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第65話 偽りの騎士

2日後、7月13日13時、兵舎屋上。


ボクは久しぶりにあの人に電話していた、レイじゃなくてボクのパパ役の人。


《ロロウは死にました》


《そうか、残念だ・・・・・・》


少しの沈黙、乾いた風邪がボクの頬を撫でる。


《てことはもう?》


《はい、完全にバレてます》


《逃げないのか?》


《大切な人がいるんで》


《お前も変わったな》


《パパは相変わらずですね》


《うるせーよ・・・・・・》


昔のボクは完全に任務優先で、今思えばよくあんなことしてたなと身震いしてしまう程だ、そう考えてみると今のボクはすごく変わったのかもしれない。


《こっちもあれからいろいろ動きがあったぞ、ヒナが無人機の研究に躍起になってる、近々動きがあるはずだ》


《Su-47の無人機の他に?》


そんな一朝一夕で研究が進むものなのか?それともあいつの事だ、サヤを上手く言いくるめて地道に隠れてやっていたのか、Su-47の他に無人機が出てくると厄介だな。


《もう47が飛んでるのか・・・・・・、だが他にもまだいる。でもな、これ以上は協力できない、俺は近々タバルニアに亡命する》


監視の目がきつくなってきているのだろう、パパは捕まる前に逃げる気だ、ボクも捕まって欲しくはないしそれには賛成だ。


《すみません・・・・・・》


《なーに、好きでやってんだ、気にするな。ヒナに捕まるのも癪だしな》


ほんとこの人には助けられてばかり、感謝してもしきれないけど、ボクが何かをする訳にも行かない。


《じゃぁ、元気でな》


《はい、長い間お世話になりました》


言い切ると直ぐに切れてしまった。


別れって辛いな、でも死んだ訳じゃない、新たな門出だと思って気楽に考えよう。


「にしても、ランスロットの亡霊の他に違う無人機か、正々堂々と生身で当たってこいよ・・・・・・」


フェンスにもたれかかって項垂れる。


死にたくないのは相手も同じ、だけどこっちは最低限の無人機しかないのに敵はわらわら出してくる、卑怯っちゃ卑怯だよな。


いつからボクたちはローレニアと戦ってるんだろうか、表向きは参戦してないけど武器供与とか色々理由つけて介入してるんだろうな。


ホント腹立たしい。


「ソラもそんな口調で喋るんだ」


あ、不覚。恐る恐る振り向くと藍さんが立っていた。


「もう、一人で出歩くなって言われてるでしょ?」


スタスタと歩み寄り、ボクと同じようにフェンスに寄りかかる藍さん。


「すみません、ちょっと旧友と連絡を」


よくよく考えると狙撃されなくて良かった、いや、そんなことしてこないか。狙撃するぐらいならとうの昔にタイミングなんていくらでもあったろうし。


「戻っちゃった、・・・・・・レイさん?」


敬語がボクのスタンダードだからね、独り言は別だけど。


「いえ、もっと古い人です」


「ふーん、あ、スパイ仲間の?」


「ですね」


何故かニッコニコの彼女、スパイに関しては興味深々なんだよね。今のボクは諜報とは無縁だから、そんなに目を光らせても何も出ないけどね。


「元気にしてた?」


「はい、もう会えませんけど」


「そっか」


なんだか藍さんも若干落ち込んでくれ、目を塞ぎ込んでしまう。大丈夫大丈夫、死んだわけじゃないんだ、時間が過ぎればまた会える時が来るだろう。


「戻りましょうか」


「そうだね、カリムも心配してたよ」


カリムが?それならカリムが探しに来そうだけど。


「私が止めたけど、二番機だし」


「そうなんですね」


そここだわるよね、なんなんだろ?二番機も三番機も四番機も大切な人ボクのエレメントだ、藍さんなりに優先順位とかつけてるのかな?彼女が満足ならそれでいいか。


外の乾いた空気を大きく吸って吐き出し、夏らしい、と言ってもここは常夏だけど、端島よりカラッとした空を見上げて戻ろうとすると。


「ん?」


空で何か光った気がした、太陽の反射か?


「どうしたの?」


「あそこなにか居ませんか?」


小さいな雲がいくつも漂う空を指さし、藍さんは目を細めて「んー?」と首を傾げながら探す。


「鳥じゃない?」


「なんか光った気がしたんですけど・・・・・・」


そんな気がしただけかな?万が一飛行機とかでも管制塔が見つけるだろうし、目の端に何か写った気がしただけだろう。


気のせいか。


もう一度、空を見て待機室に戻ろうとした時。


ゴーーーー・・・・・・。


と、遠くの方でジェットエンジンののような音が響く。


「なになに?」


慌てて当たりをキョロキョロと見回す藍さん、ボクも目を細めて360度広がる空をくまなく探す。


すると今度は全然違うところがまた光った、かなり近づいてきている、あれはキャノピーの反射?いや、キャノピーはそんな簡単に太陽の光を反射したりしない。


見失うまいと、息をするのを忘れ光るものを見入る。


「どこかの基地から誰か来るって言ってませんでしたよね?」


「言ってない」


「レッドクローも飛んでないですもんね」


「飛んでない」


じゃあ、あれはなんなんだ?放送も入らないし、空襲警報も鳴らないし。


「・・・・・・戦闘機?」


自分の目を疑った、目を凝らしていると機体は台形の主翼で水平尾翼のようなものが見えない。そして、水平尾翼が無い戦闘機に乗っている人をボクは二人しか知らない。


「ちょっと!ソラ待ってよ!」


ボクは考えるよりも先に待機室に走った。



待機室。


ドアを勢いそのままにバーン!と開けると、息をするのを忘れていたのでハァハァと息を整える、って息してる場合じゃない!


「どうしたの?そんなに急いで」


カリムと何かをしてあたのであろう、ルイさんが首を傾げて目を点にしている。


「お、屋上で不明機を視認しました、ボクと藍さんで確認に上がります」


「え?」


驚く藍さん、構ってる暇は無い。


「ツルギは管制塔と司令室に連絡してください!」


「は?視認ってどういうことだよ」


いきなり言っても伝わらないか・・・・・・、でも急がないと。


ゴーーー・・・・・・。


今度は屋内にいても分かるジェットエンジンの轟音が部屋を反響して轟く、マジでヤバいって、みんな顔を見合せている。


「俺も上がる」


「ボクと藍さんで十分ですので待機していてください!行きますよ、藍さん!」


「え、あ、うん!」


「おいソラっ!」


見間違えだったらいいけどそうじゃなかったら最悪だ、彼とルイさんを飛ばす訳にはいかない。藍さんの腕を掴んで急いで格納庫に走った。



《ーー不明機を確認、レーダーにほとんど映らない、方位不明、アルフレート隊離陸許可ーー》


《アルフレート隊ウイルコ、シューレ、出撃します》


《ラズリ、出撃!》


とにかく二人で離陸したはいいがどこにいるんだ?発見からかなり時間が経ってしまったし、もうどこかに行ってしまった可能性がある、新手の偵察機か?


レーダーに映らないなら赤外線カメラで探せばいいのだが、カメラにも映らない。エンジン音はしたんだ、ここにいたのは確かなのだけれど。


《ラズリ、ボクから離れないように。後方警戒をお願いします》


《ラズリ、ウィルコ》


二機で飛んで若干嬉しそうに弾ませる藍さんの声、ボクはそれどころじゃないんだけど、密集隊形で不明機を探す。


《上昇します》


《ウィルコ》


雲の下にはいなさそうだ、とりあえず高度1万5000フィート位まで上昇して、何も無かったら帰投しよう。


上昇しながら基地の方を確認すると、F-16とYF-23が滑走路に向かっている。早く探さないと、ルイさんに観られる訳にはいかないんだ、出ないなら出ないでいてくれ。


そう願った時。


ビー、ビー、ビー、とレーダー照射を受けている警報がコックピット内に鳴り響く。


《ブレイク!》


《ぬっ!》


左右に散開しやや高度を下げ、警報音もその一瞬で終わり何事もなく再び集合。


《びっくりした・・・・・・》


《全方位警戒してください》


どこだ、どこにいる。


〈ーー判断は上々かな、さすが一番弟子。いや、ツルギの弟子かなーー〉


え・・・・・・?


気がつくとボクの真横に砂漠迷彩のYF-23が飛んでいた、垂直尾翼には羽ばたくような白い翼が描かれているが切れ目がある。しかし、その機体にはキャノピーが存在せず、八角形の機械的な模様で覆われていた。


その話しかけられた声は、ボクのよく知る人にそっくりで、でもどことなく違和感があるような気もするが。


《・・・・・・シ、ロ?》


なんで、どうして?操縦桿を掴む手が震え何も出来ない。


〈ーーん〜、△かな。じゃ、またねーー〉


すると軽くバンクして白い機体は離脱、瞬く間に北方向へ飛んでいき見えなくなってしまった。


これは、夢なのか?△ってどういう意味だ?


訳が分からないまま、しばらく唖然としていると。


《大丈夫?》


《全く、初陣なのに置いていくなよ》


ルイさんとカリムが急上昇してきてクルッと宙返りしながら後ろに合流、彼女たちにはさっきの無線は聞こえていなかった様子だ。


《だ、大丈夫です・・・・・・、不明機を見失いました、戻りましょう》


《んだよ、上がり損か》


他に戦闘機がいるような気配は無い。もう大丈夫だろうけど、ボクが大丈夫じゃない、早く降りないとどうかしてしまいそうだ。



搭乗員待機室。


「ソラ、どうしたんだ?」


「報告から戻ってきたらずっとあの感じですね」


「なにか怒られたのかな?」


報告から戻ってきたらソラは席に深くもたれて、全く動かないままずっと天井を見上げていた。


何かあったんだろうけど、いくら空気読まない俺でもとても聞ける雰囲気じゃない。


んー、待っとけって言われたから待ってたけど、俺も確認に出ればよかったか?でも、一機って情報だったし、ちょっと外に出たが全然見えなかった。


「聞いてこようか?」


「いや、あいつらが聞くだろ、ソワソワしてるし」


微動だにしないソラの横で、どうしたものかとソワソワしている藍たち、あいつの事は彼女に任せよう。


「それでいいと思います」


啓も賛成だしな。



「おーい、ソラ!」


「え!?あ、はい、呼びました?」


天井を見ているとカリムに頭上からのぞき込まれた、鼻が当たりそうな距離で、普通にびっくりして椅子から落ちそうになる。


「ああ、20回ぐらいな」


そんなに!?肩でも叩いてくれれば良かったのに。


「どうしたの?上の空だけど」


「ソラだけにか?」


「いてっ」


ルイさんが心配してくれてると思いきや、カリムが何か言ったと思うと恥ずかしくなったのか、頭をしょっぴかれた。なんで?


そして、ふと気がつくと藍さんはずっとボクの左手を握っている。どして?


「ありがとうございます、藍さん」


「うん」


彼女なりに心配してくれてるのだろう、考えるのが嫌で天井見てたけど考えないといけないかなぁ。ルイさんがあれを見なかったのは良かったけど、本当にあれはなんなんだ?


声はまんまシロお兄ちゃんの声、聞き間違えるわけが無い、でもなんだか違和感を感じた。でも、機体はちょっと改造してある感じだったが見た目はYF-23、しかも砂漠迷彩色のままで、部隊マークもほぼ一緒。


彼が最後に飛んでいた機体だろう。


これは聞いてみるしかない。


でもどうやって?ルイさん勘が鋭いしバレてしまうんじゃ?


いや、何となくオブラートに包んで聞いてみるか。


「あの、ルイさん」


「ん?」


「今更なんですけど、ツバサのYF-23ってどうしたんですか?」


シロは撃墜された訳では無い、ロロウと同じで機体は残る。ロロウの機体は予備機になっているが、シロの機体がどうなったのかまではあの時のボクは確認していない。


「え?ツバサくんの?えっと、スクラップになったはずだけど?」


スクラップか、あんな機体予備機で置いておく訳にもいかないだろうし、そうはなるだろう。


でも、なったはずって?


「スクラップを確認しました?」


「ううん、主翼を切られてコンテナに載せられたところまでは見たけど、そこからは見てないよ。でも、どうして?」


やられた、な。


ここまで先のこと考えてるとは思わなかった。ヒナは重傷だったからその前から指示していたのか、それともサヤか?おそらく彼の機体はローレニアに回収されている。


素直に恐れ入るよ、よくエルゲートにバレなかったな。


「いえ、ちょっと夢を見て、そういえばどうしたのかなって」


「そう?」


首は傾げているが一応は誤魔化せたかな。


「ツバサは死んだんですもんね」


「うん、私の腕の中でね」


彼が死んだのは紛れもない事実、だけどボクが空で会ったアレはなんなんだ?説明がつかない。まさかあの時ツルギの時みたいに囮を?なわけないか、さすがにルイさんが気づくだろう。


「こらルイ、理由は知らねぇか落ち込んでるヤツにそんな事言うなよ」


「八年前のことだから大丈夫だよ」


言葉遣いはいつものままだけど、アルフレート隊に入って若干丸くなった気がするカリム、そうそう、八年前も前なんだ、今更気にしても仕方がない。


「そうか?ソラ泣いてるぞ?」


「ソラくん!?」


「ソラ!?」


気がつけば目尻から涙が流れていた。

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