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第6話 次



「それでさ、ソラの秘密も言ったことだし、藍ちゃんの自己紹介して欲しいな」


自己紹介?

別に私はソラみたいにこれといって波乱万丈では無い、特段面白くはないと思うけど、まあいいか。


「えっとー、出身はエルゲート東岸のヘレルって村で産まれました。その村は本当に小さくてほとんどみんな親戚も同然で、あ、私とお姉ちゃんは13歳離れてます」


常に冷静沈着だった啓お姉ちゃん、どっちかと言うとお母さんみたいな感じだった、お母さんお転婆な感じだったし。だから、お姉ちゃんはお父さん似で私はお母さん似。


「だから私とお姉ちゃんはよく比べられてました」


言わなくても出来るお姉ちゃんに、言われても出来ない私。なんで出来ないの?お姉ちゃんは同じぐらいの時にはできてたよ?村の人に言われ飽きた。


そして、家はそんなに裕福ではなくて少しでも生活の足しになればと啓お姉ちゃんは18歳で空軍に入隊。


こそから彼女は五年後にテレビに映るまでになっていた、まさに村の英雄そのもの。先の大戦は私たち東岸の人達は関係の無い出来事だったから。


だから私も負けてられない、みんなを見返すんだ!と空軍に入隊を決意。


その矢先、お姉ちゃんはそのツルギってやつといなくなった。二人きりならまだしも三人だ、何を考えてるのか分からない。


だけど私は目標を見失った訳では無い、強いお姉ちゃんは強いお姉ちゃんのまま記憶に残ってる、その人の後ろ姿を追い越すだけ。


「だけど、私って適当な性格だからぁ、気がついたらソラの二番機になってました!」


いろいろ端折った気がするけどまあいいか!隣のソラはええって困ったような顔をしているが、目の前のリュウさんはうんうんとうなづいてくれている。


「ソラのことどう思った?」


うーん、リュウさんの言葉に手を顎にやり唸り考える。肌の色が褐色だろうが、髪の毛が白銀色だろうが私は全く気にならないしむしろカッコイイと思ってる。でも、本人目の前に言っていいもの?こういうのは女子会とかで言うもんじゃ・・・・・・。いいや、別に!嫌いじゃないし!


「可愛いです!」

「ブーーーッ!!」


私の言葉にミルクコーヒーを吹き出してしまうソラ、こういうとこ!これがかわいい!それより先ず吹き出したミルクコーヒーをリュウさんとお手拭きで拭う。


「藍さん!?」


目を点にしている彼。なんか違ったかな?


「敬語はやめろって言ってるんですけどぉ」

「あー、それは一生治んないと思うわ」

「えー、なんか壁を感じるって言うかぁ」

「そう!そうなのよ!6年も一緒に住んでたのに他人行儀なのこの子!」


女子は女子でだんだん盛り上がってくる、隣のソラはやめてくれと言わんばかりに頭を抱えているけど知ったこっちゃない。


「でもなんか放っておけないんですよぉ、弟系?みたいな」

「そうなの!藍ちゃん話し合うね!」

「ですね!」


ソラは弟感が半端なかった、私より背も高いんだけどイケメンってよりは可愛い系で中性的な顔立ち、表現し難いけど、一言で表すと弟系だった。


「なんかツルギも言われてた気がします・・・・・・」


不満の表情を隠しきれないソラ、そんな顔も可愛いし、年甲斐もなくミルクコーヒーをストローでぶくぶくしてるのももはや弟そのものだ。


「ツルギくんは人を心配させるの得意だったからね、翼くんも天性の弟系だったよ?まぁ、宙は私にとっては本当の弟だしね」

「うーん、なんか納得いかない・・・・・・」


の割には頬を赤らめてるソラ、リュウさんに撫でられ、本当の弟だしって言葉が嬉しかったのかな?そのぐらいは私でも想像は着く。


私だって啓お姉ちゃんに撫で撫でされればそりゃ嬉しいさ、いくら比べられるのが嫌だからと言ってもお姉ちゃんはお姉ちゃん、私が者心着いた時にはもう空軍に入ってたけど。


私はそんな彼の横顔をいつまでも見ていられる気がした。



カランカラン・・・・・・。


おっと違うお客さんが来たみたいだ。


「「いらっしゃませぇ!」」


あっ。


「宙?」

「つい癖で!!」


恥ずかしい!つい癖でいらっしゃいませって言っちゃったよ!四年前までここで働いてたし、完全に油断してた。自分の顔が真っ赤になるのが分かるし、焦って心拍数が上がるのもわかる。

それに、ふと藍さんを見ると。


「かわいい」


にやーっと笑っている。

やめて!そんな目で見ないで!


顔を上げているのも嫌になって机に伏せる。藍さんに肩をつつかれるが顔は上げない、放っといて!


すると今度は頭をツンツンとつつかれる。


「もう、なんですか!・・・・・・え?」


目の前には結さんが座っていた。

両手で頬杖をついて僕の顔を心配そうに覗き込み、息が当たりそうなほど近い。


「体調悪いの?」

「あ、いえ・・・・・・」


さも同然とこの場に座ったのであろう結さん、隣の藍さんは。


「誰この人?」


なんだか眉間にシワを寄せて怪訝そうな顔をしている。なんで?


ボクは慌てて背筋を伸ばして彼女の顔から遠ざかってワタワタとしながらも説明する。


「あ、えっと、この人は長井結さん。陸軍高射通信員で、この白髪のツバサお兄ちゃんの友達、かな?」


あの集合写真に写る、ボクを拾ってくれたと説明したツバサお兄ちゃんを指さして言うが、友達で合ってるよな?付き合ってたとかは聞いたことないし。不安で結さんの顔を見ると、藍さんに向かってニコっと年上スマイルを見せつけている。


「どうも・・・・・・」


んー、なんで藍さん不機嫌なんですかね?やや口をとんがらせている。まあいいや、藍さんも説明してしまおう。


「それで、この人が前説明したボクのエレメントの東條藍さん」

「よろしくね」


静かにお辞儀をする藍さん、笑ってるけど笑ってない。どして?


「はぁー、宙もツルギくんに似てハーレム体質だったとはねぇ」


結さんのお水を持ってきて、ため息を吐きながら彼女の隣に座るリュウお姉ちゃん。


「そうですかね?」


実感はそこまでない。


「そりゃね!ツルギくんには水咲さんと啓ちゃんと私がいたし。今の宙には藍ちゃんと結さんと私がいるし」


むむむ、何故か知らないけどリュウお姉ちゃんもボクの方にも入ってた気がするぞ?それに別に二人とはツルギたちみたいな関係じゃないし!


「なんでお姉ちゃんまでボクのとこに入ってるんですか」


そう言って残り僅かになったミルクコーヒーを啜っていると。


「え?私も宙の事好きだし」

「ぶーっ!ゴホッゴホッ!」


肺に逆流して死ぬかと思った。


「なんなんですか、やめてくださいよ!」


慌ててつい顔を赤くして、からかわないでくれと言おうとするも。


「なんで!姉に!好きって言われて!赤く!なってるの!よ!」

「痛い痛い!やめてください!!」


ドスドスと藍さんに思いっきり肩パンを喰らう始末だ。書類上はそうだけどさ、血繋がってないしドキッとぐらいするっての!


しかし彼女にそんなことは関係なく、腕組みしてプンプン怒ってる始末だ。


「私帰るっ!」


バッと立ち上がる藍さん。


「なんでそんなに怒ってるんですか!」

「怒ってない!」

「えぇ・・・・・・」


例えるなら頭から湯気が上がっている彼女だが、断じて怒っていることを認めようとしないが完全に怒ってる、女心が分からないボクでもそれぐらいは分かるが、なんで怒っているのかは分からない。


「ちょっと藍さんっ!」


ずかずか出口に向かって歩く彼女を腕を掴んで止めようとするも。


「こないで!」


振りほどかれてしまい、カランカランとベルを鳴らしながら彼女は店から出て行ってしまった。


「どうしたんだよ・・・・・・」


力なく立ち尽くすしか無かった。


「あーあ、本当にツルギくんにそっくり」


呆れるリュウお姉ちゃんに。


「タイミング悪かったかな?ごめんね」


お姉さんスマイルで謝ってくれる結さん。

ボクはどうしたものかと頭を掻きながらテーブルに戻る。


「追いかけなくていいの?」

「すぐ追いかけると引っぱたかれると思うので、少し時間空けて帰ります」

「その方が良さそうね」


空になったミルクコーヒーの入っていたグラスに残る氷を、ストローでクルクルと回す。

あんなに怒って本当にどうしたんだろう、ボクなんか悪いことしたかな?右手で頬杖をついて、うーんと唸って考えるがボクには分からない。


「ねぇ、宙くん」

「はい?」


向かいの結さんがボクと同じように頬杖をついて何か聞いてくる。


「今度のお休みは暇かな?」

「え?ああ、はい、何も無いですけど・・・・・・?」

「そう、じゃー、また連絡するね」

「わかりました」


次の休み?暇っちゃ暇だ。藍さんの機嫌が良くなってたらだと思うけど、結構気分屋な人だ、多分大丈夫だと思う。

すると何故か結さんの隣で頭を抱えるリュウお姉ちゃん、あれ??


「それが言いたかっただけ、また食事に来ますねリュウさん」

「あ、はい、いつでも待ってます」


そう言い残すと彼女は立ち上がりボクに向かって手を振ってお店から出て行き、ボクも小さく手を振ってその場から見送った。


「ホント、ツルギくんにそっくり・・・・・・」

「どういうことですかぁ?」

「そういうところ!」

「ええっ!?」


リュウお姉ちゃんが何を言いたいのか全く分からない、ツルギに何がそっくりなのか、そっくりと言われるのは嬉しいけどなんかバカにされてる気がするし、心の中にモヤモヤが残ってしまう。


「ホントに、ツルギに似てるのよ・・・・・・」

「もうなんですか」


急になにか悲しそうな顔をして、ボクの頭を撫でてくれるリュウお姉ちゃん。誰もいないけどなんだか恥ずかしくて、ボクはその手を優しく振りほどく。


しばらくの間の沈黙。


「そろそろ帰りますね、あまり遅いとそれはそれで怒られそうだし」

「うん、その方がいいよ」


ボクは席から立ち上がって財布を取り出し。


「はい、お勘定」

「うん」


ボクの奢りだったしね、端数は繰り上げてお札をテーブルに置いて、出口に向かおうとすると。


「待って」


リュウお姉ちゃんに止められる。


「お釣りはいいーー」


「私、真くんと結婚することになったの」


ああ、そっか・・・・・・。


「そう、よかった、ボクも嬉しいよ!」


これは本心だ。いくらリュウお姉ちゃんがツルギの事を好き、いや、好きだったとしても彼は帰ってこないし、帰ってこない彼を待ってくれって言う資格も僕にはない。


「リュウお姉ちゃんには幸せになって欲しいし」


でも、黒木さんはどうするのだろう。空母から降りるのかな?そこら辺はおいおい話し合うのかな?まあ、ボクが口を出す話でもないか、二人のことだ、二人で決めたらいい。


「ツルギくんは喜んでくれるかな?」


「・・・・・・」


やや俯き気味に呟くリュウお姉ちゃん、それはボクの口から言うべきなのだろうか、きっと喜んでくれる、そのはずだけど。


「ツルギくん・・・・・・」


リュウお姉ちゃんは力なく呟くと何故かボクには抱きついた。

ものすごい力でギューッと抱きしめられる。


「もう一度会いたい・・・・・・」


そんな彼女にボクもギューッと抱き返してあげることしか出来ない。ボクは言ってみれば彼の代わりだったから、俺だと思って可愛がってってツルギはお姉ちゃんに言っていてから。


するとリュウお姉ちゃんはボクを抱きしめる力を緩め、肩にあった顔を離すと僕の顔をじっと見つめる。彼女の少し荒くなっている鼻息がボクの鼻先に当たっているのがわかる。


スーッとお姉ちゃんの頬を伝う一筋の涙。


お姉ちゃんが泣いている、そう思った瞬間。


「お姉ちゃーーっ!?」


お姉ちゃんが僕の肩を掴み、とても柔らかい唇がボクの唇に重なった。少し震えている彼女の唇、無理やり離す訳にもいかない、ボクはツルギの代わりなんだそう自分に言い聞かせて、お姉ちゃんの気が済むまでキスを続けるがなんだか複雑な気持ちだ。


「・・・・・・ごめんね」


「いえ・・・・・・」


我に返ったのだろう、スっとボクから離れるリュウお姉ちゃん。ボクはまだ彼女の唇の感触が残る自分の唇を触る。


「弟に手を出すなんてお姉ちゃん失格だなぁ」


ハハハと無理に笑い、場を和ませようとするいつものお姉ちゃん。


「そんなこと、ないです・・・・・・」


それもこれも帰ってこないツルギのせいだ、こんな美人を泣かせるなんて、ボクも彼を一発でいいから殴りたくなってきた。


「でも、ありがと。吹っ切れたわ」


それなら良かった、良かったのかな、それでもボクは彼のことを忘れては欲しくない。


「いえ、結婚式呼んでくださいね」

「うん」


ボクは小さく手を振ってお店を後にした。

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