃねぇだろ」


「所有物って」


ボクってモノ?


そう言われて藍さんはむきー!としていると。


プロペラ機独特の風を斬る音が基地内に響き始めた。


そろそろか。


ボクは見えないけど部屋の窓へと歩み寄り、青く透き通った空に向かって敬礼をした。



輸送機内。


輸送機は飛び立ち、今は西に向かっている。


ヒナは俺の隣に座り、嬉しそうにずっと脚を前後に降ってバタバタさせていてとても忙しない。


「なんでわざわざタワナ経由なんだ?」


「あ、やっと喋った」


まあ、お前と話すことなんてそんなに無いしな、変に雑談してたらキレるかもしれないし。どちらかが。


「ツルギの声はいつ聞いても惚れ惚れするねぇ」


「いいから、知ってるなら話せよ。どうせ俺は殺されるんだろ?」


くねくねして女々しいヒナ、俺のことが好きなのは百歩譲っていいとして行動には移さないで欲しいな、俺にそんな趣味はねぇ。


「え?殺されはしないよ?」


「え?」


そうなの?


「理由は知らないよぉ、従兄さんに直接聞いて」


また、兄さん何か変なこと考えてるのか?どんな話でも乗る気は無いぞ?


「で、なんでタワナ経由か、だっけ?長距離輸送機のIl-76は全部出払っててね、これしかちょうどいいのがなくて航続距離的に直で届かないから。単純な話さ」


そんな大型輸送機が全部使用中なんてことある??まあ、俺なんかを輸送するためにあんなでかい輸送機を使うのもコスト的に割に合わないか、特に急ぎでもないんだろう。


「また戦争をするのか?」


輸送機が忙しいってことは武器兵站の移動だと思っていい、またどこかと戦争する気なのか?だから南方諸国の戦争を早く終わらせたかったのか。


でもどことだ?


「さー、ボクは研究が忙しくて内政外政はさっぱりだから」


だろうな、政治には全く興味ないもんな。


「あっ!!」


何かを思い出したかのようにハッ!とするヒナ、何だ何だ?


「僕の研究所にずっとサイバー攻撃が来てるんだけど・・・・・・、何か知らないよね?」


おっつ、ヤバいとか思っていると、それを感じとったのかのほほんとしていた顔は急に睨みを効かせ、俺の胸ぐらを掴む。


「サイバー攻撃なんて普通だろ、このご時世だしよ。さっさと対策した方がいいんじゃないか?」


否定も肯定もしない、変なこと言うとブスッとやられそうだし、ヒナはいくらこんな何も考えてなさそうなヤツとはいえ、そういうこともやりかねないから。


しばらく俺の胸ぐらを掴んだまま睨んでくる、俺はその目をじっと見つめる。


目を逸らしたらここは負けだ。


するとそっと手を離す。


「まあいいや、対策面倒なんだよねぇ、手伝ってもらうからね」


「はいはい」


俺が手伝ってなんかなるもんなのか?拒否もできないし適当に返事をしておこう。


「やった」


ぐっ、と拳を握ってガッツポーズをしていた、ただ理由をつけて俺と一緒にいたいだけなんじゃないか?怖い怖い。


「はぁ、にしても久しぶりのローレニアだ、嫌な思い出しかない」


「住めば都だよ」


「そう簡単に言うな」


俺の言葉にヒナはムフフと笑い、俺の肩に頭を預け「ちょっと寝るっ」と言って寝始めてしまった。



8月7日8時。


パレン空軍基地。


約束通り戦争は終わり、1時間前に南方諸国合同による白紙条約が交わされ、何もかもが現状復帰、なんのために彼ら彼女らは死んだのか分からないような条約が交わされた。


「寂しくなります・・・・・・」


「ああ、またな」


カリムはこの国に残ることを決めた、彼女の決めたことだ、ボクがどうこう言ったところで何も変わらないのはわかっている。


にしても、ボクよりイケメンな背の高い女性に頭を撫でられているのは傍から見たら変な光景だな。


「リズの墓の面倒を見ないといけねぇからよ」


「わかってますけど・・・・・・」


「なに?お嫁に貰ってくれる気になった?」


要所要所で女の子を出さないで欲しい、リズムが狂うし、藍さんが警戒態勢になってボクの腕を抱きしめてしまっている。


「冗談だよ」


悪くニヒヒと笑い、藍さんの頭をポンポンと叩く。藍さんは嫌そうな顔をしているが、払い除けたりはしない。


「生きている限りいつか会えるさ、じぁあな。それと、ありがとう」


カリムは今まで堪えていたのか泣き出しそうな顔になると、それを誤魔化す為かボクたち二人をギュッと力の限り抱きしめた。


「てててて、カリム痛いですよ」


だいぶ力が強い、腹部の傷まで響いてくる。


「ああ、すまん」


彼女は目元を袖でゴシゴシ拭くとニッと笑う。


「では、また会いましょう」


「またね」


僕もニコッと笑って手を振る、藍さんもなんだかんだカリムのことは認めているので次もまた会いたいみたいで良かった。


駐機場に出されたF-35に乗り込み準備を終え滑走路に向かう。


まだ格納庫には黄色の一本線が描かれたF-35が残されているが、いずれエルゲートが回収に来る話になっている。


《ーーこちら管制塔、アルフレート隊、離陸を許可する。・・・・・・この国を代表して言おう、我々のために戦ってくれて、ありがとうーー》


なんだか恥ずかしいな。


《大したことはできませんでしたが、お役に立てて光栄です》


ほんと、やる事やってたのはツルギたちブルー隊や、ルイさんのスカイレインだ、ボクたちは大したことはしていない、たまたま生き残っただけ。


《シューレ、離陸します》


《ラズリ、シューレに続く》


ボクたちアルフレート隊はパレン基地を離陸、一旦ぐるっと回って基地の上空に戻ると、両翼を上下に降ってバンクをし、進路を北北東にとって端島に帰った。



エルゲート連邦、端島飛行場。


いやー、なんだかすごく懐かしく感じる。ついさっきまで寒いところにいたのに、今やコックピットから見ても暑そうな常夏な島が眼下に見えている。


ボクの故郷、端島だ。


《ーーこちら端島管制塔、アルフレート隊、着陸を許可する。お疲れ様ーー》


《アルフレート隊、シューレ、着陸します》


《ラズリ、着陸します》


そして、何事もなく着陸し、駐機場に機体を駐める。ここまでは本当に何事も無かった。


荒木さんが駆け寄ってきて、お久しぶりですと声をかけようかと思ったら、顔が引き攣りなにか焦ったような彼の方が先に口を開く。


「剣の乗った輸送機が落ちた」


「え?」


ボクは体に力が入らなくなり、手に持った荷物をドサッと落とし、膝から崩れ落ちた。

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