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第5話 雨

5月6日。

今日は朝から訓練だ、昨日の反省を生かすためにフレイヤ隊の二人とボクたちとでの模擬戦、地上からは荒木さんが厳しい目を向けている。


《全然ダメだ、自分だけが戦ってるんじゃないぞ、ラズリと距離を保てと言ってるだろ》


こんなのではダメだ、そう分かっているのにフレイヤ隊を追うのに必死なあまり、僕の斜め後ろを飛んでいる藍さんと距離が離れてしまう。無理に旋回しながら追ってるんだ、近すぎると接触するかもしれないし、彼女もボクから遠ざかってしまうのも指摘されてわかる。


《くそっ・・・・・・》


でも、指摘されたところでどうしたらいいのか分からない。今まで優秀優秀と言われてきたのが嘘みたいだ、藍さんも下手くそな訳では無いし、むしろボクの方が翻弄してしまっまている。


《シューレ、一旦ラズリの後ろにつけ》

《まだやれます!》

《言うことを聞けっ》

《シューレ、ウィルコ・・・・・・》


焦るあまり荒木さんに反抗してしまう。落ち着けボク、そう自分に言い聞かして速度を落としラズリを自分の前に出す。


《フレイヤ隊はそのまま回避しながら飛べ、隙があればやって構わん》

《フレイヤ1、ウィルコ》


前後を入れ替えフレイヤ隊を追う。


《よっ、ほっ》


逃げるフレイヤ隊をボクの前にいる藍さんは、リズムをとるように左右に旋回しながら追う。その後ろをついて行くボクも何も気にせずただ彼女のうろをついて行けばよかった。


フレイヤ隊が左右に二手に別れた、前飛ぶフレイヤ1に藍さんが、フレイヤ2にボクがつく。


大きく旋回し何をしたいのかは分からないが、単機なら僕だって!


そう意気込んでフレイヤ2にピッタリくっついて飛んでいると、ブワッとフレイヤ2が消え。


《あっ》


目の前に反対側に旋回したはずのフレイヤ1が現れ、機首が真っ直ぐ僕の方を向いていた。



模擬戦が終わって駐機場に機体を駐め、コックピットからゆっくりと降りる。


全然ダメだった、頭をガジガジと掻きながら歩いていると目の前に荒木さんが現れる。ふと顔を上げると眉間に皺を寄せ腕組みしている彼。


「歯を食いしばれ」

「えっ、ーーっ!」


ゴッ!


何が起こったのかもわからずボクは地面に吹き飛ばされ、左頬に遅れて激痛が走った。痛みを感じてやっと荒木さんに殴られたのだと分かる。


口元を何かが垂れる感触がして腕で拭うと血がついた。


「ちょっと荒木少佐!」


藍さんが慌ててボクに駆け寄ってくれて肩を持ち支えてくれる。

情けない・・・・・・。


「東條の事が信用出来ないのか?」


そんなことはない、ボクのことを信用してくれてるし、ボクも彼女のことを信用している。


「今のお前はいるはずのない笹井のことしか見えてない、見ようとしてない」


そう言われたらそうかもしれない。でも、ボクは、ボクの目標はツルギだ、どうしても彼の姿を追ってしまう。


「お前はお前だ、目を覚ませ。死んでからでは遅いんだよ」


ボクを睨みつけ、そう吐き捨てるように言い残して荒木さんは兵舎へと姿を消してしまった。


歯が浮いたようにズキズキと痛む頬を押さえる。


「大丈夫?」


心配そうにボクの顔を覗き込む藍さん、ボクはなんだか申し訳なくなって俯いてしまう。

表面上は彼女のことを信用していても、本心は自分のことしか信用してなかった。


ライエンラークを首席卒業、そんな自分に奢っていたのかもしれない。しかし、戦場ではそんな肩書きなんて無意味だった。


「すみません・・・・・・」

「なんで謝るの?」


深刻なボクに反して能天気な彼女、ボクにもそんなメンタルが欲しい。彼女の問に答えられずしばらく立てずに地面に座ったままでいると。


「ごめんね」


賀東大尉が僕の前にしゃがみこんで絆創膏を渡してくれる。


「荒木さん昔から乱暴だから、本当はいい人なんだよ?」

「わかってます・・・・・・」

「そう、よかった」


そんなことはわかってる、じゃなきゃ下手くそなボクを怒ってくれないだろうし殴ってもくれないだろう。

でも、そんなボクが不甲斐なかった。


そしてしばらく休憩、僕は誰が出したか分からない駐機場にあるベンチに座って空を眺めていた。藍さんには、一人になりたいと言って部屋に帰ってもらっている。


目の前の誘導路には海軍のF-35Cが十機並び、滑走路に着いた機体から順次離陸していく。ボクたち入れ替わりで飛行訓練を行うのだろう。


機首のキャノピー下には空母「ソリュー」艦載機の印の赤色の斜めの一本線に、垂直尾翼に描かれているのは赤色のΩ(オメガ)のマーク、黒木さん率いるオメガ隊の部隊マークだ。


彼らが飛ぶってことは帰ってきてから僕らの訓練になるかな、訓練空域狭いし、しばらく時間が空きそうだ。


にしても、だ。


こんなに思うように飛べないとは思わなかった、もちろんライエンラークでもF-35には乗っていたし試験もちゃんとした、単機で。


それが問題だったのかなぁ、ほかの人たちみたいに群れることもしなかったし出来なかった。


話す人と言えば教官と教務で隣の席だった奴、あとは電話で話してたリュウお姉ちゃんと結さんにレイさんたち。


別にコミュ障って訳では無いんだけどね、藍さんとは普通にやってけてるし、多分。


ボクは一人で大きくため息を吐く。


荒木さんに言われたお前はお前だ、という言葉が頭の中をグルグルと回っている。ボクはボクだ、そんなこと言われなくてもわかってる、でもやっぱりどこかでツルギのようにとかそんな風に思っているのかもしれない、自分らしく飛べってことなんだろうけど、どうなんだろ・・・・・・。


考えても答えは見い出せず、どのぐらいたっただろうか。


地面を濡らす、湿った匂いが漂い出したと思うと数秒の間に辺りが暗くなり始め、ポツポツと肌に何か当たる感覚がした瞬間に。


ザァーーーー・・・・・・。


雷を伴って大雨が降り出した、南国の離れ小島ではよくあるスコール、遠くの方で陸軍の人達がテントへと走っているがボクは何故か動こうと思わず、雨に打たれままベンチで項垂れていた。


格納庫の扉も閉まっていく、艦載機はスコールが去るまでは上空待機だろう、いくら全天候型でもこの嵐な中着陸は難しい、よくある事と前に聞いたし特に心配はいらない。


上がったオメガ隊も雨が弱まれば帰ってくるだろう。


そしてさらに強くなる雨、肌に当たる雨粒がだんだん痛くなってくる。


すると肌や頭に当たる雨がピタッと止んで、布のような物に当たるバチバチとした音が頭上で響き、目の前に人影が現れる。


「風邪ひくよ」


見上げると飛行服のままの姿で、傘を持った藍さんが立っていた。


《ーー天候状況に鑑み午後の訓練を取りやめるーー》


雨音でかき消されそうになるもギリギリ聞こえた基地放送。


「部屋に帰ろっ」


ニッと笑い、明るく何も考えていないような藍さんの声。

悩んでるのが馬鹿らしくなってくる。


スっと伸ばされた彼女の手を取り立ち上がる。


「冷たっ、早くシャワーしてきな?」

「そうします、・・・・・・傘は?」

「あっ、忘れた!!」


迎えに来て貰っといてなんだけど、何故か小さい傘に藍さんと相合傘をして部屋に戻った。



シャワーから戻ってくると。

珍しく藍さんはよそ行きの格好?サンダルにホットパンツ、片側の肩が出たオーバーシャツを着ていた。

ハハハ、どこに行こうと言うのかね。

って、たいしていつもと格好変わってないし!


「カフェ行こ!」

「え?」


この雨で??


「少佐に聞いたら大気が不安定で訓練できそうにないから外出して良いって、雨も弱くなってきたし」

「う、うん、行くのはいいですけど」

「お姉さんに挨拶しないといけないし」

「は?」


頬をポッと赤らめる藍さん、だからエレメントとしてだよね?


「早く準備!!」

「わ、分かりましたから!」


背中を叩かれ急かされる。問答無用とはこのことだ、いそいそと準備してもベッドで腕組みして僕のことを見ている。

いやー、着替えづらい。


ズボンを持って藍さんを見ていると、彼女は急にハッとして。


「えっち!」

「ええっ!」


こっちのセリフだ。同部屋という弊害なんどろうけど、やっと壁の方を向いてくれてボクは素早くズボンを履き替えて外出用のTシャツに着替えた。

今回は藍さん先に着替えてたけど、逆だった場合ボクは出ていかないといけないのかな?


そして、準備を済ませ、今度はちゃんと一人一つの傘を持ち基地を出た目の前のカフェ、ボクの実家に着いた。


カフェ「スカイ」


「いらっしゃ・・・・・・、なんだ宙か」

「なんだって酷いです!」

「うーそ、いつもの席行ってて」


扱いが雑なんだって、エレメントの手前もう少し普通に扱って欲しい。


「ソラっていじられキャラなの?」

「違います!」


ほら言わんこっちゃない!ここは断固として否定しておかないといけない。

プンプン怒りながらいつもの窓際角の四人がけのテーブル席に座る、窓を背にしてボク、その隣に藍さん。


「なんで隣なんですか?」


四人がけのテーブルですよ?普通は対面じゃないですかね?


「ダメなの?」


さも当然、とした態度な藍さん。


「ダメじゃないですけど・・・・・・」

「いいじゃん、それにあの人お姉さんでしょ?対面に座るんじゃない?」

「あー!あ?」


変に納得してしまったがそうなのか?普通は姉弟が隣合うんじゃ?って今更言えないし、藍さんの言う通りにリュウお姉ちゃんお水の入ったコップが並んだお盆を片手にボクの対面に座り、コップをテーブルに置く。


「初めまして、宙の姉の伊波流(いなみりゅう)って言います。みんなからはリュウって呼ばれてるかな。君が宙のエレメントの?」

「東條藍っていいます!ソラのエレメントしてあげてます!」

「ゴホッゴホッ!」


水を飲み込めずむせてしまう、してあげてるってどういうこと!?


「仲良さそうで良かった」


満面の笑みのリュウお姉ちゃん、どういう基準?

まあでも、安心してくれたようで良かった、のかな?


「リュウさんとソラって似てないですね」


悪気がないから困る、触れちゃいけないことってのあるだろうに、能天気な藍さんには分からないか。なんて思っているとリュウお姉ちゃんに睨まれる。あれれ?


「血は繋がってないからね、宙から聞いてない?」

「全く!・・・・・・なんかすいません」


また睨まれた、だってそんなこと気にするなんて思わないじゃん、ボクにとってはリュウお姉ちゃんはリュウお姉ちゃんだしさ。でも、藍さんも悪いことと思ってくれたのか謝ってくれる。


すると、リュウお姉ちゃんは立ち上がりカウンターに行くと直ぐに戻ってきた、片手には写真立てを持っている。


ツルギと水咲さん、啓さん、リュウお姉ちゃん、黒木さん、ツバサお兄ちゃんが写る記念写真。


「お姉ちゃん・・・・・・」


その写真を見るやいなや、ボソッと呟いた藍さん。

比べられるのは嫌だとか言ってたけど、そうだよね・・・・・・。


「宙、自己紹介苦手だから私がしてあげる」

「ちょまっ!!」


さすがにそれはやばい!言わなくていい事まで言われそうで必死に止めようとするが。


「ツルギくんも秘密多くて啓ちゃん疑心暗鬼になってたんだから秘密はダメッ、ゼッタイ!」


怒られた。

ツルギは特殊過ぎる、元一国の王子なんて隠すしかないでしょ!それと一緒にしないで欲しいと思ったけど、ボクも元スパイだ、彼女たちからしたら一緒かもしれない。


他にお客さんいないからいいか。


「とりあえず、最後まで聞いてね」

「はい、分かりました!」


どんなことを言われるか分かってないポカンとした顔の藍さん、軽蔑されないかな、それが一番不安だった。


「宙、ローレニア出身なの」

「あー!だから褐色で白髪!」


変に納得してくれる藍さん、ローレニアでも褐色肌は珍しいんだけどな、エルゲートよりは多いけど。それに白髪は関係ない、最近なったし。


「それで宙は元々孤児だったんだけどこの白髪の白崎翼って人がローレニアで拾ってくれたんだって」


楽しそうに笑っているツバサお兄ちゃんを指すリュウお姉ちゃん。まてよ、そっちから説明しないといけないんじゃない?


「??」


ほらみろ予想通り藍さんは首を傾げ分かっていない。ローレニア出身はすんなり受け入れたのに意味がわからないけど。


要約するとこうだ。


家族でローレニアのスパイだった白崎翼、ローレニア名「シロ」に拾われたボク、衣食住を与えてもらった彼に憧れたボクをスパイ養成学校に入れてくれて。その間にツルギはエルゲートに亡命、それを追ってシロもエルゲート入りしたのが13歳の時。それからなんだかんだあって捕まっていたローレニアから逃げるツルギの道案内をシロお兄ちゃんに任され、一緒にグレイニアに逃亡、そしてボクも第一次グレイニア紛争の激化でローレニアに帰れなくなり、四六時中ずっと一緒にいる間にボクのことを守ろうとしてくれるツルギに愛着が沸き、第二次グレイニア紛争終結まで一緒に過ごし、いよいよここ端島へ帰れるってなった時に彼の好意で一緒にここへ来た。


しかし、ツルギはエルゲートの方針でバルセル・グレイニア戦争の支援に向かっていた僚機の水咲と啓さんを追ってグレイニアに戻り、ボクはツルギと仲良くしていたリュウお姉ちゃんに預けられ、あれから10年。彼らはまだ戻ってきていない。


かなり頑張って端的にまとめたが、僕の人生波乱万丈過ぎるな、自分でも思う、よく生きてるわ。


こう考えると本当に飛んだとばっちりのリュウお姉ちゃん、よくここまでボクを育ててくれた、感謝してもしきれない。


「意味がわからない」


ボクも分からないです。

考えてるのかどうかは分からないが至って普通な反応だ、びっくりはしない。


「でも、こいつが悪いのは分かったかな」


ツルギを指さす藍さん。まあ、全ての元凶と言えば元凶だけどさ、ボクも好きで彼についてきたわけだし一概には悪いとは言えない。


「こいつのせいでお姉ちゃんは帰ってこない」

「・・・・・・」


そうだった、普段ゆるふわ過ぎて忘れがちになるのだが彼女はツルギの三番機、東條啓さんの妹なのだ。そりゃ血のつかながってる姉妹、10年も行方不明だとボクよりも心配だろう。


「でも、こんなに楽しそうなお姉ちゃん初めて見たかな」


そうかな?写真の彼女はジト目をカメラに向けてるだけで笑っているようには、いや、よく見ると口角が上がってるかな?これみよがしにツルギに引っ付いてるし。


「はい、チョコワッフルとミルクコーヒーだよ」

「あ、ありがとうございます!」


お父さんがボクの大好物をしっかり人数分用意してくれテーブルに並べてくれる。


「ソラの奢りね」

「へ!?」


だと思った、別に高いもんじゃないしいいけどさ。

高校生だったボクだとすごい痛手だけど、今はそれなりに給料を貰ってる。


「啓ちゃんもこれが好きだったんだ。まあ、ツルギくんが問答無用で頼んでたからそう見えただけかもしれないけど」


リュウお姉ちゃんがそういうと、いただきますと言ってナイフとフォークを使ってお行儀よくチョコワッフルを頬張る藍さん。


「美味しいです」


「そう?よかった」


なんだか口数少ないな、落ち着いてる風に見せかけて意外と騒がしい藍さんが今日は預けられたネコの様、じっとして食事を続ける。


それにボクがどうこう言うのも変なので、ミルクコーヒーを一口飲み、チョコワッフルを頂く。いつもの味でとても落ち着く。


「ツルギくん見てどう思った?」


リュウお姉ちゃんが頬杖をついて藍さんに聞いているがなんだか嫌な予感がする。藍さんもツルギ自身を見るのは写真越しにでも初めてだろうし、率直な感想が聞きたいのかな?


「一発でいいから殴りたい、かなっ」


「でしょ!私もなのよ。藍ちゃんとは仲良く出来そう!」


いやー、怖いな。キャッキャと二人は笑っているから尚更だ。

ツルギに会うことが出来たら注意しないと。

ボクはそんな二人から目を逸らしてミルクコーヒーを啜った。


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