第76話 けじめ
《ヒナ・・・・・・、お前しつこいな・・・・・・》
怒りを通り越して呆れているような感じのツルギ、わらわらと無人機に追われているのにヒナの心配をするなんてそれはそれで凄いが、本当に奴はしつこい。
コックピットが無いSu-47が、ボクたちの前に立ちはだかる。
〈え?だって試作機の試験にはちょうどいいし・・・・・・〉
ボクたちは実験台かよ。あー、何度同じことを思ったろう、マジであの時殺しとけばよかった。
〈ツルギにも会えるし!!〉
《くそっ・・・・・・》
無人機を引き連れたままヒナの対処に向かうツルギ、あれで無傷なんだからどうかしている。
それに、ヒナのツルギに対する愛情というか愛着はなんなのだろうか、当の本人は凄く嫌がっているようだし、ヒナの一方的のものなのか。そんなことをボクが考えても仕方ないか、正にどうでもいい、まずは目の前の敵を落とす。
今はルイさんを気にかけている暇は無い、あの人は強すぎるし、ボクが手伝った所で邪魔になりかねない。
先に藍さんを助けに行こう。
《ラズリ、カバーします》
《うん、ありがとっ。でも大丈夫なの?》
彼女は話す余裕はある、まだ持ちこたえれそうだ。
《大丈夫では無いですけど、藍さんがいない世界なんて意味がありませんから》
傷は痛むが守れる人を守らないことなんてできない、これが隊長としての勤めだ。
《・・・・・・・・・・・・》
あれ?なんか黙っちゃった?
《おいおい、こんな時に愛の告白なんて余裕だな、俺の敵を半分やるぜ》
《え?あ、え!?》
カリムの言うようなつもりは無い、とか言ったら後で藍さんになんて言われるか分からないし、意図せず墓穴を掘ってしまったか?いやいや、考えすぎだ、そんなこと考えると死亡フラグ認定されてしまう。
とにかく誤魔化すしかない、藍さんの後ろについて、ピッタリくっつく無人機を処理していくが数がおかしい、落としても落としても減らないし、分散した無人機が直ぐにボクの背後に回ろうとして振り出しに戻る。
無人機の搭載しているミサイルは赤外線ホーミングでは無いのか、なかなかミサイルを撃ってこないのが幸いだ。
いや、わざと撃っていないのか?
今の時代、赤外線を使わずにセミアクティブレーダーホーミングのミサイルを使う無人機ってあるか?
その気になれば飽和攻撃だってできそうなのに。
《ツルギ!何かおかしいです!》
こちらはほぼ防戦一方、合間を見て落とせる敵を落としているのだが、どうも相手が本気に見えない。ルイさんの方は次元が違うから多分本気なのだろうけど、無人機は完全にボクらの動きを確認している、そんな気がする。
《だろうな、やっと気がついたか》
まあ、ボクの指摘も虚しく彼は既にわかっていたようだけど。
《無人機ってのは学習する、俺ら以上にな・・・・・・。だからルイも白崎の偽物を落とせない、俺と白崎の飛び方がまざっているからだ》
やけに冷静なツルギ、彼の言いたいことは痛い程がわかるが、認めたくない事実。
戦えば戦うほど強くなる無人機。
《それにな・・・・・・》
彼が追いかけ回していたSu-47が一瞬で火だるまになって空中で爆発する。いや、落とせないとか言っといてツルギは普通に落としてますけど。
などと思っているとまたどこからともなくSu-47が現れ、ツルギと対峙する。
あー・・・・・・。
〈僕は死なないよ、遠隔操作してるし予備の戦闘機なんていくらでもある。あまり落とされると従兄さんに怒られちゃうどね〉
嫌味ったらしく薄ら笑いを浮かべながら煽ってくるヒナ、これにはツルギも舌打ちをする。敵は人的被害はゼロ、戦っても無意味なのでは?そんな気持ちに駆られるがここで食い止めないと基地が危ない、いくら不利でも戦わない選択肢はナシだ。
〈だから、そろそろ時間だね〉
途端に鼻で笑うヒナ。
《ブレイク!各機全力で回避行動を取れ!》
フレアを出し惜しみすることなく展開し急降下していくツルギ。
《くっ・・・・・・》
間髪入れずにコックピット内、いや、脳内に響くミサイルアラート。
藍さんとカリムもフレアを展開し急降下、その後ろを無数のミサイルが襲いかかる。
無人機が一斉に発射したのだ。
しかし、幸いなことにタイミング的に恐らく直撃はないだろう。
ボクは操縦桿を思いっきり引き上昇する、みんながみんな急降下しては上をとられてしまうってのもあるがそれは建前。
(ルイさんっ)
降下した先には基地の対空砲が待ち構えているだろう。それなら、上空で亡霊と戦っているルイさんを助けた方が得策だろう。
役に立つかは別としてだ。
カバーすると言ったばかりだが、藍さんもわかってくれると思う。
(くっ・・・・・・)
急激にかかるGに痛みが強くなる腹部、痛いとか言っている場合じゃない、早くルイさんと合流しないと。
しかし、敵も易々と合流させてくれない。
入れ代わり立ち代わり無人機が背後から迫り、何とか避けるがフレアを無駄に消耗してしまう。これでは亡霊の相手は厳しいか・・・・・・。
《スカイレイン!援護します!》
《ーーーー》
ボクの言葉に返答は無い。
はるか上空で亡霊とドッグファイトを繰り広げるルイさん。ボクがあの中に入ってどうにかなるとは到底思えないけど、ルイさんはボクの僚機だ、何もしないわけにはいかない。
行かないといけないんだ。
《くそっ》
無人機がしつこくなかなか上昇できない、ちらっとツルギたちを確認するが、ツルギはヒナを追い立て、藍さんとカリムは無人機の追従から何とか逃れ、対空砲火により無人機の数は徐々に減っているが、地上基地にも多少の被害が出ている様子、黒煙が所々から上がっている。
たった五機で対処してるんだ、褒めて欲しいよ。
《ルイさん!》
《これは私の戦いよ》
えらく冷静で冷たい声が帰ってきたと思うと、彼女はミサイルを発射。しかし、亡霊に当たる前に爆発してしまう。
やっぱりAPSがついているか、どうやって落とすんだよ・・・・・・。
《許せない・・・・・・》
死んだ夫を勝手にAIにされて生き返らされた怒りは計り知れないと思う、僕だって大切なお兄ちゃんを勝手に使われてるんだ、腸が煮えくり返る気持ちだ。
だからといってあのYF-23を落としてどうにかなるのか?あの機体は試作機だからSu-47のように予備機はないと思うが、データとしては残ってしまう。
するとルイさんはクルクルっと急ロールして急降下、スっとボクの後ろに着く。
《ソラくん、あの約束・・・・・・、守ってよね》
《え、あの約束って・・・・・・》
だいぶ前に彼女と交わした約束、というか半分押し付けられたも同然だけど、お願いごとを書いたメモを渡された。それは今でも大事に保管してある。
《私は私にけじめをつける》
《ルイさん!》
彼女は追いつけない速度で急上昇、するとお前は行かせないと言わんばかりに目前に無人機が現れ、ルイさんには目もくれずボクに突っ込んでくる。
《くっ、ルイさん!!》
このまま突っ込むのはさすがに無理だ、フレアを発射し反転急降下、たまらず藍さんたちと合流する。
すると下の方も大変だ。
《ーー管制塔より各機、新たな小型機探知、方位350、数・・・・・・約40!低空で接近中!ーー》
水咲さんと啓さんがいたら・・・・・・、無い物ねだりをしても仕方がないが、ちょっと弱気になっている自分がいる。
《クソッタレ、ここで殺す気か?》
ツルギの方も苦しい様子。そりゃそうだ、ボクたちもいっぱいいっぱい、ツルギの思うようになんてできっこない。
〈んー、あわよくばそうかなー〉
半笑いなのがまた腹が立つ、完全に勝ったと思っている様子だ。
《ぶっ殺してやる》
〈おー怖い怖い、できるものならやってみなー〉
好いてるのか煽ってるのかどっちなんだこいつ、こんなんじゃ絶対ツルギの頭はプッツンいっている。
《ーーレッドクロー隊が戻ってきている、それまで耐えろーー》
他方の対処に向かっていたレッドクロー隊はさすがに戻すか、彼女たちの無人機があれば多少は楽になるか?しかし、何分後だ?そう長くは持ちこたえれそうにない。
《各機聞きましたね、援軍は来ます、諦めてはダメです》
諦めそうになっていた自分が言えた言葉では無いが、こうでも言わないとやってられない。
すると、カリムが少し孤立してしまった、急いで援護に向かう。
《スパイダー!離れすぎです!カバーします》
《くそっ、すまねぇ》
もう誰も落とさせはしない、死なせはしない。
傷口は耐えれるか、めちゃくちゃ痛いがもはやそんなことは考えていられない。
《ラズリ、俺はいい、シューレを援護しろ》
《ラズリ、ウィルコ》
何がどうなっているのか分からない。
空と地上が何回も入れ替わり、ミサイルが掠め、無人機を撃墜した爆炎の中を突き進む。
生きているのが不思議なほど。
全てがスローモーションに映っていた。
目の前を炎を吐きながら墜落していく、二つの機体も。
《え?》
灰色デジタル迷彩のYF-23と砂漠迷彩のYF-23が、空中分解しつつきりもみしながら落ちて行き。
《嘘だ・・・・・・》
地表に墜落、爆発した。
《ルイさん!応答してください!ベイルアウトしましたよね!?》
《ーーーー》
返答は無い。
《取り乱すんじゃねぇ、今は目の前の敵だけを考えろっ》
既に感情はぐちゃぐちゃ、カリムに一喝されるが呼吸がどんどん早くなってしまう。
ダメだダメだ、落ち着け、落ち着けボク。とにかく目の前の敵を落として、どうにかレッドクロー隊が到着さえすれば・・・・・・。
ルイさんが刺し違えてまで亡霊を落としてくれたんだ・・・・・・。
〈おっと、ツバサが落ちるのは想定外だよ?YF-23の予備機なんて無いのに!〉
ぶっ殺してやる、お前の事情なんて知ったこっちゃない。やや上方をツルギに追われながら飛ぶSu-47を睨みつける。
あいつを落としたところであいつは死なないのは知っているが、落とさないと気が済まない。
〈まあいいや。それじゃあ、ツルギ、またね〉
《どこまでも卑劣だなおい、全機全速離脱、無人機を振り切れ!》
ツルギが叫んだ数秒後。
ドドドドドドドドーーーーン・・・・・・。
無人機が次々と爆発、衝撃波で機体が揺れ、あともう少しのところにいたSu-47ももれなく自爆。
さっきまで死闘を繰り広げていた空に残ったのはボクたちだけになってしまった。
《・・・・・・くそっ、各機報告しろ》
無人機の自爆から難を逃れた機体がツルギの後ろに集まる。
《ラズリ、異常なし・・・・・・》
《スパイダー、生きてるぜ》
二人は無事なようだ、よかった。
よかった?なにが?
《・・・・・・、おい、シューレ。・・・・・・ソラ、生きてるか?》
《・・・・・・・・・・・・シューレ、大丈夫です》
遅れて藍さんの斜め後方に機体を着ける。
《こちらソルーダ、レッドクロー隊到着、待たせた、わね・・・・・・・・・・・・》
着いた途端全てを察するリルスさん。
《ブルー1から管制塔、スカイレインが撃墜された、また敵性反応消失につき作戦を終了する》
《ーー了解した、墜落ポイントに回収部隊を向かわせる。全機作戦終了、RTBーー》
ボクはツルギと管制塔の会話を他所に、まだどこからかひょこっと出てきそうなルイさんを空に探していた。
※
基地に着陸し、戦闘機をハンガーに格納。
コックピットから降り、痛むお腹を擦りながらトボトボと歩いていると。ボーッとしていたから近づいてくるのに気が付かなかったが、カリムにギュッと抱きつかれた。
何を言うでもなく力任せにギュッと。
しかし、あまりにギュッとされるものだからちょっと息ができない。
「胸が当たってますよ」
気を利かせて冗談を言ってみたが、どう思われただろうか。
「すまん・・・・・・」
そう耳元で囁くと彼女は離れ、先に待機室にだろうか、部屋の方に帰って行ってしまった。
すると入れ替わるように藍さんがやってきて、痛そうに見えたのか、ボクの左肩を担ぐと何も言わずに一緒に歩いてくれる。
「いててて・・・・・・」
緊張が緩んできたのか、段々と傷口が痛みだし歩くごとに激痛が走り出した。
「大丈夫?」
「ちょっと待ってください・・・・・・」
ふうふうと息を整えて再び歩こうとすると。
「手伝います」
「お姉ちゃん・・・・・・」
啓さんが藍さんの反対側の肩を担いでくれた。
息は上がったが何とか待機室に到着し椅子に座り、息を整える。
それからしばらくして回収部隊が帰投。
機体の損傷は激しく文字通り粉々、遺体も確認できたそうだがとても見せられる状態ではなかったということで回収部隊で処置を行い。
ルイさんは拳大の小さな瓶になって、ボクたちの元へと遅れて帰ってきた。




