第59話 戦果と謀殺
登場員待機所
「カリム?」
「なに?」
「なんか表情変わった?」
「あ?なにが?」
待機室に戻ると早々にリズさんにいじられるカリム、ぶっきらぼうにいつもの席、リズさんの隣に座るも隣の彼女に前かがみになって顔を覗かれている。一瞬女の子になってるし、動揺が隠せてない。
ボクはその間に、ある程度宥めるも不貞腐れている藍さんを連れていつもの席に。
「いや、なんかいつもの張り詰めた感がないよ?」
「気のせいだっ」
んー、そう言われるとちょっと目尻が緩くなってる気もするけどどうかな?長い付き合いのリズさんにしか分からないと思う。
「なんかあったでしょ!ソラくんと一緒に帰ってきたよね!?」
「なんもねーよ!ツルギも居ただろうが」
ムスッと腕と脚を組んで否定するカリム、いや、なんも無いことはないでしょ、ボクの気持ち分かってる?超複雑なんだから、面と向かって好きって言われたことないよ?いや、好きとは言われてないけど。
すると、リズさんと何故か目が合う。
びっくりして慌てて目を逸らすと。
「あ、ふぅ〜ん、そうなんだぁ〜」
え?めちゃニヤニヤしてる。
「カリムも女の子だなぁ、もう、やっぱりそうなんじゃん」
「何の話だよ!一人で興奮するな!」
「またまたー」
「黙れっ!」
「にひひひ、はいはい」
どうしたどうした?カリムは恥ずかしそうだし、リズさんはやばいぐらいニヤニヤしてるし、女の勘ってやつ?
え、バレたの?早くない?バレるって何が?
「お姉さん妬いちゃうなぁ」
「なにがですか!?」
察したのだろうルイさんにボクもいじられる、バレるの早すぎだろ、反対側に座るロロウにも耳打ちで。
「キスはしたの?」
とか聞かれるし。
「してません!何の話ですか!」
なんでボクがドキドキしないといけないのか、頭を抱えてこの世界とシャットダウンし、塞ぎ込むしかなかった。
ブーーッ!
緊急放送のブザーだ、一瞬でザワザワしていた待機室が静寂に包まれる。
《ーー敵戦闘機離陸情報、ロム油田地域に空襲警報発令、戦闘機隊は直ちに出撃、作戦は上空で達するーー》
平和だと思った矢先にこれだ。
「リズ、行くぞ」
「うん!」
あんだけギクシャクしてたのはなんだったのか、走るカリムの後ろをリズさんが追い。
「さて、間に合うかなぁ」
「間に合わせるんでしょ」
「急ぎますよ」
足も遅いし距離的にやや遠い、現実を見ているツルギに任務を全うしようとする水咲さんと啓さん。
「私達も行こうか」
「行くわよ」
ルイさんとロロウは先に駆け出し。
「行きますよ藍さん、ほら!」
なんだか落ち込んでる藍さんの手を握り、勢いよく引き上げる。
「う、うん!」
ちょっとは笑ってくれたかな?理由は別としてギクシャクしたまま飛ぶのはごめんだからね。
〇
パレン基地より北東の上空。
戦闘にスパイダー隊、右翼にブルー隊、左翼にアルフレート隊の編隊飛行中。
パレン基地を離陸、上空で訓練をしていたレッドクロー隊は燃料補給のために一旦基地に戻っていった、空中給油機飛ばすよりも離陸した方が早いと判断したためで、給油が終了次第出撃する予定。
《ーーAWACSより戦闘機隊、状況を説明するーー》
珍しくAWACSが飛んでいたのか、だから敵機を探知できたのかな?まあ、それはいいとして、状況というのは。
敵戦闘機九機が敵飛行場を離陸、低速にてロム油田方向に進出中であるとのこと、作戦については敵戦闘機の撃退、巡回中の防空駆逐艦も二隻が近海に存在しているし、内容については難しくは無い。しかし、問題はどの部隊かだ、さすがにまだ識別はできていないようだが、シャルル隊とヴァジュラ隊は間違いなくいるだろう、残りの二機が気になるが。
こっちも九機だし数的同数、負ける訳には行かないし、少し粘ればレッドクロー隊も増援に来てくれる、絶対に負けない。
《フライトリーダー、スパイダー1より各機》
キリッとしたカリムの声、さっきまで女々しかったのが嘘のようなイケボだ。
《敵に前回同様傭兵がいた場合に備えて、シャルル隊はアルフレート隊、ヴァジュラ隊はブルー隊が対応する、俺たちスパイダー隊は状況に備える》
シャルル隊はボクらが足止め、あわよくば撃退撃墜し、ヴァジュラ隊はシャルル隊より連携が上手くないのでブルー隊にさっさと片付けてもらうという考えだろう、ボクでもそうする。
四対四、三対三、で理にかなってるし、何が来るか分からないがスパイダー隊が二機を相手するのは普通だろう。
《万が一知らない部隊だった場合は、ブルー隊が切り込め》
《また俺かよ》
ツルギの不満もわかるけど、頼める人が貴方しかいません。
《各機了解か?》
不満は聞かないと言わんばかりにカリムはツルギの声を遮り、各機了解してロム油田空域に急ぐ。
数分後、ロム油田をレーダー探知した時。
《ーーAWACSより戦闘機隊、敵電波探知機、F-15アクティブ四機、Su-37三機、不定機二機の編隊ーー》
やはり二機は不明か、他は案の定シャルル隊とヴァジュラ隊でいいような悪いような。しかし、三度目の正直だ、今回こそ負かしてやる。
距離的には相手の方が早く空域に着くな、スパイダー隊を先行させたところで意味は無いし、みんな揃っていこう。
《じゃ、また後でね》
《ちょ!スカイレイン!?》
みんなで行こうと思った矢先、ロロウの斜め後ろを飛んでいたスカイレインことルイさんが、バンクして急旋回、あっという間に消えてしまった。前回もそうだけど、考えがあるなら言って欲しいし、普通に規律違反だ治外法権なのかな?。
《帰ったらちゃんと叱っとけよ》
《シューレ、ウィルコ》
カリムに怒られるのボクなんだから困る困る。
《追わなくていいの?》
藍さんに心配されるが、前回でボクは学習している。
《スカイレインはボクより強いし、ステルス性が高い、いない方がいいと思います》
《そっか!》
なんで嬉しそうなんだか、ボク的には残ってロロウのカバーをして欲しいんだけどね。自由人だし空では神出鬼没、ボクがカバー出来る事なんて限られる。
《ーーお喋りはおしまいだ、ロム油田防御指揮所と繋げるーー》
AWACS経由よりロム油田の指揮官から直接要望をあげてくれた方がいい、油田の対空レーダーも近距離ならかなり高性能な物だし、対空ミサイルもゴテゴテに装備している。
《ーーこちらロム油田防空指揮所、直掩機はまだか?ーー》
かなり切羽詰ったおじさんの声、防衛担当の軍人の声だろう。
《こちらパレン空軍基地所属スパイダー隊、三分待て》
これでもかなり急いでいる、でも、向こうからしたら三分なんてとんでもなく長く感じるんだろうな。
《ーー三分か⋯⋯。対空戦闘、無人機を射出しろ!時間稼ぎにはなるだろうーー》
ほ?こっちの国無人機持ってたの?まあ、今のご時世無人機ぐらいあるか、ローレニアのパチモンとかだろう、正しく時間稼ぎにしかならないと思うけど、ボクたちが到着するまで持ってくれたらいい。
三分後。
《始まってんな》
油田からミサイルが発射され、敵戦闘機が発射したのだろう飛来するミサイルを迎撃し、黒い花火が所々で花開いている。敵はこの油田を破壊するつもりなのか?
《交戦規定の確認だ。1、ロム油田の防衛。2、敵の排除。3、死ぬなよ》
カリムが普段言わないことを言って場の空気が引き締まる、これは絶対にフラグじゃない、フラグになんてしない。
《スパイダー隊、交戦》
先頭のスパイダー隊が左右に散開。
《ブルー隊、交戦》
ブルー隊はツルギ、水咲さん啓さんの2チームに別れて散開。
《アルフレート隊、交戦します》
ボクらは無駄にかっこよくクルクルとロールし、三人一緒に一旦上昇した。
〇
〈今日こそ蹴りをつける〉
敵の混線、この声はシャルル隊の隊長だろう、敵も今日ここでライバル関係を終わらせたい様子だ、負ける訳には行かない。
《不明機二機の識別を急げ》
そうだった、カリムの言う通りシャルル隊、ヴァジュラ隊の他に二機の戦闘機がいるはず、レーダーにはヴァジュラ隊の後方に二機写っているが機種が分からない。
《えっと、F-15ですね》
カメラに写ったのはF-15だが、F-15のようでは無い、若干レイ達が乗っていたF-15Cとは違うような気がする。
《あー、イーグルⅡだな》
気がついたのはツルギ、イーグルⅡとはF-15EXの事か、最新機種じゃねぇか!ライトニングⅡより新しいぞ!?
《オメテオトル隊か、なんでこいつもナバジギスタンについてやがる》
オメテオトル隊、確か事前情報ではジキジギスタン所属のはず、傭兵だから転属したとは思うけど、なんでこんなにエース級の傭兵がナバジギスタンに集まってるのやら。
ツルギの首目当てか?賞金過ごそうだもんな。
《スパイダー隊はオメテオトル隊につく》
《スパイダー2、ウィルコ》
各機体勢が決まって自分の目標を狙う。
相手もエースだが何度も戦っている、打開策はあるはずだ。今回は油田からの援護射撃もある。
だが、この前のようにSu-47の無人機、ランスロットの亡霊は注意しないといけない。あれが一機しかないとは考えにくい。
とまあ、周辺観察はこのくらいにしてと。ツルギがシャルル隊と接敵しドッグファイトが始まり、ボクたちも迎撃を始める。
《散開、自由戦闘》
《ラズリ、ウィルコ》
《レシル、ウィルコ》
レシルはボクから離れ周囲を伺い臨機応変に、自由と言いつつもラズリはボクから少し離れいつでもカバー出来る体勢を整え、ボクは敵機の中へ突っ込む。ヘッドオンのまま突き進み、双方機関銃による威嚇射撃をすることなくF-15アクティブとF-35ライトニングⅡは背面で交差、キャノピー越しにこっちを睨んできた気もするが気のせいだろう、お互いにループし敵一番機の後ろを取るように旋回する。
シャルル隊とは何度も戦っている、今日倒さずいつ倒すというのか。
身勝手秘密兵器のルイさんもどこかに隠れているし。
《数的不利はキツイですね》
《あの泥棒猫どこいったのよっ》
《藍ちゃん酷いわね》
会話できるほど余裕はまだあるが、やっぱり三対四はできることが限られる、ミサイルアラートが鳴っても、すぐにラズリがフレアを使って交わしてくれるが長くは持たない。
〈流れ星に警戒しろ〉
そうなるよね、三機がボクたちについて一機がカバーをしつつ周囲を警戒、戦術が完璧で羨ましい。別に藍さんは藍さんで頑張っているから、不満には思ってないけどね。ロロウも周囲の警戒は得意だし、決定打に欠けるけど、いや、ボクも人の事言えないわ。
使えるものは使わないと勝てない。
大きく敵機を引きつけるように旋回し急降下、油田に向かって進路をとる。
ついてくるかは怪しいが賭けるしかない。
戦闘機部隊はボクらを呼ぶために油田を攻撃していたはず、だからボクたちが空域に到着したらボクらに付きっきりだ、それを逆手にとって。
《追われてるのに低空飛行はやばいよ!》
そんなの分かってる、機首を上げた瞬間蜂の巣だ。でも、藍さんがそんな注意ができるようになったのは正直嬉しくて涙出そう。いや、そんなにアホの子じゃないか。
《ついてきてください!》
《もうっ》
ロロウは巧みに敵を翻弄するように最後尾飛んでくれてるし、フレアは持つだろう、藍さんも必死で口数が少なくなっているがまだ大丈夫。
完全に補足されないようにジグザグと飛びながら、ロム油田の石油リグに手が届きそうな距離になった時。
《上昇!》
石油リグを背に敵の射線を切りつつ斜めに急上昇、リグから発射された対空ミサイルはフレアで躱されるが。
《警戒しても警戒しきれない、それが神出鬼没のスカイレイン》
何カッコつけてるんだか、待ってたんだけどさ。
リグのクソ狭い橋脚部からスカイレインが超高速で飛び出してきて、追い抜きざまに先程対空ミサイルを躱すためにフレアを放った敵機を撃墜。それに動揺したのだろう、動きが若干鈍くなった敵を逃さない。
フラップを展開し急減速、そのまま機種を上げて更に失速、機首を一回転させてクルビットのように反対を向くと目の前には丁度敵機が。
《フォックス2》
ババーーン!!
ミサイルを2発発射、続けざまに敵機に命中し破片が至近距離を掠め、破片が通り過ぎたと思うとスカイレインが猛スピードで上昇しで過ぎ去って行った。
失速した機体を立て直すために急降下、藍さんはそのまま上昇しスカイレインの後方に着く。ロロウはボクがマニューバをしている間に、スライスターンでもしたのか、いつの間にか敵機の背後につき、ミサイルを発射。
バーーン!
直撃はしなかったようだが、敵機は大破、ベイルアウトしてパラシュートが宙を漂っていた。
《私だってっ!》
必死になるのもわかるが、ボクはたまたま、ロロウは元赤翼、ルイさんはシロお兄ちゃんのエレメント、力量が違いすぎる。
あれはマズイと旋回してカバーに回ろうとするが、ルイさんの方が近かった。
一矢報いてやろうと敵の放ったミサイルは、藍さんを庇うように覆いかぶさったスカイレインのAPSにより迎撃され、意味不明な機動をしたと思うと敵機は撃墜されていた。
赤外線カメラで見ていたけど理不尽機動すぎる、さすがシロお兄ちゃんの二番機だ。
ていうか崩れると一瞬だな、ルイさんが強すぎるだけか?たまたまでも怖いな。
その後、レッドクロー隊が到着する前にブルー隊も敵を二機撃墜、スパイダー隊はさすがに機体性能が違いすぎて手こずっていたが、ボクたちがカバーにくると敵は退散、ヴァジュラ隊の残った一機もしっぽを巻いて逃げてしまった。
しかし、これは大戦果だ、思わず口元が緩んでしまう。
〇
パレン空軍基地。
駐機場に機体を駐め、ルンルン気分でコックピットを降りる。
「お疲れ様でした」
とにかく今日も頑張っていた藍さんを労うも、頬を膨らませている。まあ、思うような戦果がなかったもんね、でも十分だと思うよ?生きて帰ってきたんだしさ。
すると、藍さんは機体から降りてきたルイさんに駆け寄ると。
「ありがとっ」
なんか不機嫌気味にそう言うと、ボクの背中に駆け寄ってきて隠れてしまった。
藍さんがルイさんにお礼言ってるーーー!!
確かにルイさんいなかったちょっとやばかったけど、あの藍さんが!
「ずっとそのぐらい仲良くしてくれません?」
ずっとバチバチしてるから、お礼を言える仲ならそうしてもらった方がありがたいのですが?
「いや」
なんで。
それを聞いてルイさんも笑ってるし。
いやー、どうしよ。と苦笑いしていると啓さんが近寄ってきてボクの耳元に顔を近づけると、違う意味でドキッとしていると一言。
「藍が危険な目にあうようなら次は容赦しません」
みぞおちを拳でトンッと突かれる。
「は、はい。すみませんでした・・・・・・」
い、生きた心地がしなかった・・・・・・、冷や汗ダラダラだ。ボクの焦った様子に啓さんは下手くそにニコッと笑うとツルギの元へ駆け寄っていく、怖いってもんじゃないよ!
「どうした?」
「剣くんの弟が不甲斐ないので忠告です」
「忠告?へぼっ!?」
「弟を殴るのは気が引けるので、今回は剣くんで我慢します」
「なんでぇ・・・・・・」
ごめんなさい、ツルギお兄ちゃん。しかし、その忠告はごもっとも、隊長なんだからボクだけが変な動きしちゃダメだ、藍さんもせっかく後ろにいたんだから着いてこれるようにしないと。でも、ちゃんと追いやすいルイさんに着いて行ってたんだから状況判断的には正解でよかった。
でもさ、ツルギも相当ヤバい動きしてたよ?それについていける二人はどんだけやばいの?って話しだ。
「今回も微妙だったなー」
「オメテオトル隊に互角以上だったんだからいいじゃん」
「そうだけどよ、もっとカッコよくだな」
「なになに?ソラくんにいいとこ見せたいの?」
「んなんじゃねーよ!」
カリムは自分の戦果に不満そうだが、敵を一機撃墜しているだ、異常に凄いツルギたちは別として、今回のボクたちは運が良かっただけ、カリムたちスパイダー隊も誇っていいと思う。
「ロロウもナイスカバーでした」
ルイさんの後ろを歩いていたロロウも労う、さすが赤翼と言うべきだろう、何も言わなくてもいろいろやってくれるし実に頼もしい。
「あんなの当然ーーっ!?」
ドサ・・・・・・。
何が起こったのか分からなかった、何かが風を切るような音がしたと思うと、彼女は言葉を発せなくなりそのままうつ伏せに倒れてしまった。
「ロロウ!!」
じわじわと地面に広がる血溜まり、ボクは一瞬で状況を理解すると共に、倒れたロロウに駆け寄った。




