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第54話 色仕掛け

「それってどういう⋯⋯」


思わず聞いてしまっていた、ツルギがいるからなんだと言うのか。


「ん?あ、聞いちゃってた?大丈夫大丈夫、そんな深い意味じゃないから」


あからさまに目を泳がせて誤魔化してる、気にはなるがこれ以上深堀するのは悪手だ、どうしたらいい、考えろボク。


「やっぱり私が殺しといた方が良かった?」


「ルイさんっ」


「冗談冗談♡」


冗談に聞こえないんだよ、語尾にハートを付ければいいってもんじゃない。彼女は、悪いことをしたのを隠すようにニヤニヤ笑ってボクの額を人差し指でちょんと押す。


「じゃ、荷物置きに部屋に行ってくるね、リズワンさんだっけ?案内してくれる?」


「リズでいいよー、着いてきてー」


逃げるようにでは無いが、サーと行ってしまった。


まさにお通夜、ルイさん以外誰も喋ろうとしない。


あーもうっ!


「ちょっとソラ!」


こんなの耐えられない、藍さんに引っ張られるも、それを振り解きボクは立ち上がってリルスさんを追いかける。


「確認したいことがあるので」


誰かがボクを止める前に待機室から出て、リルスさんの後を追いかけた。



「リルスさん!」


「ん?えーと、イナミ中尉だっけ?どうしたの?」


もう覚えてくてれてるのは意外だったが、小走りだったけど息も上がってないので、すぐに聞く。


「呼び捨てでいいです、その、聞きたいことが」


「わかった、何かな?」


特に拒絶することなく首を傾げてくれる。


「ツルギがここにいるって知ってました?」


「知ってたら、なに?」


さすがと言うかなんというか、シール王女の二番機ということは赤翼だったのだろう、そんな簡単に教えてくれないか。


しかし、その返事は予想してなかった、感情にならない感情を殺して次はなんて言うべきなのか考える。


ボクはツルギにもうどこへも行って欲しくない、だから。


「ツルギを、ツルギを厄介事に巻き込まないでください⋯⋯」


複雑な感情が込み上げてきて、内頬を奥歯で噛み締める。こんなところでは泣いてられない、まだリルスさんがどんな人か分かってない、十分変だけどこれ以上変なところを見せる訳にはいかないんだ、落ち着け落ち着け。


「⋯⋯」


しばらくの沈黙の後。


「ツルギがここにいるのは知らなかったよ。でも、君の言う厄介事に乗るかどうかは彼が決めること。私も隊長が無鉄砲な人だったから大変だった⋯⋯」


今にも泣きそうなボクの肩をポンポンと叩く。


「だから君の言いたいこともわかる」


「じゃあーーっ!」


ボクが言い切る前に、リルスさんは続ける。


「君も知ってるでしょ、彼は王子なの。歴史上からは消えてるけどね」


ああ、そういう事か。


ボクにはどうすることも出来ないな。


本当にツルギ次第だ。


「わかってくれたかな?」


「⋯⋯はい」


「じゃ、また後で」


軽く手を振り行ってしまった。


「あ、あそこまで言って、良かったんです?」


「もう少し誤魔化しても良かったんじゃ?」


「いいの」


「私聞いても良かったのかな⋯⋯」


どうにかしようにもどうしようも出来ない無力感に襲われ、彼女たちが行ってしまった廊下で立ち尽くしていると。


「あ!ソラさん!」


んー、なんというタイミング。


頬をパンパンと叩いて顔を上げると、階段から降りてきた陸軍の制服姿のサガリさんと目が合った、この人どこにでもいるな、怖くなってきた。


「どうしてここに?」


「幹部室に書類を届けた帰りで、ソラさんの声が聞こえたので来てみたんです!」


それならまあ、怪しくないか、毎度毎度タイミングがいいのか悪いのか。


「一人ですか?どうしたんですか?顔色悪いですよ?」


小柄な体を近づけて下からボクの顔を覗き込んでくる、それにめちゃ聞いてくる、だから近いって!制服の下の小さな膨らみがボクの身体に当たりそうだ。


「いえ、ちょっと考え事を」


耳元をポリポリと掻いて視線を逸らすも、柔らかくて藍さんより小さな手でパッと手を握られる。


「手汗すごいですよ?本当に大丈夫ですか?」


なにしてんの!ダメでしょ!


「汚いですよ!」


慌てて手を振りほどいて、自分のズボンでゴシゴシと手を拭く。


「ソラさんなら全然平気です!」


もー、なんなのさ。ニコニコが眩しすぎて見てられないし、スキンシップが多すぎる!藍さんでもそんなに触ってこないよ?


ううう、と首を震わせて反応に困っていると。


「悩み事なら聴きますよ?」


いやでもサガリさんもなんか悩みがって言ってたしな、悩みがある人に悩みを相談するほど酷い奴じゃないし、悩み相談をする相手なら他にたくさんいる。


「大丈夫ですよ、エレメントもいますんで」


ハハハ、と苦笑いしながら当たり障りのないように断ると。


「迷惑でした?」


スンッとサガリさんの目が暗くなった。


「え、いや、その」


この空気にボクはめっぽう弱い。


「私のこと、嫌いですか?いない方がいいですか?」


彼女は更に近づいてきてボクの右手を再び握る、状況的に今振りほどくようなことはしない、これ以上関係が悪化したら面倒な気がする。しかし、藍さんとは違う感じでなんだか背筋が凍るようだ。


ヤンデレってやつか??


「き、嫌いじゃないですよ」


言わされた感が凄いが嫌いなんてこの状況では絶対言えない、言った後のことが想像できない。いや、でも言った方が良かったのかもしれない、これからもこんなこんな関係が続くのはいろいろ問題が付きまといそうだが、ボクの頭がそれはダメだと言っている。


「だったら、もっと好きになってもらいます」


そう言うと彼女は、ボクの右手を自分の左胸に押し当てる。


えぇ!?


ルイさんよりは全然小さいが、確かにある胸の膨らみ。


「私はこんなにドキドキしてるのに⋯⋯」


確かにドキドキしているが、これが自分の鼓動なのかサガリさんの鼓動なのか全く分からない、早く離さないとと頭では思っているのに全く身体が動かない。


「ソラさんは違うんですか?」


光は無いがどこが綺麗な深緑の瞳に、吸い込まれそうになった。


その時。


「おお、こんなところにいた⋯⋯、何してんだ?」


バッとサガリさんは自分の胸からボクの手を離し、若干ボクの影に隠れる。


「ツルギ、どうしたんですか?」


どうやらツルギが追いかけくれていたみたいだ、いろいろ危ない所だった。


「どうしたもこうしたもねぇよ、一人でうろつくなって言ったろーが」


あ、そういえばそうだった。


「すみません、後先考えず行動しちゃって、ボクの悪い癖ですね」


ハハハー。まあ、これについては本当に治さないとなとは思っている。


「わかってんなら治せよ、後ろの人は?」


サガリさんに気づいちゃった、隠すつもりは無いが何故か知られたくなかったけど。


「えっと、サガリさんって言います、ちょっと前に知り合って」


「サガリです」


なんか尋問されてるみたいで挙動不審になりそう、何にも悪いことはして⋯⋯したわ。ボクのバカ!なに不可抗力とはいえ人の胸触ってんのさ!しかもカリムの方が大きかったぞ!どういうことだ!


バカバカ!


一方の彼女は今まで何もしていなかったのように、ペコリとツルギに挨拶している。んー、切り替えが早い。


「陸軍が何故ここに」


めっちゃ怪しんでる。


それに何故かボクがフォローをしてしまう、自分で説明してもらった方が早いしわかりやすいのに。


「上の幹部事務所に書類を届けに来たみたいで、時々ここに来てますよ?」


「ほーん、なるほどね」


すごい懐疑的な目で見られるが嘘は言ってない、あーもう、なんでボクがこんな目に!


「ササイ・ツルギさんですね!いつもご活躍は聞いています!」


「なんで知ってんの!?」


更に懐疑的ななり後ずさりするツルギ、リアクションがオーバーだよ。


「サガリさん補給の人だから」


「あ、なるほど」


一応それで納得してくれるのね。


「眼帯を付けたエースパイロットはササイさんぐらいですから!」


この子よいしょするの上手いな、ツルギも満更ではなさそうに頭を掻いて照れている、珍しい。


「まあ、いいや、帰るぞ」


「え、あ、はい」


ツルギに手を捕まれ連行されていく。


「それではまた!」


さっきまで凍りつくように怖かったのが嘘のように、サガリさんはニコッと笑って手を振ってくる。ボクはそれに、とりあえず手を振り返した。



「チッ」



ん?


なんか音がしたかな、と振り返るとサガリさんの姿は既に無かった。

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