第48話 信頼
「なんで俺も!?」
ルイさんは警衛に連行され、ついでにツルギたちも未申請の拳銃所持で連れていかれた。まあ、流石に注意ぐらいで済むだろう、彼らも状況が状況だし。しかし、詰めが甘いなぁもう。
「私は、どうするの⋯⋯?」
ふーっと一段落していると、ボクの後ろでシュンとしているロロウがそう呟く。ボクは、うーんと少し唸りながら考える。
「何も、しません」
さっきも言ったが変に拘束はできないし、遠ざける訳にもいかない、ボクは彼女に死んで欲しくないし、彼女はボクを守ってくれると言っている。
ボクはそれを信じる。
甘いと言われてもいい、期間はまだ短いが一緒に生活した仲だから。
「ソラに何かしたら私がとっちめる!」
藍さんもニコニコしながら、シュンと元気の無いロロウの肩を叩く。意外と優しい、のかな?
「⋯⋯」
その言葉に、ロロウは返事をするでもなく俯いたまま。
大丈夫だろうと思いたい、あの段階でヒナにバレてたら口止めとして狙撃されても何らおかしくないしね。
はたまたそれも承知の上で泳がせているのか、よく分からない奴だ。
「ここにいてもなんですので、待機室に戻りますか」
「お、おう、そうだな」
やっと会話に入れるようになったカリム、状況説明が面倒だなぁ。ホントのことを素直に話せばいいか、信じるかどうかは別として。
そして、カリムを先頭に、足の重いロロウの手を藍さんがグイグイ引きながら待機室へと戻った。
●
その日の夕方。
尋問室とか隔離部屋とかそういうのはなかったので、外から鍵がかけれるちょっとした倉庫の荷物を出し、ベッドを入れ、そこにルイさんは隔離されていた、特に拘束とかはされていない。
そこにボクは司令にこっぴどく怒られたであろうツルギと啓さんの三人で来て、二人には見張りの警衛と外で待ってもらってボクだけ中に入り、聴取という名の面会に来ていた。
ロロウは藍さんにとりあえずは任せてある、水咲さん達もいるし大丈夫だろう、皆がみんな一緒に来れないし、心配だからと常に一緒にいるわけにもいかない。何かあれば連絡が来るようにしている。
「それで、ここに来てどうするんですか?」
「どうって⋯⋯」
小さな机を間に置いてパイプ椅子に座り、やや俯くルイさん、いや困られてもボクも困るんですけど⋯。
「あいつは?隻眼のやつ」
「え?外に居ますけど、呼びます?」
ボクの質問に先に答えて欲しかったが、何か用でもあるのか話がしたいようで、うん、と頷く。
「殴っちゃダメですよ」
「もう殴んないよ」
そうなの?あんなに殺したがってたのに?まあいいや、丸腰だしなにかしてもすぐ止めればいいし、この状態で暴れたりはしないだろう。ボクは彼を呼んで、ボクの隣にパイプ椅子を置き座ってもらう。
「⋯⋯?」
何を言うでもなく首を傾げるツルギ、それで正解だと思う。
「なんで、片目がないの?」
何かと思えばそれを聞くために?さすがにその情報は仕入れられなかったのか。
「ん?あーこれ?」
話せば少し長くなる。
「昔、グレイニアで傭兵してた時、あの時は確かバルセル空軍と戦闘してたんだったかな。お前が俺を撃った時にお前に銃を向けてた啓ってやつがさ、ヘマして被弾しそうになったんだ。それを庇って俺が被弾して、割れたキャノピーが左目に刺さった。それだけの事さ」
俯きつつも黙ってツルギの目を見て聞いていたルイさん、彼の方は恥ずかしいのか頬を掻きながら説明したいたけど、聞けば聞くほどやばい人だ、よく生きてたな。
「まあなんだ、一つ言いたいのは、お前が俺を殺そうと思ってるのはわかる、殺したいなら殺してくれ」
おっと、ルイさんの目の色が変わった、ボクはいつでも動けるように足を踏み込む。
「何よ!殺したいなら殺してくれって!生きたくても生きられない人がいたのに!」
完全に頭に血が登りツルギの胸ぐらを掴むルイさん、ボクは止めようとしたが、ツルギに静止された。いよいよやばくなるまではそっとしておこう。
「だが」
構わず続けるツルギ。
「俺にも大切な人がたくさんいる、だから抗う。その結果がこれだ、すまないと思ってる」
照れくさがっていたツルギは、今度はちゃんとルイさんの目を見て訴える。守りたい人を守るために敵を殺し、その敵討ちにと命を狙われ、返り討ちにし、その繰り返し。そう考えると嫌だな。
するとルイさんは彼の胸ぐらを離し、ペタっと椅子に座る。ツルギの言いたいことってこれだったのかな、死神と恐れられていた彼もそれなりに苦悩していた、簡単に言えばそう言いたかったのだろうか。
「なにが死神よ⋯⋯、ただの人間じゃない⋯⋯」
ついには泣き出してしまったルイさん、ボクは慌てて立ち上がり彼女の背中をさすってあげる。
仲間からしたら頼もしいが、敵からしたら悪魔でしかないイエローラインこと、ブルー隊。自分にヘイトがどんどん溜まってくのも辛いよな。
するとルイさんは、服の袖で目元をゴシゴシと拭いたと思うと、またツルギを真っ直ぐと見る。
「もう貴方は狙わない、約束する」
「さんざん殴ったから?」
ギュッと拳を握るルイさん、だから大事な場面でふざけるなっての。
「ウソ!冗談!」
場を和ませようとしてるのか?毎回逆効果だけどね。
「私の本当の仇は他にいる、先ずはそいつ」
ヒナの事だろう、シロお兄ちゃんこと旦那さんを殺されてるからね。見つかるかどうかも分からない敵を探すより、常に空にいるツルギを探し仲間の敵討ち、そうしたかったがそれが出来ないことがわかって、本来の目的に戻すのだろうか。
「あー、ヒナ?あいつマジでヤバイからなー。せっかくだ、何か手伝えることがあれば言ってくれ」
つい最近まで命を狙われていたのに、そんなのお構い無しに協力とは、ツルギの肝もだいぶ座ってるな。欺いて近づこうとしてるとは思わないもんなのか。あっ、そういえばこの人は転生のお人好しだった。
「ボクも協力します!」
シロお兄ちゃんの奥さんだ、流石に何もしない訳には行かないし、彼女がこうなってしまったのもボクに責任がある。せめてもの罪滅ぼしだ。
「そう?ありがとう」
藍さんとはまた違ったにこやかな顔、一見キツそうな雰囲気だからギャップがすごいし、普通にかわいい。じゃなくて!
「しばらくアルフレート隊の四番機になるわ」
「は?」
「え?」
彼女の言葉を理解するのに、五秒ぐらいかかってしまった。
●
翌日、7月2日の朝。
待機室。
「ねー、そこ私の定位置なんだけど?」
朝からバチバチしてらっしゃる!
ルイさんはボクが司令を説得し仮釈放、何か問題を起こしたらそれなりの罰を与えると言われて少しビビったが、ルイさんから絶対に問題は起こさないとあったので信頼することにした。
そして、なんだかんだあってボクの四番機になることになったのだが。夜に先輩方にその説明をしても何故か藍さんは不貞腐れるし、ロロウも何か嫌そうに頬をピクピクさせていた気がする。
お願い仲良くして!
「席なら他にも空いてるじゃん」
仲良くしてください!
確かにパイロットの人数に対して、待機室の椅子の数は多いけどさ、ボクの隣は藍さんの定位置でして、ナワバリってモノがボクの隊にはありましてですね!?ロロウも一つ席を開けて隣にいるでしょ?一応あそこが定位置なの!
「定位置って言ってるでしょ!」
「まあまあ、藍さんそんなに怒らないで」
新人いじめは止めて、ただのお局になっちゃうよ、それにルイさん一応年上です!
「ソラはどっちの味方なのよ!」
「えー!!」
どっちもですなんて言ったら殺されかねないし、迷っても殺されかねない、ああ、ボクの人生これで終わりか、藍さんですって言ってもルイさんに泣かれかねないし。
詰みってやつですね。
「うっせーな、痴話喧嘩なら外でしろ、外で!」
神様仏様カリム様!毎度毎度いいタイミングで助けてくれてありがとうございます!両手を頭の後ろで組んで気だるそうにしているが、なんだかんだ優しい彼女、感謝してます。
「やっぱりソラのことーー」
「違うっつってるだろ!そろそろ殴んぞ!」
「暴力はんたーい」
相変わらずだな。
カリムに注意され、藍さんはぷくーと頬をふくらませるも観念したのかロロウとボクの間に座る、初めからそうしてくれるとありがたいのだけど、何故か右側に座りたがるんだよね。
「ねぇ、ソラくん」
「はい?」
何だ何だ?ルイさん、みんながいる所で変な爆弾発言しないでくださいよ?
「手紙ってまだ持ってくれてる?」
手紙?ああ、あの時ボクが寝てる間にシレッと帰ってた時の置き手紙かな?一応大事に財布に挟んである。確かルイさんのらしい電話番号だと思ったけど、なんだか怖くて連絡していないから本当にそうかは分からない。
「ありますよ?」
「そう!ありがとう!」
チュッ。
「へ!?」
何故か首に両手を回され頬にキスされた、なんで!?そんな要素あった!?
「んな!な、何してんのよ!朝から!」
藍さんの怒号を無視してルイさんは続ける。
「まだ持っててね」
「え、あ、はい」
ニッコリとウインクされる、いやー、可愛すぎでしょ。藍さんもロロウも可愛いけど、色気が違いすぎる。
「何照れるのよっ!」
一瞬でも頬を赤くしたのが即バレ、藍さんに両肩を捕まれブンブンと前後に振られる、脳みそがぁ!
「うるさいつってるだろーうがよ!」
「はうっ!」
さすがにブチ切れてしまったカリム、振り向きざまに藍さんがゲンコツをお見舞いされてしまい、涙目になって頭を摩っている。結構普通に殴られていた、大丈夫かな?
「カリム、暴力はいけませんって」
「うるさいのが悪いんだ、部屋でうるさいのはとやかく言わんが待機室ぐらい静かにしろ。お前も隊長だろうがよ」
ごもっともなことを言われ、彼女にプイッとそっぽを向かれてしまった。うーん、反省。
「藍さん大丈夫ですか?カリム怒っちゃったじゃないですか」
気を取り直して、痛そうな頭をボクもさすってあげるが。
「ふんっ!そもそもなんであんな奴が私の許可もなく四番機なのよ⋯⋯」
撫でた手を振り払われ、彼女にもそっぽを向かれてしまい、結構な文句をブツブツ言っている。朝から面倒だなおい。
「喧嘩するほど仲がいいってか?」
また変な時にふざける、ツルギがそう言った途端、カリムと藍さんはものすごい形相で、部屋の後ろにいる彼を睨みつけ。
「ウソ、冗談!」
いつものように逃げていた。




