第67話 疑心暗鬼
格納庫での自己紹介は粗方終わり、カリムが司令室と部屋に案内してボクたちは待機室で待っている。
「藍さん、ナナリスさんの過激なスキンシップは昔からなんであまり警戒しないで下さいね」
「何で私に言うのよっ」
いや、だってなんかご機嫌ななめだし、ナナリスさん元々スキンシップ多い人だから嫌ってんのかなと。カタカタと貧乏ゆすりしてるし。
「二番機の余裕ってやつね」
「ちょっとルイさんっ」
何に反応したのかボクの右腕にしがみついてくるルイさん、過激なスキンシップはやめろって遠回しに言ったつもりだったんですけど?
「こら!ソラに引っ付かないの!」
ルイさんには強気なんだよねぇ。
彼女も確か32歳なんだけど?歳は関係ないのかな?ナナリスは36歳ぐらいだっけか、いや、歳の問題?
36歳であのテンション?ヤバ。
「イテテテ!藍さん、引っ張らないでください!」
「ご、ごめん」
力ずくでルイさんから離そうとするから、腕がちぎれるかと思った。もう何が何だか、全然余裕ないじゃん。
「でもね、ソラの小さい頃を知ってるのは卑怯だと思う」
そこ?てか、どういうこと?藍さんの基準はよく分からない。
んー、と頭を悩ませているとカリム達が戻ってきた。
「席は何となくで決まっている、空いてるところに座ってくれ」
「了解です」
前列から2列目がアルフレート隊、右後ろがブルー隊、左後ろがレッドクロー隊だ。レイの事だからツルギの近くに座りそうだけど。
カリムは特に興味無さそうにルイさんの隣の新しい定位置に座り、ボクはレイの行く末を見届ける。
「じゃあ、ここで」
案の定ツルギの真ん前の席に座った、ナナリスはレイの左隣に座り、ルリさんは。
「ちょっと!ルリさん!ここではダメだって!」
「・・・・・・」
「無視!!」
レイの膝、というのか太ももの上に座っていた、そういえばそんな感じだった気がしてきたぞ。
「ルリさん!」
「・・・・・・いや」
「えぇ」
頑固だな、盗み聞きしてて思わずクスッと笑ってしまった。
「白昼堂々何やってんだあいつら」
「ああいう感じの人達なので・・・・・・」
ちょっとムスッとしているカリムに説明するのは大変なんだけど。
すると左からなんだか強烈な視線を感じて恐る恐る藍さんを見ると、ボクの太もも付近をガン見していた。
「藍さん?」
「!!・・・・・・な、なんでもない」
太ももの上に座りたいの?ルリさん小柄だからいいけど、藍さんだと収まりきらないと思うけど、あ、別に重いとかって意味じゃなく。
「てかよ、レイ」
早速ツルギがレイの首に腕を回して絡んでいる。
「チグサは?」
おお、それはボクも気になる。
「え?あー、家で留守番してますよ」
「留守番?なんで?お前の二番機だろ?」
留守番?四機編隊だから普通はみんな来るのが普通だと思うけど、何か理由があったのかな?
「今のところ空軍は副業なんで、さすがに二週間も家を空けれれないなってことで、チクサに残ってもらったんですよ、ナナだと頼りないんで」
「聞き捨てならないんですけどぉぉぉ」
そんなもん?ナナリスが頼りないのは分かるし、ルリさん強いからチグサさんになったのかな?ボクもう一ヶ月ちょっとは帰ってないけど。
そんな彼を懐疑的なジト目で見るツルギ。
「嘘ついてるだろ」
「へ?」
「お前すぐ顔に出るんだよ!」
「ちょ!」
普通に首を絞めている、すごく楽しそうだ、ボクも混ぜて欲しい。
「・・・・・・嘘じゃない」
ルリさんの言葉に絞殺を止めるツルギ、すると彼はスッとナナリスを見る。
うんうんうん、と激しく首を縦に振るナナリス、なんか怪しいけど嘘ではなさそうだ。
「そっか、会いたかったんだけどな」
一応、本当のようなのでこれ以上の追求を止めたツルギ、正直ボクも会いたかったけどね、スタイルいいし、じゃなくて。
「チグサも会いたかったな、っていてました」
「フッ、俺って、カッコイイからな」
ツルギってこんなキャラだったっけ?あ、レイがいるから?ずるい!!
「剣くんは私のです」
「いや、啓、冗談だって」
「私もいるんだけど!?」
急にラブラブするなコノヤロー!
「この飛行場には惚気しか居ないの・・・・・・」
リルスさんはちょっとため息を吐いて、隣で呆れていた。
「まあいいや、レイ、上がるぞ」
「今から!?」
結構な時間飛んできたと思うんですけど!?待機室がザワつく。
「疲れたとか言ってる場合じゃねえんだよ、こちとら戦争中なんだ」
それはそうだけどさ、もうちょっと休憩させてあげても良さそうだけど。
「ツルギさんスパルタですよ」
「俺はお前に死なれたくないからな」
その一言で黙ってしまった。
「・・・・・・行くよ」
「わかりました」
「王子様怖ぃぃ」
ひょいっとレイの膝上から降りるルリさん、渋々身支度をする三人、ボクも一緒に飛びたいけどさすがに無理かな、防空任務もあるし。
「水咲さんと啓は待機で、俺一人でいい」
「わかった、気をつけてね」
「了解です」
一対三?マジで?
「負けませんから」
「おう」
仲良いなぁ、男二人がニヤニヤしてさ。
それにしても、ツルギ相手に三人って余裕じゃないんだろうか?さすがに全盛期のような飛び方はできないとしてもよ、ルリさん結構強いよ?
「何嫉妬してるのよ」
すると藍さんに頬をつんつんされた。
「し、してませんよ!」
嫉妬って程では無いが、いいなー、とは思っているけども。
「いいなー、って顔してる」
なぜバレてるし。
「可愛い顔してぇ」
「ちょっとルイさんっ、もっ」
ついでにルイさんにも頬をムニムニされる。
ツルギ、頼りになるめちゃ強い隊長。
ボク、いじられてるへなちょこ隊長。
何故なのか。
「気安くソラに触らないの!」
「はいはい二番機さん、ソラくんに触りますねぇ」
「んもっ!!」
「まだ許可してないわよ!」
なんなんだこれは、二人で頬をムニムニしないで!
「何してんだお前ら」
蔑んだ目で見てくるカリム、いや、ボクは被害者何ですけど・・・・・・。
「じゃ、行ってくるな〜」
いじられているとボクを見て待機室から笑いながら手を振って出ていくツルギ、好きでこの状況になってないんですけど?
「・・・・・・ごゆっくり」
「やっぱ昔のレイみたい」
「待機よろしくね」
なーーーーんかレイたちにもいじられてる気がする。
するとレイ達が出ていって入れ替わるように、コンコンとドアがノックされ小柄な人が入ってきた。
「ソラさんいますか?」
サガリさんだ、ここに来るのは久しぶりだな?何しに来たんだ?
頬をムニムニされながら返事をする
「どうしました?いった!!」
最後になんか思いっきり頬を抓られた気がしたけど、立ち上がってサガリさんの元に向かおうとすると、カリムに制止され、代わりに彼女がサガリさんの相手をする。カリムも警戒してるのか?いや、あれは単純にボクに近づけたくないだけ?良いような悪いような。
「戦闘機隊隊長は俺だ、ソラに用なのは構わんが、話は通して貰おう」
イケメンが少女を脅してる、絵面は面白いが気が気じゃないボクは笑えない。まあ、カリムの言い分も分からんでもないかな、そうしてくれる方がボクもやりやすいし。
「あの、えっと」
ほらほら、怯えてるし。彼女のことはボクも警戒しているが、警戒しているので来ないで下さい、って訳にもいかないんだ、フォローしておくか。
「まあまあ、怯えてるじゃないですか」
「別に脅してねぇ、筋を通せって言ってるだけだ」
カリムの肩をポンポンと叩いて落ち着かせる。
「で、ボクになんの用ですか?」
この聞き方も失礼だったかな?まあいいや。
「えっと、いろいろあって皆さん元気にしてるかなと思いまして、つまらない物ですか」
と、紙袋に入ったクッキーかな?それを渡された。
「わざわざすみません、ありがとうございます」
信じているわけげは無いが、とりあえず受け取っておこう。突き返すほどボクは冷徹じゃない。
「元気そうでよかったです、では、また」
「あ、はい」
ペコペコとサガリさんはお辞儀をしてそそくさと帰ってしまった、本当にこれだけ渡しに来たのか。彼女の思惑が全く理解できない。
「気にかけてくれるのはいいんですけど・・・・・・、何がしたいんですかね?」
んー困った、と貰った紙袋を眺めていると。
「好きなんじゃねぇのか?」
「は?」
カリムの言葉にコンマ1秒で反応する藍さん、そういうのでは無いんだけど思うんだけど・・・・・・。いや、胸を無理やり触らせてきた事もあったしな、そうなのか?いやいや、美人局とかスパイの常套手段簡単に信用はできない。
「モテる男はつれぇな」
「そんなんじゃないですよ、多分」
あー!!なんでロロウ教えてくれなかったんだよ!
頭をガシガシしていると。
「せっかくだ、貰ったもんは食おうぜ」
と、紙袋を持って行ってしまう。
「ちょっと待って下さい!」
「あ?」
一応ね、こんな時のために色々用意してはある。
中身はクッキー缶、よくお土産とかで売ってるヤツだ、基地では売ってないので外で買ったのだろう。開けた痕跡は無しで缶にも穴が空いている様子は無い、外観上は異常なしかな。
1枚1枚検査しては日が暮れるし、食わない方がいいってなるし、それはそれでこの後感想聞かれたら困る。待機室の棚に入れていた袋と検査キットを取り出し、袋の中に開けたクッキー缶を入れて、空気を注入、数分放置して検査用のポンプで中の空気を検査フィルターに通して反応を確認する。
「すげーな、そんなんで分かるのか?てか、用心だな」
「人体に影響がある量が入っていればこれで分かります。なにかあってからでは遅いので念の為です、部外者で交流があるのは彼女だけなので」
「まあ、確かにな」
腕組みして待つカリム、その隣で目をキラキラさせている藍さん、こういうの彼女好きだよね。
少しの間結果を待っていると表示が出た。
「大丈夫そうですね、食べないのも怪しまれるので、気をつけていただきましょう」
ちょっとでも怪しかったら吐き出すように、そう念押すると。
「毒味は私がするね」
ルイさんがパクリ、はわっ!!と焦ったが少し固めなのかボリボリと音を立てて食べていると。
「うっ!」
「ルイさん!?!?」
急に胸を抑えるルイさん、やられた!と焦り、縮こまっている彼女の背中を慌ててさすっていると。
「おいしぃぃぃ」
と、ニンマリ笑っていた。
ああ、心臓止まるかと思った・・・・・・。
「冗談キツイですよ・・・・・・」
もう勘弁、寿命が十年ぐらい縮んだ気がする、目眩がしてきたので椅子に倒れ込むように座ると。
「ごめんごめん、魔が差しちゃった」
いや、こういう時とかにはやりがちなやつだけどさ、いざ本当にやられると心臓に悪いってもんじゃない。怒る気も怒らないのでジトっとした目で彼女を見ると。
「怒らないの」
チュッ。
と頬に謝罪のキスをされてしまった。
「何してんのよ!どさくさに紛れて!」
「二番機さん、キスしましたよぉ」
なんなんだ?仲良しか?
「仲良いのか悪いのかわかんねえなこいつら」
カリムの愚痴には完全同意だった。それから、ボクは放ったらかしで二人でワイワイしていた。




