第66話 灰色の親友
それから何とか色々誤魔化して何事もなく夕刻、自室にて。
ベッドに寝転んで考え込む。
あの事を誰かに言いたいが言う訳にはいかない、そんな葛藤が続いている。
誰に相談すればいいんだ?レイか?でもあの人たち今は忙しそうだし。リルスさんか?確かバルセルの戦争でもライスヤード紛争でもシロと達と戦っていたはず。
でも、聞いてどうする?
YF-23と戦かった事ありますか?
あるよ、すごい理不尽だった。どうしたの?
そんなことを言われる未来しか見えない。
どうしたらいいんだ・・・・・・。
自分一人では抱えきれないものを抱え込んで、なんだか吐き気がしてきた。
シロ本人では無い、それは絶対だ。じゃああれはなんなんだ?無人のSu-47は遠隔操作だったみたいだし、ヒナの声はおそらく遠隔操作している本人の声なのは間違いないだろう。
それならシロ本人が遠隔操作しているのでは?いやだから死んだって言ってるだろ。
頭の中がグルグルだ。
あー、しんどい。
「冷たっ!!」
不意に頬に冷たいものが当たって飛び起きる、するとルイさんと藍さんが缶コーヒーを持ってパイプ椅子に座り、カリムがボクの頬に缶コーヒーを当てた様だった。
「なんですか、びっくりするじゃないですか」
「呼んでも返事しねぇからだよ」
「す、すみません・・・・・・」
ダメだダメだ、まったく周りが見えなくなっている、頭をブンブンと左右に振って気持ちを切り替えようと頑張るが無理だ。
「これ飲んで落ち着け」
「わっ、あ、ありがとうございます」
カリムから缶コーヒーを投げられ慌てて受け取る、砂糖マシマシの甘いヤツだ。
「んで、アイ、なんでソラはこんななんだ?」
ダメダメ!藍さんに聞いたら!
「ボクはなんともありませんよ!?ちょっと考え事してただけです!」
アワアワと誤魔化すも。
「そんな呼ばれても気づかないことなんてなかっただろ、しかも俺はアイに聞いてるんだ、お前が慌てるなんて逆に何かあったんじゃねぇのか?」
ド正論すぎて反論できない。あー、いつから顔に出るようになってしまったのか、これじゃ二度とスパイなんて出来ないなぁ。
「何も無いですよ・・・・・・」
「・・・・・・」
なんだかボクを無言でじっと見てくるカリム、ん?と首を傾げると。
「言いたくねぇならいいよ、悪かったな」
やれやれと言った感じにパイプ椅子にドスっと座るカリム。ふぅ、助かった、のか?けど、なんだか申し訳ない。
「そんなに信用されてないとは思わなかったぜ」
ちょっとちょっと、誤解ですよ!
「そんなことないですよ!みんなのことは信用してますし、カリムのことは大好きです!、あっ」
勢いで言ってしまった。ニヤニヤするルイさん、頬を赤らめるカリムに、飲み干した缶コーヒー握りつぶす藍さん。
「突然愛の告白なんて照れるじゃねぇか」
汐らしく恥ずかしそうに視線を逸らすカリム。こら、照れるな!これはものの例えだ!なんて言う前に。
「誰が誰を好きなの?聞こえなかったなぁ」
藍さんがわざわざボクの隣に座ってきて、太ももを抓りそうな勢いでボクの太ももをサワサワしてくる。怖い。
「藍さんも大好きです!もちろんルイさんも!」
「気持ちがこもってない!」
「ふふ、ありがと」
まあ、結果オーライ、話を誤魔化すことは出来たけど、生きた心地がしなかった。
〇
翌朝。
朝一番に飛行長に呼び出され、ツルギとカリム、三人で飛行長の部屋に来ていた。
デスクに座るビラン中佐の前に三人で並ぶ。
「戦闘機隊が来る」
え、来る?早くない?しばらく無理だって言ってなかったっけ、と三人で目を合わせていると。
「カリムが嫌がると思って初めは断っていたんだが、先方から是非にとな」
「俺のせいにするな」
カリムが嫌がるってことは、他の国からか?レッドクロー隊のPMCから追加で来るのかな?
「で、誰が何人来る」
御択はいいからさっさと言え、と言わんばかりに急かすカリム。ビラン中佐は「まあ待て」と書類をペラペラと捲り資料を確認する。
「自由グレイニアから研修、まあ、技術支援だな。その名目で三人来る」
「え?」
「へ?」
グレイニアから?カリムはポリポリと耳元を掻いているが、どゆこと?とボクはツルギと目が合う。
「部隊名は第1任務飛行隊のグレイ隊、階級氏名は・・・・・・、レイ・アスール特務大尉、ルリ・シエル特務大尉、ナナリス・シュツット特務中尉だ。期間は2週間を予定している」
「「レイ!?」」
自分の耳を疑った。
「なんだ知り合いか?」
ビラン中佐が不思議そうにこっちを見てくる。
「知り合いというか・・・・・・」
「親友ですね」
ツルギはガチの親友、ボクでもお兄ちゃん見たいな感覚の人だ、その人がなんでここに?しかも戦争中の国に、技術支援って名目らしいけど、まさか戦闘に出たりしないよな?向こうの意図が全然分からない。
「そうか、それなら話が早い、お前ら意外と顔が広いな。ちなみに技術支援というのはツルギ大尉、同隊との訓練飛行、模擬戦だ、防空任務と同時並行になるがよろしくな」
「え、了解です?」
こっちが教える方??ツルギがレイに?今更?
ますます意図が分からない、前回のレイからの話もそうだし何がしたいんだ?
「今頃タワナ、メーシア共和国から迂回して西南西からこっちに飛んできている頃だ、ナバジギスタンの迎撃も心配いらんだろう、安心して部屋の準備でもしておけ」
もう来てるの??なんだかふわふわした感じで実感が湧かないまま飛行長室を後にした。
「レイのヤツ何考えてんだ?」
「分かりませんね」
待機室に戻る途中、ツルギと話し込む。
「教えるのは全然いいんだけどよ、今じゃないだろ?」
「同感です、ってボクもまだまともにツルギに教えて貰ってませんけど?」
「見て覚えろ」
「スパルタですねぇ」
彼の言う通り、今じゃない。
んー、といろいろ考えるがそれっぽい理由は全然思いつかない。
「チグサさんは来ないんですね」
「そいやそうだな、それもよくわからん」
レイはチグサと結婚している、奥さんだから念の為来させたくなかった?ならルリさんやナナリスさんはいいのかってなるし、考えれば考えるだけ分からない。
「その、レイってのは誰だよ」
あ、カリムに説明しないとな、なんだか怪訝そうな顔してるし。
「ああ、俺の親友だよ、歳は俺の一つ下だから30歳かな?」
「んだよ、年上かよ」
そこ?まあ、飛行隊長より年上だと色々やりづらいか、ツルギはねあんな性格だから上手くやってるみたいだけど。
「年下が好きなの?大丈夫大丈夫、超弟っぽくて可愛いから」
こらこら、カリムを煽らない。可愛いというか彼はイケメンかな、性格は弟っぽいみたいだけど、ボクが言えたもんじゃない気もする。
「あ?やりにくいってだけだ、俺はソラで十分だよ」
「やめてください!ってツルギも年上ですよ」
「こいつは別だ」
最近隠さなくなったね!?超恥ずかしいんだけど!
「好きだな〜ソラのこと、お兄ちゃん恥ずかしいぜ。ほれほれ」
「ちょっとツルギ!」
グイグイ押して隣並ぶカリムにくっつけようとするツルギ、当のカリムは満更でもない顔してるし!
「おっと・・・・・・」
そのままワイワイと歩いていると、待機室の前で仁王立ちしている藍さんに見つかった。スススッと後ずさりするツルギ。
「じゃ、ちょっと、用事思い出したわ!」
「えっ!?」
逃げるツルギ、拘束されるボク、笑うカリム。
ちょっとはみんな元に戻ってきたかな、この瞬間、嫌なことを少しだけ忘れることが出来た。
〇
昼前。
薄灰色のF-15が二機と漆黒のF-15が一機、頭上を通り過ぎて着陸態勢に入ろうとしていた。ボクたちはそれを、格納庫の中狩る見守る。
「ルリさん相変わらず黒いな」
「真っ黒ってカッコイイですよね」
彼女も意外とこだわりが強いのかな、それでも色によって強者感が半端ない。
さてさて降りてきたぞ、なんだかワクワクしてきた。
三機同時に着陸し、縦に並ぶと格納庫まで案内されてくる、レイのアイビーの葉二枚、ルリさんの直刀一本、ナナリスさんの甲冑の横顔の部隊マーク、なんだか懐かしい。
そして、格納庫にバックで入ってきて並ばれるとエンジン停止、少しするとキャノピーが開くと三人が降りてきて、先頭の人がツルギに歩み寄る、毛先が跳ねた茶髪のイケメン、レイさんだ。
と、その前に。
「王子さまぁぁぁぁぁ!!」
「どは!」
刈り上げのある金髪ショートの美人さんが、キャノピーから降りた瞬間に猛ダッシュで走り出し、ツルギに突撃している。
「ナナリス!王子様はやめろっつってんだろ!」
「久しぶりなんだからいいじゃーーーん!」
「ダメだ!ってか、いい歳なんだからちょっとは落ち着け!こら!離れろ!!」
「いやぁぁぁぁん!!」
ナナリスさん、うっさいな。ツルギに抱きつき暴れてるし、妙に声が高いから奇声がよく通る。
「あ、ガキンチョ2号!」
ボクと目があった、そいやそんな風に呼ばれたこともあったなー、懐かしい。
「ガキじゃないです!」
「ふぁぁぁぁ!昔のレイみたい!かわいぃぃぃい!!」
「にゃわ!!」
何がどうなっているのか、久しぶりに飼い主に再開した犬のようにツルギに頬擦りしていたかと思うと、今度はボクを可愛い可愛いと頭をわしゃわしゃと撫でられている。首がもげる!!
「お久しぶりです、ツルギさん」
なんだか照れくさそうにしてるな。ボクを放ったらかしにしないで?
「おう、レイ、老けたな」
「ツルギさんもですよ」
そこ?男二人がいじりあってニヤニヤしないの。
「うるせぇ、気にしてんだよ!」
「あー!ごめんなさい!」
ツルギがレイさんをヘッドロックして戯れている、ほんとこの二人は仲良しだな。ボクもレイに挨拶したいのにナナリスさんが離してくれない。
「ちょっとナナリスさん!」
「もう可愛すぎぃ!ねぇねぇ、お姉さんといいことしよ!」
「は!?」
相変わらずぶっ飛んでんな!藍さんの目を気にしつつ困惑していると。
「あ、ルリさん。お久しぶりです」
小柄で茶髪のサラサラなセミショートヘアで蒼い瞳が印象的な少女、いや、ルリさんが真顔でボクの目の前にたっていた。
「・・・・・・久しぶり」
っと、ナナリスさんとテンションが違いすぎてズッコケそうになる、分かってはいるのにワンテンポ遅いのは実際に聞くと慣れないな。
「・・・・・・大きくなったね」
「あ、はい、ありがとうございます」
ポンポンと頭を撫でられる、まあ、ここにいる人全員親戚のおじさんおばさんみたいな感じだし、そんな反応になるわな。
「・・・・・・親戚のおばさんじゃない」
「言ってないです!」
そういえば読心術の使い手だった!!表情変わってないけど、雰囲気は不服そうにしている。でも、ルリさんは全然変わってないな、言われなかったら年下だよ、めちゃかわいい。
「・・・・・・いくよ」
「いでででで!」
ルリさんがナナリスさんの耳を引っ張って連行してくれた、ふう助かった。
「久しぶり、ニグルムくん、あ、ソラくんの方がいいかな?」
今度はレイが改めて挨拶してくれる。
「どちらでも大丈夫ですよ」
「そう?でもソラってソラさん呼んでるみたいで変な感じなんだよねぇ」
確かに、ツルギは正体を隠してしばらくソラって名乗ってたからその気持ちは分からんでもない。けど、さすがに統一した方がいいか。
「じゃぁ、ソラで!」
「なんでだよ!」
と、今度は仕返しとばかりにレイさん掴まれて頭をグリグリさせられる。
「ゴホンッ」
あ、カリムたちの存在を忘れてた。痺れを切らしたのかわざとらしく咳払いをされてしまう。
「あっ、紹介します。この基地の戦闘機隊隊長のカリムです」
「戦闘機隊隊長のカリム大尉だ」
「グレイ隊隊長のレイ・アスール特務大尉です、よろしくお願いします」
いつも以上にキリッとした顔つきでレイと握手をする。カッコつけてる?それとも威厳を見せつけるため?
「背は高いけど女性なんで気をつけてください。いてっ」
ノールックでお腹に肘打ちをされた、注意は必要でしょうに。
「うん、見ればわかるよ?」
「え?」
「そうか、見る目があるな!ソラとは大違いだ」
どうして・・・・・・。
妙に嬉しそうなカリム。あー、そういうところがモテるのかな?やっぱレイさん違うなぁ。
「アサギさんに似てて接しやすいね」
ボクに耳打ちしてにっこり!じゃない!なんでみんなこんなにブラックジョーク好きなのかな、あんま笑えないんだって。でも、そう言われたら背丈も一緒だし、似てるっちゃ似てるかな?
「ニ・・・・・・じゃなくて、ソラくん」
「はい?」
「約束、守ってくれてありがとね」
「はい・・・・・・」
ボクがツルギと一緒にグレイニアを出ていく時、レイたちに約束したこと。
『大きくなったらパイロットになる』
覚えてたんだなぁ。
なんだか照れくさくて、ボクは頬をポリポリと掻いた。




