第44話 気分転換
カノープル空軍基地。
パレン空軍基地が正体不明の敵の攻撃を受け、そこから北東に位置するこのカノープル基地に命からがら逃げ込んで三日が経った。
パレンでは敵に逃げられ、現在捜索をしながら基地の安全確保を実施中、帰るにはもう暫くかかりそうだ。
敵のドローン攻撃により被弾した、シャリーフさんとザファーさんは命に別状は無いものの重症で早期の戦列復帰は不能、パレンの陸軍病院に入院中で手痛い戦力ダウンとなってしまった。
「あー、もしもし?ソラですけど・・・・・・」
そしてボクら着の身着のままこの基地に逃げてきたので、下着はもちろんスマホなんて持ってきてない、基地の衛星電話を借りて生存報告をリュウお姉ちゃんにしていた。成果はどうであれ空軍基地が攻撃されたんだ、国内外でも結構ニュースになってるみたいだったし、なんで連絡しないんだって怒鳴られたらどうしよう。
《ソラ!?あんたね!無事なら無事ってさっさと連絡しなさいよ!》
鼓膜が破れるんじゃないかと思った、眉間にシワをよせて思わず受話器から耳を遠ざけてしまう。
だからスマホがなかったんだって、連絡する暇もなかったしさ。なんて言ってもリュウお姉ちゃんには関係ないか。
「すみません、スマホを基地に置いてきてて、それになかなか連絡する許可が取れなくて」
許可なんて必要ないがそれっぽい嘘をついておく。でも、実際作戦に関わるしそんな簡単に連絡も取れない気もするけど。
《まったく・・・・・・、みんな無事なの?》
なんか呆れた感じに言われる。みんな無事では無いけど、ザファーさん達のことを言ってもお姉ちゃんには分からないだろう。
「えぇ、ボク達はみんな無事ですよ」
《そう、良かった》
ボク的にはいいのか分からないが、お姉ちゃんが良ければそれでいいだろう。
《結ちゃんにも伝えとくね》
「はい、よろしくお願いします」
自分で連絡した方がいいとは思うけど、ね。なかなか時間が取れないしお願いしておこう。
《自分で連絡しなさいよ》
もう、なんなんだよ、そんなの分かってるっての。
「時間が無いのでリュウお姉ちゃんからお願いします」
《はいはい、定期的に連絡とってるみたいだし、今回は連絡しといてあげる》
「へ?」
むむむ?結さん逐一お姉ちゃんに連絡があったの言ってるのか?それはなんて言うか恥ずかしいぞ?ちょっと冷や汗をかいたのを勘づかれたか、ボクの斜め後ろで壁にもたれて待っている藍さんと何故か目が合ってしまう。
《まあいいわ、ツルギくん達にもよろしく伝えといて》
「あ、はい、分かりました」
説教が続くと思ったが案外早く終わってしまった。
「では、落ち着いたらまた連絡します」
《気をつけてね》
「はい・・・・・・」
衛星電話を充電器にゆっくりと戻し、振り返ると後ろにいたツルギと目が合う。
「行くか」
「え、ああ、はい」
リュウお姉ちゃんのことは聞かないんだ、と若干拍子抜けするが、ツルギはそんなこと気にもしてないように待機室に向かって歩き始める。
「ツルギ?」
「ん?なに?」
ボクの問いかけに振り返ることなく、両手を後頭部で組んでゆっくり歩く彼。そんな彼にボクは構わず続ける。
「パレンでの奇襲、心当たりありますか?」
この前のドローンでの奇襲について聞いてみる、バタバタしてまだあの出来事についてしっかり話してなかったから。
「心当たりしかない」
「真面目に聞いてるんですよ」
「俺は真面目だ」
鼻で笑ったように言われたのでムッとして聞き直すと、今度は本当に真面目なトーンで返された。
「自分で言うのもなんだが俺は空では無敵だ。もちろん、水咲さんや啓がいてこそだけどな。そんな俺を仕留めるのに敵はどうすると思うよ」
「えっと・・・・・・」
多少自意識過剰で、あんたサヤに落とされたでしょとは突っ込まない。しかし、無敵のエースパイロットとを落とすとなるとどうしたものか、その敵より強くなる、と言うほど簡単なものでは無いだろう。
「所属基地への直接の攻撃か、機体の破壊工作、または・・・・・・」
「暗殺・・・・・・」
ボクは無意識に歩くのをやめてしまい、それに気がついたツルギも足を止めてボクの方に振り返る。
「あのレイでも機体に爆弾を仕掛けられ、直接殺されかけたからな」
そういえばそんなこともあったな。
ボクのよい理解者でありツルギのマブダチ、いや、弟と言っても過言では無い、自由グレイニア解放空軍のレイ・アスール。
彼はバルセル・グレイニア戦争にて本拠地アルサーレからトモパーレへと前線基地を交代させた際に援軍としてほかの基地から来たパイロットに殺されかけた。
理由は色々あるが、簡単に言えば敵に取り込まれた味方のスパイにだ。
「そして、ツバサもそうだ」
その言葉は心が痛い。
「何が言いたいかってのは、レイでも殺されかけたんだ、そして基地の空襲でアサギさんは死んで、ツバサは撃たれて死んだ。安全なとこなんてどこにもない。お前も初めはロロウのこと疑ってただろ?スパイだったらどうしようって」
「え、なんで・・・・・・」
「態度に出すぎだよ、今でも若干警戒してるだろ?だからロロウも距離感が近くなるって」
恥ずかしい、破壊工作がどうこうって話よりそっちの方で頭がいっぱいだ。彼女は生粋のスパイで赤翼だ、警戒しない訳がないでしょうに。
「私がどうかしたかしら?」
「ひっ!!」
背筋が凍るとはまさにこの事、突然背後から話しかけられ猫に睨まれたネズミのように硬直してしまう。
「遅いので来てみれば、何を話してるの?」
「い、いつから居ました?」
「さぁー、いつからでしょう?」
「ひー!!」
やばい!下手したら初めから聞いてる!めちゃニコニコしてるけど逆に怖い!
「あんなことやこんなことした仲なのにまだ信頼が足りないかしら?」
「いや、それは誤解でして!」
「あんなことやこんなこと?」
「な!藍さん!?」
貴女もいつからボクの後ろにいるんですかね!?
話がややこしくなるボクのエレメントが揃ってしまった。
「あんなことやこんなことってなに!」
「だから誤解です!」
「あらー、あれは誤解だったのね・・・」
「ロロウは黙ってください!」
「何したの!!」
いやもうなんなんだよ!こうなったら奥の手だ!
「あ!ソラが逃げた!」
「問題の先送りは宜しくないですわよ」
逃げるが勝ちだ、ボクは待機室に一目散に走しだした。
「仲良いなぁ」
ツルギが去り際にボソッと言ったが、これって仲いいって言うのか?いやいや、まずは脱兎だ。
〇
待機室。
「で、なぜ俺の後ろに隠れる」
ボクは何故か待機室の椅子に腰掛け腕組みしていた、カリムの後ろに隠れていた。
「なんでですかね?」
ボクが聞きたいです。
「カリムなら守ってくれるって思ったんじゃない?」
「普通逆だろ・・・・・・」
ここでもリズさんにいじられカリムにはものすごいため息を吐かれながら呆れられる、いつからこんないじられキャラが定着してしまったのやら・・・・・・。
すると待機室の扉が勢いよく開いて藍さん、続いてロロウ、間を置いてツルギが入ってくる。
「あー、はいはい、なんだか知らんがそこら辺にしろ」
なんだかんだ言いながらナチュラルに守ってくれるカリム、やばい惚れちゃう。
「やっぱりソラのこと好きだよね??」
「そんなんじゃないって何度言えば分かるんだっ!」
これも何度目の光景だろう。そんな彼、じゃなくて彼女の優しさについつい甘えてしまう。だってツンツンしてるけど、包容力というかそんなのがすごいし、これってツンデレって言うの?
「ツンデレ?」
「っんなじゃない!」
早速リズさんに指摘されてるし。
「・・・・・・ツンデレ?」
次なるワードに反応する藍さん、どうして彼女が関わるとややこしくなってしまうのか。会ったばかりのどこか適当だが、キリッとした彼女はいったい何処に・・・・・・。
「騒ぎすぎですよ」
「ぬっ!お姉ちゃん!」
見かねた啓さんが、妹たる藍さんの首根っこを捕かんで回収していく。ありがとうございます。
「全く、おちおち休憩も出来ないな」
「す、すみません・・・・・・」
なんでボクが謝ってるの?
「まあまあ、ちょっとは気分転換出来たろ」
ツルギがボクの肩を組みニヒヒと笑っている、あんたがちょっと落ち込むようなこと言ったんでしょうに!
まあいいや、みんな気を使ってくれてるみたいだし、一応隊長なんだからしっかりしないと。
毎度毎度落ち込んでられない、もっと精神的にも強くならないと。
シロお兄ちゃんのように、何があっても動じない位に。
「しかしだな、レイでも狙われるんだ。ソラも気をつけろよ、でっ!!」
水咲さんに叩かれるツルギ。
「今言うかな?それ」
「だって・・・・・・」
親子かな?頭をかいて拗ねるツルギ。ホント彼は水咲さんには頭が上がらないな。
「大丈夫です、一応、ボクもスパイの端くれなんで」
心配かけないようにニッコリ笑って言うと。
「急にフラグを立てるな!」
「あだだだ!!」
フラグだったかな?今度はツルギにヘッドロックをされて頭を拳でグリグリとやられる。
「剣くんフラグ嫌いだからね」
そうなんだ、確かにフラグブレイクだ!とか言って何かしらやってた気もする。
「死ななければフラグになりません」
いや、啓さん、ご最もだけどそれ極論・・・・・・。
「ソラは私が守る!」
分かってるんだか分かってないんだが、藍さんが啓さんの手を振りほどいて駆け寄ってくると、ボクの腕を掴んで何故か得意げにニヒヒと笑っていた。




