表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/84

第73話 密偵は刺客

〈こちらSG、呼んだ?オーバー〉


〈こちらR、2週間経ったよ?〉


〈そうだけど?〉


〈まだ?〉


〈え?〉


〈言ったじゃん、従兄さんに急かされてるって〉


〈確かにそう言ったけど許可を貰った記憶はないわよ!〉


〈え?そうだっけ?〉


〈殺してとは言われてない〉


〈あら、僕としたことが・・・・・・、もしかして情が沸いちゃった?〉


〈はぁ・・・・・・、私を誰だと思ってるのよ〉


〈冗談冗談っ。それなら話が早いや、僕の目的は黄色線ただりひとり。そっちはターゲットを「殺して」、その後僕の方で流れ星を始末する〉


〈いいの?隊長が始末しなくても〉


〈んー、君が殺されたら考えるよ。そもそも君に殺されるぐらいならそれまでのヤツだったってことさ、恐るるに足らない〉


〈執念深いのかドライなのか・・・・・・、そんなだから友達できないのよ〉


〈ツルギがいればそれでいいもーん〉


〈はぁ・・・・・・、そればっかりね〉


〈まっ、時間だ、首尾よく頼むよ。定時報告がなかったら君は死んだものと判断するね〉


〈はいはい〉


〈ーーーー〉



格納庫にドンッ、ドンッ、と鈍い音が響いている。


「ーーっ!」


ボクが壁をひたすら殴っているのだ。


行き場のない怒りが噴出し、物に当たることしか出来ない。


整備員が何人かいたが、空気を読んでくれているのか工具に当たらなければボクを止めることはしない。


彼らも整備したであろう戦闘機がほとんどいなくなっている、思うところがあるのかもしれない。


すると壁に血が滲んできた。


ドンッ、ドンッ・・・・・・。


止めれない。


ガシッ。


再び振りかぶった手首を誰かに掴まれたが、勢いがついてそのまま振り抜いてしまうと。


「きゃっ!」


「おっと!すみませんっ、大丈夫ですか?」


一瞬で我に返ると、目の前にボクの手首を掴んだままのサガリさんが現れた、ボクの腕をつかんで止めようとしたが雲のように軽い彼女では全然止まらなかったみたいだ。よろけている彼女を慌てて受け止めると。


「こっちのセリフです!何してるんですか!」


なんかめっちゃ怒ってる。


「サガリさんには関係の無いことですよ」


強がった訳では無い、実際関係ないし、僚機を守れなかった隊長は良くしてると思うよ?それに、彼女がボクに干渉しすぎなだけだ。


「そうです、私には関係ないです!じゃぁ、なんでソラさんはあの時私を助けたんですか!?」


あの時、ああ、空襲を受けて逃げ遅れていたサガリさんを地下壕へ誘導した時のことか。


「それは、その・・・・・・、見殺しにはできませんから」


「私もそれと同じです!」


ギュッ。


彼女はボクに抱きついてきた、飛びついてきたのに全く重みを感じなかったがほんのり当て高い彼女。思わず抱擁思想になってしまったが、ダメだダメだ、首をブンブンと横に振って彼女を離す。


「戦闘機乗りには戦闘機乗りの事情があります。死ぬ時は空で一人で・・・・・・、サガリさんに言っても仕方ないですよね・・・・・・」


何言ってんだボク、死ぬ時のことを考えてるのか?そんな弱気になってたのか、しっかりしないと。


なんだか不甲斐なくて、うっすら鼻で笑いながらサガリさんから視線を離すと。


「じゃ、ここで誰かに看取られながら死ねば?」


ヤバい!と視線を彼女に戻すと目の前にナイフの刃が光り、首元に伸びる彼女の手首を間一髪掴むがそのまま押し倒されてしまう、さっきまで雲のように軽かったのに岩のようにてこでも動かない。


「くっ」


ボクの喉元ギリギリで震えるナイフ、叫んで助けを呼ぶことも出来るが、こいつの目的はボクだ、変に被害を広げたくない。


「さすがに止めてくるわねぇ、お望み通り殺しに来てあげたのに、これならどうかしら!」


彼女はボクを抑え込んだまま、片膝を引き上げるとそのままボクのお腹を膝蹴り。


グサッ。


「うぐっ!!」


腹部に激痛が走る、ただ蹴られたわけじゃないなこれは、仕込みナイフか?念の為簡易の防弾チョッキは着ろってなってたけど、さすがに近接攻撃には耐えられない。


「・・・・・・ロロウを殺したのはあなたですか?」


腹部の激痛に耐えながら、ナイフを持つ力を緩めない彼女に問う。


「そうだけど、それが?」


単なるスパイかと思っていたけど暗殺者だったか、警戒はしていたけど、ダメダメだな。


「聞いてみただけです」


それに会話が通用しないタイプとみた、今までのは演技だろうけど今の彼女を見るとそれはとても自然で、一切の油断や矛盾も感じられなかった。


ボクを片思いする、お世話焼きな新入隊の通信員を演じきっていた。


片思いは自意識過剰だったかな。


「胸、小さいですね」


ナイフにこもる力が一段と強くなる。


「気にしてるのよ、満更でもない顔してたくせに。早く死んで、時間稼ぎのつもり?」


確かに触ったけどさ、無理やりじゃん?ボクはもうちょっと大きいのが好きだ、ルイさんとか。藍さんもちょうど良さそう、なんて。


「はい、申し訳ないですけど、ボクを一発で殺せなかったあなたの負けです」


「何強がってるのよ」


刺した膝でお腹をぐりぐりと痛めつけ、彼女はニヤニヤと笑っている。


「ツルギが飛んでいるうちに来るべきでしたね」


カチャッ。


「・・・・・・」


彼女のこめかみに拳銃を突きつけるツルギ。


さすが元王家直轄部隊のエース、ボクなんかスパイとしても到底及ばないな。頼らないようにしたいんだけど、結果彼を頼らざる得ない、それほどにツルギは無敵なんだよな・・・・・・。


「もう君には毒針は刺さってるっ、今私を殺しても手遅れよっ!」


あー、やっぱりそうだよね。神経毒かな?ツルギがあと少し遅かったら喉をカッ切られてたよ。体がビリビリしてきた。


「どうする」


聞いたことがないツルギの冷たい声、彼の冷たい視線はサガリさんから1ミリも離れない。


仕事モードというかなんというか、


「殺しません」


ハッと嬉しそうにも悲しそうにも、それとも次の手を考えついたかのようなサガリさんはニヤリとした表情を浮かべる。


「甘い」


「待っーー」


サガリさんが一瞬叫ぶも。


パンッ!!


全て言い終わる前に、格納庫に響き渡る大きく乾いた銃声。


彼女の反対のこめかみから吹き出す血しぶき。


その直後、彼女からはスンと力が抜けボクに覆いかぶさった。


「・・・・・・や、と、おわ・・・・・・・・・・・・」


サガリさんはどうやって出したのか分からない微かな声で呟き、ボクの服を一瞬握ったと思うと、それから動くことは無かった。


「安心しろ、こいつの無線を傍受していた、俺の懲罰は無いだろうよ。全く、自分を囮にするなっつったよのによ・・・・・・」


飛んで行った薬莢を拾い上げ頭をポリポリと掻くツルギ、さすが死神と恐れられていただけあるな、敵には容赦なしだ。それに、傍受してたなら言って欲しい、今日はまだ心の準備ができてなかったのに。


「酷いです」


でもボクは出来る事なら生かしてあげだった。


「・・・・・・こいつはヒナの差し金だ、生かしたところでいつか殺される、ロロウみたいにな」


そうか、そうだよな。ヒナは昔から冷徹非道で有名だった。ツルギの言うことは論理的には正しい。


論理的には。


「まあ、だから俺が殺してもいいてことじゃないかがな、人の頭を撃ち抜くってのはてのは楽しいもんじゃねぇ」


ツルギはそう言いながらボクに覆いかぶさった彼女を担ぎ上げ床に仰向けに置き、開いたままの瞼を閉じてあげている。


確かレイをスパイから助けた時は殺していないと聞いている、状況や相手にもよるしツルギも本当は殺したくなかったのだと思いたい。


「にしてもおかしい、普通は妨害があった時用に腹案とかあるはずだが追撃が無いな・・・・・・」


確かに、そろそろ騒ぎを聞き付けた整備員が駆け寄ってき出したぐらいだが、他の奴がなにかしてくるようなそんな気配は無い。


「ヒナが来るな、お前は寝てろ」


そう言われた頃にはボクは力尽き、酷く重い瞼が勝手に閉じ、眠りについてしまっていた。



どのぐらい寝ていたのだろう。ふと目が覚めると知らない天井、じゃなくて医務室の天井が視界に入った。


「藍さん!ルイさん!カリムは!?ってててて・・・・・・」


腹部に走る激痛、そういえば刺されたんだった。でも生きてる。


「起きた!ダメだよ動いたら!」


「大丈夫?おっぱい揉む?」


「んな時にふざけるな!」


安堵したのか涙目の藍さんはボクの手を握っていて。


ルイさんはカリムにこめかみを拳でぐりぐりされながら二人は安心したのか笑っている。


良かった無事だ。


「ツバサもすげーな、お前に毒耐性つけてるなんてよ、正直ダメかと思っていた」


少し遠巻きからボクの様子を伺ってくれていたのであろうツルギが、椅子に座って両膝に肘を付いいる。眼帯の方をこちらに向けているので表情は伺えないが、雰囲気的に呆れている。


「まあ、耐性と言いますか、こんなこともあるからと多少は色々と、昔・・・・・・」


刺し傷にはさすがに耐性は無いけど多少の毒なら少しは耐えられる、多量のヒ素とか水銀とかはさすがに無理だけど。ナイフに仕込まれる毒は限られる、注射器を刺されない限りはほぼ大丈夫だと思っている。


でも、失血死は免れないからなんとも微妙なスキルって感じだ。


まあ、その微妙なスキルに救われたんだけど。


「笑えるぜ」


うん、ボクも。


「ルイさん、大丈夫ですか?」


そんなボクよりルイさんだ。


「うん、今は自分のこと心配して」


カリムに虐められながらもにっこりと笑う彼女。本当に大丈夫かどうかは別として、ボクを心配してくれている、今はその言葉に甘えよう。


「すみません」


「ううん」


するとカリムの腕を解き、ボクの頭を優しく撫でてくれる。


「おっぱい揉む?」


「お前そればっかりだな!」


楽しそうでなによりだ。ルイさんいつからボケキャラになったのかな?


「ツルギ、レッドクロー隊は?」


そういえばボクらより先に出撃していた彼女たちは?


「お前らを出すための囮だったらしい、会敵した後に逃げられたとさ」


そうか、あれは敵の計画の内だったのか・・・・・・、これはますます不味いな、サガリさんが失敗してくれてよかったけど本気で殺しに来てる。


でもボクらがそっちに行っていたら?あ、サガリさんが報告していたのかな。


「そうですか、・・・・・・ツルギ?」


するとツルギは立ち上がり、医務室から出ていこうとする。


「ヒナはまだ来てない、お前五日も寝てたからな、暫くは来ないつもりだろう」


へ?五日も??


「そんなに!?」


てっきり長くても二、三日ぐらいだと思っていた。寝過ぎだろボク!混乱して焦っても仕方ないのに何故か心拍数が上がる。


「寝てろ、行くぞ」


行くぞ??どこに?


「ちゃんと寝てるんだよ、ソラ!」


「戻ったらおっぱい揉ませてあげるからね!」


「おっぱいおっぱいうるせんだよ!俺への皮肉か!?」


バタン。


四人とも出ていってドアが閉められた。え?あれ?理解が追いつかない。ボクは??


ゆめ?


頬を抓ってみるがただただ痛いだけ。


「ちょっ、ちょっと待ってください!いっ!」


慌てて追おうとすると、あまりの傷の痛さにベッドからずり落ちてしまう。受身は取れたので痛い腹部を抱えながら扉を開けて外に出ようとすると。


「とわっ!!」


ドタッ!


何かが足に引っかかり綺麗にコケてしまった。顔からコケてしまって色んなところが痛い。


「いてててて・・・・・・、啓さん?」


ふと見上げるとドアの横のパイプ椅子に腰掛けている啓さんの姿があった、足がボクの方に伸びている、引っ掛けらて転かされたのか?乱暴だな!!


「怪我人は休んでいてください、レイくんでも寝ていましたよ」


「え、あ、いえ、状況が分からないんですけど」


「はぁ・・・・・・」


啓さんは眉をひそめ、眉間に人差し指を置く。


「え?」


何そのクソデカため息!啓さんってツルギ以外には結構冷たいよね!いや、ツルギにも暴力的だけど。


「私は飛べなくなりました」


「ふぇ?」


「なので藍たちが代わりに飛んでます、ソラくんが治るまで」


「え、それってどういう・・・・・・?」


飛べなくなった?どういうこと!?説明されても状況が分からずアワアワしていると。すごい冷たい視線で睨まれる、可愛いのにめちゃ怖い。


「いいから寝ててください」


「へむっ!」


首を一閃、気がついたら視界が真っ暗、というか気を失ったのかな?何をされたのかも分からずそれからの記憶は無くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ