第45話 警戒態勢
7月1日。
本当かどうかは知らないが、陸軍によりパレン基地の安全が確認され、ボクたちはカノープル基地から帰路に着いていた。
念の為と、いつか作戦を共にしたことがあるカノープル基地航空隊のルーク隊の護衛付きだったが、先程別れて基地はもう目前だ。
ルーク隊の人には、カノープルでめちゃくちゃいじられた。あの時撃墜された人もベイルアウトして全員無事だったみたいだし尚更だ。それにF-14は複座機、3人のところが6人いるので倍だ。
「ブルーローズがこんな若造だったとはな!」
「こんな新米に派遣任務とはエルゲートも余裕ないのか?」
「現場で覚えろ的な?」
「スパルタだな」
「こっちも舐められたもんだ」
「生きてるだけ御の字か」
などなどとそりゃもう酷い言われようで、ボクはひたすら愛想笑いしていたけどエレメントの2人はボクの背後で頬を膨らませていた。
ロロウはルーク隊と戦闘を共にした時は、まだこの隊にいなかったから、なんでこんなにいじられてるのかよく分からなかっただろうけどね。説明するのもなんか、面倒だったし!
《 カノープルも悪くない基地だったな》
そう言うのはカリム。まあ、貴女はレバノバジギスタン人ですし、よそ者のボクに比べれば居心地はいいでしょうよ。
《 やな奴ばっか》
ご機嫌ななめな藍さん、彼女過保護なんだよなー、こんな人だったっけな?と今更ながら思う。
《まあまあ、話しかけてくれるだけマシですよ》
だいぶ弄られたけど。
《なんだ?当て付けか?》
そいやカリムには会ったばかりの時、無視とまではいかないけど全く話して貰えなかったっけな。こっちも今思えばなんであんなだったのやら。
《そんなこともありましたね》
笑って誤魔化しといた。
《やっぱりカリムってーー》
《違うっつってるだろ》
もうカリムとリズさんとのこの絡みも当たり前になってきたな。
《ーーこちらパレン管制塔、全部聞こえてるぞーー》
やっべ、和気あいあいとしすぎた。まあでも、この基地は多少私語をしてもそこまで怒られない。だがもうすぐ基地だ、何があるか分からない、気を引き締めて着陸しよう。
《ーー着陸後、パイロットは待機室に集合するように。カリム大尉は司令室へーー》
状況報告とかかな、一回部屋に戻って鬼のように溜まってるだろうスマホの通知を確認したいがいたし方ない、少しの辛抱だ。
それにレイル中将が無事ってことは、そこまで大した戦闘にはならなかったのか?
今ボクが考えても仕方ないか、カリムに任せよう。
そして基地上空、スパイダー隊、アルフレート隊、ブルー隊の順に無事に着陸し、駐機場に機体をとめて整備員に機体を任せ待機室に急いだ。
「はぁー、やっぱ家は落ち着くな!」
「家はここじゃないです」
「わかってるよっ!」
「例えだよね」
「家はあそこだけです」
「ごめんって!」
ツルギがいつもの席に座り適当なことを言いながら伸びていると、空気を読めないのか読んでないのか読む気がないのか啓さんがツッコミを入れて、水咲さんがフォローを入れる。いつ見ても微笑ましい光景だ。
ホント、ツルギはあの二人にはよわよわだよねぇ。
「どうかした?」
「あ、いえ、なんでもないですよ」
微笑んでいると、隣に座っている藍さんに気にかけられる。ボクも人のこと言えないけど!!自覚してるだけマシだと思ってください!!
「カリムまだかしらね?」
「そういえば遅いな〜」
リズさんとロロウはカリムの帰りを待つ、かれこれ30分?積もる話でもあるのかな?心配しなくても待ってりゃ帰ってくるでしょ。
「んー、ちょっと見てくるかな!」
啓さんに色々言われて居づらくなったのか、急にツルギが立ち上がって出口に向かう。だからそんなに気にしなくても⋯⋯。
待てよ⋯⋯、そう言えば潜伏した敵兵の攻撃に合ったんだよな⋯⋯。ボクとしたことが!!
「ぼ、ボクも!」
慌てて自分も立ち上がると、見計らったように待機室のドアが開き。
「待たせたな、キャッ!」
「どはっ!」
カリムが見事にツルギと鉢合わせぶつかってしまった。どこぞの蛇ばりの言い方だったけど、びっくりした時の声のギャップが凄くて、なんて言うか、ねぇ?
「ごめん!⋯⋯カリム、だよな?」
「んだよ!急に出てくんな!」
倒れたカリムにツルギは手を伸ばすが、怒り気味のカリムにその手は弾かれる。そりゃ、あんな汐らしい声出されると確認しちゃうよね。ボクでもするよ。
「??なんだ、啓、どうしっ!?」
なんでそうなるかなー、スタスタとツルギの元に歩み寄った啓さん。すると一閃、待機室に鈍い音が響くと力無く倒れたツルギは、啓さんに首根っこを捕まれ回収されて行った、水咲さんはやれやれといった様子。どさくさに紛れて胸でも触ったのかな?それはボクか!なんて。まあ、いつもの事だから気にするのはやめておこう。
「遅いから心配してたんだよ〜」
「ん?ああ、いろいろあってな」
リズさんがフォローを入れるが時すでに遅しだ。カリムは飛行服に着いたホコリを払いながら、待機室前の低い演台に立つ。
「で?なんの話しだった?」
シャキッと椅子に座ってるいるツルギ。回復早いな、慣れてんのかな?そりゃ、慣れるか、十何年あの調子だろうし。
「それについてだが、基地内の不審者、まあ敵兵については掃討済み。捕虜も2人逮捕し陸軍の警務隊で拘留中らしい。黙秘してるから本当のことは分からないが、恐らくナバジギスタンだろうって話だ」
ナバジギスタンと戦争してるからね、その他の国だったらそれはそれで問題だ。それよりも、掃討済みってのが怪しい、ボクが敵のスパイならまだ様子を伺って潜り込んでるよ。安心した今が狙い時かな?そんな安直じゃないか、敵もプロだろうし。
「だが、安心するのはまだ早い、今後同じことが起こりかねないからな。だから、ソラ!」
「はひっ!?」
変な声出ちゃった。
「お前、元スパイだろ、防いでくれよ」
あれれー?おかしいぞー?
「な、なんで知ってるんですか!?」
あまりに唐突なことに挙動不審になってしまう。ボクの素性、言ったっけ?ってこんな言い方したら認めたも同然じゃん!言い逃れ出来なくなった。
「あ?隣のヤツに聞いた」
隣?藍さん?
ギロっと睨むとテヘペロってしていた、何してんだよ。あなたには言ったけど一応秘密なんだよ、誰が聴いてるかもしれないし、ほとんど知ってるけどさ。
スパイならエリートのロロウもいるし、さらに上のツルギも居ます!なんて言えない。ロロウもなんか自然にボクの三番機になってるし、多分本人も隠したいだろうし、ツルギにもこれ以上迷惑はかけたくない。
「もー、分かりましたよ。ボクにも限度がありますからね」
拒否権ないだろうし、結局ボクが気にして自発的にするだろうしするつもりだったし。(忘れてたけど)
ここは素直に従おう。
「ああ、よろしく頼む。おっとリズ、開けた口を閉じろ」
「むー!」
ついにカリムは、リズさんが何か言うのを事前に止める術を会得したようだ。あのくだりが面白かったのに、リズさんは可愛らしく頬をふくらませている。
「それともう1つ、2日後にナバジギスタンの本土攻撃を行う予定だ、主任務については爆撃機の護衛。当日朝にブリーフィングを行う。以上、別れていいぞ」
実質報復かな、爆撃機の攻撃も受けたからね。爆撃は気が引けるが護衛なら気も紛れるか。スパイの時に何人も殺しといて何言ってんだと思われそうだが、敵と完全にわかってる人を単体で殺すことは抵抗は無い、爆撃は一般人とか紛れてないかと凄く心配になるから、余計なことを考えてしまう。ツルギを見習わないとな。
「この国って爆撃機あったっけ?」
ツルギがカリムに質問する、確かに爆撃機なんて大国しか持ってない気もするが。
「ああ、爆撃機と言ってもストライクイーグルだ。ビーストモードのお前らライトニングⅡの方が搭載量が多いのは知ってる、派遣部隊に敵本土の攻撃はどうかと思ってそうしてもらった」
「なるほど、意外と考えてるんだな」
「一応パイロットリーダーだからな」
ツルギの言うように、意外と隅々まで考えているカリム、伊達にボクらをまとめているリーダーじゃないな。
「他人の事考えるカリムなんて初めてかも」
しかし、不振な目で彼女のことを見るリズさん、何されてたんだか。
「俺も大人になったんだよっ」
「えー、おっそ」
「うっせーな!」
いやー、微笑ましい限りだ。自分で言って恥ずかしくなったのか頬を赤らめるカリム、ギャップ萌が半端ない。
「んだよソラ!人の顔ジロジロ見やがって!」
「なんでもないです!!いった!!」
そんなつもりは毛頭なかったんだけど、恥ずかしさを紛らわすためがボクをいじると、それに反応した藍さんに二の腕を抓られた。普通に痛い。
「終わりだ終わり!さっさと部屋に戻れ!」
半ば強引にお開きとなったのだが、まだ別れる訳には行かない。
「ソラ」
「はい」
ボクはツルギに呼ばれて、分かってると言わんばかりに返事を返す。
「俺と啓で俺とカリムの部屋を見る、お前は水咲さんと一緒に自分の部屋にいけ。水咲さん、ソラがいるから大丈夫だと思うけど、よろしくね」
「わかった」
ツルギの指示にカリムは目を点とさせ、水咲さんはにこやかに返事をし、訳が分からずキョロキョロする藍さん。
「さて、行くか、啓」
「さっさと終わらせましょう」
スタスタと先に待機室を出ていこうとするツルギと啓さん。
「行くぞ、カリム。一応女子の部屋だからな」
「一応ってなんだよ!一応って!って今から何するんだよ!」
「いいからいいから」
なかなかに酷いことを言ったがツルギはカリムの質問に答えることなく、四人で待機室を後にした。
「じゃ、私たちも行こっか」
太陽のように眩しい水咲さんの笑顔、いやー、いいなぁツルギ、めっちゃ癒される。
「ですね」
「行きましょう、ミサキさんは保険という感じかしら?」
「そう、かな、剣くん心配性だから。啓ちゃんは剣くんから離れたくないだろうしね、私も彼から色々教わってるし」
「そういうことですか」
「????」
一人理解してない気もするが、ロロウも理解してるようだし、ボクたちも部屋に戻るとするか。
「なになに、どういうこと?」
藍さんが頭の上に複数のクエスチョンマークを浮かべている。水咲さんはツルギに色々教えて貰ってるだろうし、ボクもロロウもスパイだし考えることは一緒、よく言えば藍さん純粋だから分からなくても仕方ないかな。
「ボクらの命を、いや、多分ボクが狙われているんで、ボクらがいない間に部屋に何か仕掛けられてる可能性があるのでそれを探します」
「んなっ!!」
一気に顔を白くする藍さん、んー、まあー、深刻っちゃ深刻だけどさ。
「ソラは私が守る⋯⋯」
真剣な顔をする彼女、ここは、そうだな。
「ありがとうございます、でも、守るのはボクの役目なんで」
女の子に守られるほどヤワな人間じゃないし、守るのはボクの役目だ。ちょっとカッコつけて言うと、藍さんは頬を赤らめている気がした。
「何カッコイイこと言ってるのよ」
「たまにはいいじゃないですか」
ロロウに弄られたけどたまにはいいでしょ、普段頼りないしね。そんな会話を見て水咲さんはフフフと笑っていた。
「行きましょう」
なんだかボクも恥ずかしくなったので、慌てないように周囲を警戒しつつ自分の部屋へと足を進めた。




