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第80話 送別

コンコン。


「・・・・・・ん?」


扉をノックする音で目が覚めた。


目が覚めたって寝ちゃってた!いつの間に!慌てて起きようとするも両手が重くて起き上がれない。クソッなんでた!と左右を見ると見事に藍さんとカリムがボクの腕を抱いて眠っていた。スヤスヤと寝息を立てているし、手を又に挟んでいるみたいで全然抜け出せない。


「入るぞー」


ツルギじゃん!やばい!誰でもやばいけど!


と思った時には時すでに遅しで、既に扉は開き目を点にし、何故かTシャツ、ジーパンの私服姿の彼と目が合った。


「おっと失礼」


空気を無駄に読み、回れ右をしてすぐに扉を閉めようとするツルギ。


「待ってください!二人共起きてください!」


声を上げると両隣の二人が眠そうに起きた。


「なに・・・・・・」


「・・・・・・んー、おうツルギ、どうした?」


寝ぼけ眼で目を擦る藍さんに、何も無かったけど?みたいな感じで普通に話しかけているカリム、まだボクの腕には二人の胸の感触が残ってるって言うのに。


「夕方集合って言ったのに来ねぇからよ、心配になって見に来たらイチャついてたって訳」


「イチャついてません!」


多分!眠気がすごくて覚えてないけど!って今何時だ?と枕元の時計を見ると18時を回っていた、既に外は真っ暗だ。


「すみませんっ、ボクとしたことが疲れが溜まってたみたいで」


今まで寝坊とかほとんどしたこと無かったのにやってしまった、ちょっと目を瞑るだけでも念の為アラームはしておいた方がいいな、二人はボクが寝てからくっついてきたんだと思うし。


「ああ、そんなとこだろうとは思ってたさ。んで、行くか?」


「行くって、どこにですか?」


寝ぼけたままの藍さんはポヤポヤした状態でボクの腕に捕まっているが、次の彼の言葉に目を覚ます。


「どこって、呑みに」


「いくいくいくいく!行きます!」


急に覚醒し飛び起きてはしゃぐ藍さん、なんでそんなにハイテンションなんだ?と眉間に皺を寄せていると思い出した。


この人やばいぐらいの酒豪だった、会ってすぐに泥酔した藍さんに絡まれたのを思い出す。


しばらく飲む機会とかなかったから完全に忘れていた。


「行きましょうか、カリムはどうします?」


「あ?行くに決まってるだろ、来て欲しくないのか?」


「そうは言ってないじゃないですか」


なんでそんな喧嘩腰なんだよ、まあ確かに、「どうします?」じゃなくて「行きましょう」の方が良かったのかもしれない。


「レッドクローも誘ったんだが断られた」


「そうなんですね」


レッドクロー隊のリルスさんとライルさん、ジルさんは念の為待機しておくとのこと。みんながみんな飲む訳にはいかないだろうし、気を使ってくれたのかな?お土産買っていかないとな。


でも、普段静かなライルさんがお酒を飲むとどんな感じになるのか見てみたかった気もする。


「そうか、んじゃ行こうぜ」


「でも、大丈夫なんですか?」


変に外出したら矢面に立たされるじゃないだろうか、それだけが心配だ。


「陸軍の酒場に行けば俺の顔を知ってるやつなんてほとんどいないだろ。でも、飛行服はまずいから着替えろよ」


あ、それで私服なのね。確かに空軍基地より陸軍基地の方が酒場は広いし、みんながみんなに顔が割れている訳でもない、それに夜だし騒がなければバレることもないか。藍さんが叫びそうで心配だけど。


それよりも。


「私服、無いですよ?」


「え?」


だって遊びに来たわけじゃないし、飛行服とフライトジャケットと寝巻きぐらいしか持ってきていない。荷物が多いと色々困るし余計なものは一切、という感じだ。



「・・・・・・似合ってるぞ(笑)」


「笑わないでください!!!!」


案の定というかなんというか、ツルギは貸せるほど冬物の服を持ってないとの事だったのでカリムの服を借りていた。ズボンはピッタリだけど少し丈が長かったので折らないといけないし、女性物のシャツがピッタリなのも納得いかない。


そして藍さんもカリムの服を借りているのだが、さすがにちょっとブカブカで、オーバーサイズコーデだと試行錯誤して着こなしていた。


カリムはというと、タイトなジーンズにベージュのワイシャツを着ていて無駄に第二ボタンぐらいまで開けている。


「・・・・・・カリムの匂いがするんだけど」


なんか怒ってるし。


「そうか?俺には無臭だが?」


まあ、本人は分からないだろうけど結構ないい匂いがする、どうかしてしまいそうだけど、藍さんの変な視線で平常心を保てている。


「興奮すんなよ」


「しませんっ!」


なんだよもう!からかうな!


すんごいニヤニヤ笑ってるし、しばらく弄りられそうだ。


「じゃあ、行くか」


「あ、はい!」


やや早足な藍さんを先頭にボクたちは陸軍基地の酒場に向かった。



隣接する陸軍基地内のバー、というか、クラブ?に来ていた。


暗く音楽が大音量で奏でられるクラブ、こんなんじゃよっぽどな事じゃない限りバレないだろう。


それに、めちゃめちゃ久しぶりに来た、六月ぐらいに来たはずだから一ヶ月半ぶりぐらいか?あの時とはメンツが全然変わってしまったけど、カリムにめちゃくちゃ飲まされたのはよく覚えているし、ロロウの怒涛の如くの色仕掛けに、それに対し発狂する藍さん、何もかも皆懐かしい。


そいやあの時はツルギはいなかったな、なんだかんだ彼と飲むのは初めてかも。


テーブル席に着き、奥側にツルギと藍さん、ツルギの隣にカリム、藍さんの隣にボクが座ると。


「とりあえずビール!」


彼は勝手に注文していた。


「あ、でよかった?」


「おせーよ、いいけどよ」


「大丈夫です」


「うん!」


意外と楽しみにしていたのだろう、ちょっと浮き足立ってる感じがするし、藍さんは最早待てをくらったハスキー犬のようにハアハアしていて今にもヨダレがテーブルに着きそうな勢いだ。


「カリムに無理やり飲まされたのが懐かしいですね」


ビールが来るまで少し時間があるだろう、無言も悪いし話を振ってみると。


「そんなこともあったな、今日も飲めよ」


「あ、はい」


テーブルに頬杖をついてニッと笑うカリム、か、かっこいいのに可愛い・・・・・・、じゃなくて。変に話を振るんじゃなかった、そんなに強くないんだよね。


それに、胸元がチラッと見えている、慌てて目線を逸らすと怪訝そうな顔の藍さんと目が合う。


「なによ」


「いえ、こっちがなんですか」


「エッチ」


「違います!」


もう酔ってんの?雰囲気で?このままじゃ先が思いやられるよ?


「なんだ?見たのか?」


恥ずかしそうに少し開いた胸元を隠すカリム。


「見てません!(見た)」


わざと開けてるくせに、ムキになって怒ると。


「んー、俺邪魔?」


蚊帳の外のツルギ、話に入れないのはすみません、でもこの二人がぶっ飛ばしてるものでボクでは修正が聞かなくてですね。


「絶対いてください」


「そう?」


ツルギがいないと着ぐるみ剥がされかねない、平穏を保つためには彼が絶対に必要だ。ツルギがいたら二人もそんなに暴れないだろう。


そうこうしているとすぐにジョッキのビールが届いた。


「んじゃ」


みんなビールを持つと、ツルギから一言。


「ここにいるヤツもいないヤツもよく頑張った、まだ終わってないけどとりあえずお疲れ。みんなに乾杯」


「「「乾杯」」」


追悼の意を込めながら少し静かめにグラスを当て、みんなビールを一気飲みする。


久しぶりに飲むから。


「くーーーーっ、染みるーーーーぅっ!」


と、藍さんがおじさんみたいになるぐらい五臓六腑にビールが染み渡る。


ちょっと、しんみりしていたのか嘘みたいだ。


「藍さん、もうちょっと落ち着いて飲みましょう」


「いや!一生分飲む!お兄さん!ビール!!ピッチャーで!」


うん、すごくうるさい。


「あーあ!」


もうなんかピッチャーごと飲みそうな勢いだ、すごい剣幕に店員も驚いている。


「こら隊長、エレメントの面倒はしっかり見ろよ」


「限界があります!」


ずっとニヤニヤしてんなカリムは、何がそんなに楽しいんだ?視線に迷ってツルギを見てもニコッとするし、藍さんは荒れてるし。


すると、藍さんの剣幕にやられたのかピッチャーがすぐ来た。テーブルに置いてもらうとスススッと藍さんが奥に移動させ自分で自分のグラスについでグビグビと飲んでいる。


「ぷはーーーー!」


ぷはーーーー!じゃねぇよ!こりゃ気にしてられないな、自由にさせておこう。


「カリム、注ぎますよ」


「バカか、隊長に注がす部下がどこにいるんだよ」


え?ここに。つってもカリムも飛行隊長じゃん。


別に気にしないのに、と思っているとカリムはボクのグラスを奪い、ツルギと彼女のと一緒に器用に注いだ。


「ほらよ」


「あ、ありがとうございます」


藍さんはビール10に泡0だが、カリムは上手でちゃんとビール8に泡2ぐらいにしてくれる。


「んでだ、ツルギ」


「ゴホッゴホッ!なに?」


腕を組んでソファーにもたれたと思うと急にツルギに話しかけるカリム、ツルギはびっくりしたのか飲みかけたビールが肺に入ったのだろう結構噎せていた。


「あの話受けるのか?その話がしたいんだろ?」


「お前なんでも知ってんな」


「これでも付き合いはなげー方だからよ」


「あー、三年か?ひよっこだった頃が懐かしいよ」


「うるせぇ、黒歴史だ」


え?そんなに付き合い長いの?確かにツルギがいなくなってしばらくこの国にいて、カリムは確か今26歳でこの基地に配属されたのが三年前だったかな?だから三年の付き合い?


ボクより長いんじゃない?結局グレイニアにいた時しか関わりないし。


いや、それでもカリムのこと男だと思っていたよね、そんなに気が付かないもん??よく分からないや。


「何嫉妬してんだよ」


「してません!」


なんか見透かされてる。


「あの話は俺がどうこうってより、この国がどうするかって方がでかいだろ。大きな犠牲を払ってまで俺を匿うのも無理があるしさ」


あの話、ツルギと引き換えに戦争を終わらせるという話だ。確かにツルギの言っていることは分かる、たかが傭兵一人に国の命運をかけるのはおかしい。


「カリムはどうなんだよ、この中でこの国の奴はおまえだけだ」


「俺か?縁がある以上ツルギには死んで欲しくない、だが、正直なところは複雑だ。このまま続けて死んだ方がいいのか、お前を差し出して生きながらえた方がいいのか・・・・・・」


「悪い、変なことを聞いたな」


「いいさ、俺も十分変だ」


カリムも彼女なりに葛藤はある様子だ、でもボクも彼女には死んで欲しくない、リズさんの分まで長生きして欲しい。でも、ツルギには行って欲しくない、だからといってボクが何か出来る問題でもない。


「カリムは変じゃないですよ」


「そうか?ありがとな」


ボクの言葉にニコッと笑ってくれるカリム、普段はキリッとしているからギャップが凄いが、なんだか心配だ。


「まあ、結論は俺はあの話を飲まざる得ない、それについては誰のせいでもない。てことでこの話は終わりだ、ほら酒が進んでないぞ!」


「ちょ、待て!んむっ!」


しんみりするのを嫌ってかみんなに酒を飲むように促し、隣のカリムには無理やり酒を飲まそうとしている。


ボクがどうこうしたところで何も変わりそうにないな、これは本人主催の送別会のようだ。


ここで駄々をこねるような幼稚なボクではない、悔しいが話を受け入れないと。


ビールを味わって飲んでいると、今度はツルギがお返しとばかりにカリムに無理やり飲まされていた。


んー、平和だ。


「食べ物は頼みますか?」


「好きなの頼め、俺の奢りだ」


おお、マジで?さすが資産うん十億(ボク調べ)のツルギだ太っ腹。でも、戦闘機の整備費とか自腹そうだし、そんなに裕福では無いと思うけど今日はお言葉に甘えよう。


「ポテトー!!」


「わかりました」


うぃー、とこの短時間にいったい何杯飲んだというのか、既にほぼ泥酔状態の藍さん、彼女を軽くあしらって適当に食べ物と追加の酒を注文する。


程々にしろと言っても彼女は聞かないだろうし、暖かい目で見守っておこう。まあ、ボクもカリムにどれだけ飲まされるかは分からないけど。


「ところでカリム?」


「なんだ?」


そういえば気になっていることがあったんだった。


ソファーに持たれてくつろいでいた彼女は、頬杖をして前かがみになり、わざとかなんなのか谷間を見せつけてくる。


視線に困りながら話をつづける。


「戦争が終わったらどうするんですか?」


「あ?どうってどうだよ?」


眉間に皺を寄せ、クエスチョンマークを頭の上に浮かべる彼女、どうって聞かれると説明に困る。


「いえ、端島に来ないのかなー?と思ったりしてですね」


「なんで?」


「なんでって聞かれましても・・・・・・」


だんだん声が小さくなってしまうし、藍さんの怪訝そうな視線も気になる。これは、察しが悪いというのか?もしやボクの方が悪いのか?


「まあ、端島かぁ」


今度はソファーに持たれて両手を頭の後ろで組むカリム、何か考えるように「んー」と唸るとビールを再び一気飲みする。


「俺と結婚する気なら考えてやる」


「ブーーーッ!」


「はぁ!?」


何を言い出すかと思えば、思わず口に含んだビールを吹き出してしまい、藍さんは机をバンッと叩いて威嚇している。あまり騒がないでください、辺りをキョロキョロすると誰も気に止めてないようで良かった。


それを見てカリムはクスクスと笑い。


「冗談だ、考えとくよ」


え、そうなの?来るなら来るでボクは全然構わないけど、よく良く考えればカリムの言っていることは至極当然だ。


いくら平和になったとはいえ、結婚もしないのに知らない国にわざわざ行くことは無いだろう。でも、考えておくと言ってくれたからにはこれ以上深堀はしない方がいいかな。


「結婚って誰が誰とぉ」


今にも暴れそうだが、うぃー、と完全に酔っていてフラフラしている。


「その話は終わりました、ほら、飲んでください」


「終わりぃ?はーい」


ビールを勧めるとグビグビと飲みだす彼女、適当にあしらってるけど大丈夫かな?大丈夫か。


これがツルギと飲む最初で最後なんて考えたくもないかな。


いや、最後じゃない、絶対に。

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