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第3話 アルフレート

21時、部屋の中に入ると。


「遅いっ!!」


部屋の手前のソファーに座り、長い足を組んだ藍さんに怒られた。

え?まだ消灯時間じゃないけど・・・・・・。って!よく見るとテーブルの上にはお酒が入っていたであろう瓶が一、二本空になっていて、まだ空いていない瓶も何本かある。

基地内飲酒ってダメなんじゃ!?


「え!?飲んでいいんですか!?」


「次の日休みなら飲んでいいんですー」


何故か膨れっ面をしている彼女。えぇ、まあここ離れ小島だしライエンラークよりは厳しくないのか?でもそれでいいのか?有事じゃないから?当直は明後日だけども、いろいろ困惑してしまう。


「はいそこ座って!」

「あ、はい」


何をされるか分からない、ご機嫌ななめな彼女に対面のソファーを指さされ素早くそこに座った。嫌な予感がする、この人絡み上戸じゃないよね?かなり飲んでるみたいだし、既に目が座っているしこの先思いやられる。


「せっかく歓迎会、親睦会?それをしようと思ったのに、遅い!」

「え!?言ってくれたら早く帰ってきましたよ!」


まさかそんなことを考えてくれてたなんて思いもしなかった、ちょっと悪いことしちゃったな。


「だってデートって言ってたし・・・・・・」


なんだよ可愛いかよ。

ボソボソっと言ってさっきまで強気で接してきていたのに急に視線を逸らす藍さん。

ほんとまだ何もしてないのに、ボクの事を慕ってくれありがたい。


「ごめんなさい、飲みましょ!でも、その前にシャワー浴びてきますね」

「一緒に寝たりしないからね!!」

「しません!!」


全く、なんなんだよ。完全に酔っているからかなんなのか、可愛らしくタンクトップ越しに膨らみがわかる胸元を隠す藍さん、そんな事しないっての。ボクは洗面道具をまとめて、兵舎奥のシャワー室に急いだ。



ふー、サッパリした。

兵舎は全体にクーラーが効いているし涼しくて気持ちいい。おっと早く帰らないと藍さんにまた怒られてしまう、タオルと下着を畳んでシャワー室を出ると。


「新任のくせにこんな時間に風呂?」


タイミング最悪だ、ボクと入れ違いでTシャツ短パン姿の水多中尉に捕まってしまった。


「別にまだ時間内です。新任も何も無いと思いますけど?」


変に下手に出るとこういう奴はすぐに調子に乗る、毅然と対応するのが一番いいとライエンラークで学習済みだ。


「チッ、褐色の癖に・・・・・・」


イラッと来たが我慢だ、ここでボクが問題を起こすのは得策ではない。無視してこの場から離れようとすると彼に腕を掴まれた。


「遅いっ!!」


その瞬間、怒った藍さんの声がすると水多中尉はスッとボクから手を離す。


「ソラ遅い!待ちくたびれて寝ちゃうじゃん!・・・・・・なに、水多、ソラになんか用?」


ボクの隣にいた水多中尉を見つけるやいなや、オオカミのようにガルルと唸ってガンを飛ばす藍さん、ほんと問題起こさないでよ?いや、起こしてるけど何故か問題になってないだけか。


「なんもねぇよ」


そう捨て台詞を吐いて彼はシャワー室に消えていった。

ふー、良かったのかどうなのか、藍さんの酒癖の悪さもそうだけど更に先が思いやられるな。


「はい!飲むよ!時間ないんだから!!」

「ちょ、わかりましたって!」


酔ってフラフラな彼女に手を引っ張られ自分の部屋へ急ぐ。飲み過ぎだとは思うけど時間内に止める自制心はあるとか、よくわかんないな。


部屋に着くなりソファーに座らされ、何なのかも分からない酒をコップに注がれ。


「カンパーイ!」

「か、かんぱーい」


ぐびーっと一瞬で飲み干してしまう藍さん、ボクはどうしようと注がれたお酒を匂ってみる。凄いアルコール臭だ、思わず身震いしてしまった。


「私の注いだお酒が呑めないのぉ!?」


いつの時代の人だよとツッコミそうになる。


「あ、いや、そう言えばお酒飲んだことなくてですね」

「は?」

「え?」


未確認生物を見るような、訳の分からない顔をして彼女はボクを唖然と見つめていた。

だって、ライエンラーク禁酒だったし、酒とかあんまり興味なかったし・・・・・・。


「23歳だよね?」

「はい」

「呑んでいい歳だよね?」

「そうですけど」


藍さんの質問攻めがなんだか怖い。えっとー、とお酒と藍さんを交互に見ていると。


「まあ別に無理にとは言わないけどぉ」


え?てっきり無理やり呑まされるのでは無いかとドキドキしていたボク、何故か拍子抜けしてしまった。

でも、なんだか悲しそうに自分のお酒をちょびちょび飲むものだから流石に申し訳ない。


「いえ、飲みますよ!」


そう言って注いでもらったお酒を藍さんと同じようにぐびーっと一気飲み!したのはいいものの強烈だ、コップをテーブルに置いてクーッ!と頭を下げて苦しむ。


「あーあー、一気飲みなんてするもんじゃないって!」


まじかー、心配してくれるのかー。これもまた拍子抜けだ。彼女酒豪そうだし、ほらもっと!とか言われるものだと勝手に思っていた。


「はい、水」

「あ、ありがとうございます」


僕が飲み干したコップに水を注いでくれた彼女、意外と優しいなぁと思いつつボクは有難くそれを飲むと。


「ゴホッゴホッ!!・・・・・・酒じゃないですか!!」

「へへー、引っかかったー」


普通にさっき飲んだお酒だった、やられた!!しかし満面の笑みで笑っているものだからそんなに強くも言えない。もー、と膨れてミネラルウォーターとラベルのはられているペットボトルを手に取って口に運んだんだ瞬間。


「あ、それもお酒」

「ぶーーー!!」

「あーあーあーあー、勿体ない!」

「なんなんですかもう!」


普通に吐き出してしまって床を汚してしまう、慌てて自分のタオルで床を拭いているとなにか視線を感じて藍さんを見上げると、彼女はなんだかニコニコしている。


「どうしました?」


早くもガンガンしてきた頭を抑えなが見上げると。


「ううん、楽しい?」


え?まぁそれは。


「楽しいですけど?」

「良かったっ!」


そう言うと満足そうにニコッと笑って、またお酒をグビっと飲む、無邪気な笑顔がとても可愛かった。


そして、あっという間に消灯の時間だ。


空になったビンを炊事室で洗ってゴミ箱に捨てて部屋に戻ると、彼女はソファーの上でぐでーっ伸びきった無防備な状態で頭を揺らしウトウトしていた。


なんだか見覚えのある光景・・・・・・。


あー、レイさんが酔いつぶれたみんなを運んでいたような・・・・・・。

まさか自分がこの立場になるとは思ってもいなかった。


「藍さん、ベッドで寝ないと風邪ひきますよ」


肩を揺するも、うー、と唸るだけでその目は開かない。


「うーん、まだ飲むぅ・・・・・・」


ダメだなこりゃ。

でもさすがにこのまま放って置く訳にもいかないし、運んであげる?別に彼女をどうにかする訳でもないけどさ、気になるじゃん?


「さて、どうなっても知らないですからね!」


意を決して彼女を運ぶことにする。

ボクのことを歓迎してくれた結果こうなったんだ、それに関してはボクも嬉しかったし、最後まで面倒を見てあげよう。


彼女の首元に左手を、膝裏に右手を回していわゆるお姫様抱っこで持ち上げる。ソファーに大の字になってたから意外と簡単で、鍛えた体だ、彼女を運ぶぐらい簡単。


柔らかい女性らしい体を肌に感じ、シャンプーの匂いをいい匂いだなと思いつつ、よろけることも無く藍さんをベッドに運びブランケットをかけて終了。


これでいいかな、と彼女の寝顔をちょっと見ているとパチッと藍さんの目が開いた。


「うわっ!!」


心臓止まるかと思った!なになに、目が覚めちゃった!?

えっと、そのー、と理由もなく辺りを見渡してアワアワしていると。


藍さんは身体ごと壁の方を向いてしまい一言。


「ありがとう」


「・・・・・・どういたしまして」


なんだよびっくりした。

そして僕も自分のベッドに入り、部屋の明かりを消して眠りについた。



5月2日10時、自室にて。


「部隊名??」


僕の言葉に、んー、と首を傾げる藍さん。彼女と編隊を組むにあたり決めないといけないことが三つあった。


部隊名にタックネームにエンブレム。


早く決めないと明日には当直だし、整備員も困ってしまう。だからそれについて話し合って、いや、話し合おうと思ったのだけど。


「別になんでもいいけどぉ?」

「そう言われてもですね・・・・・・」


特にこだわりもないからと全く興味を示さない藍さん、それでは僕も困ってしまう。


うーん、とソファーに座って頭を捻りながら考えるボクに、昨日のようにタンクトップにショートパンツ姿で長い脚を組んで雑誌を見つめる彼女。


ボクは気にせず考えるがなかなか出てこない、こうなるんだったらライエンラークにいる時から考えとけばよかった。


ブルー隊にも負けず劣らず、グレイ隊のようにカッコイイ隊名で、グラム隊のように凄そうな・・・・・・。全然思い浮かばないぞ?


荒木さん達はシエラ隊、黒木さんはオメガ隊、安直と言えば安直だが何故か格好よく聞こえるしな。


マリンは?海っぽいし、でも可愛すぎるかな・・・・・・。


ターコイズとか?石の色スカイブルーだからそれっぽいと思うけど、でもそのまんまっていうのもなぁ・・・・・・。


スカイは?いやいや、ツルギに怒られそうだ。


んー、悩ましい・・・・・・。


「アルフレート」

「え?」


藍さんがいつの間にか読んでいた雑誌を畳んで、頭の後ろに両手をやって無防備な脇を見せ、二段ベットの天井を見ながら呟いた。

見ちゃいけない気がして彼女は見なかったが、アルフレートかぁ、どんな意味なのかな?


「昔いた撃墜王の名前」


そう言われればなんか聞いたことあるようなないような、アルフレート隊かぁ、違和感はないかな。撃墜王にでもならないとツルギとか会ってくれそうにないし、ちょうど良さそうだ。


「まっ、なんでもいいけどねぇ」


また雑誌を開き組んだ脚を伸ばしてパタパタ閉じたり開いたりしている彼女、興味あるんだか無いんだか。


「それにしますね」


そう言うと藍さんは雑誌を見ながらニコッと笑う。カッコイイし語呂もいいし、意味もボクには、いや、ボクたちにはピッタリに思えた。


次はタックネームだ、これは・・・・・・。


「部隊名は決めたからタックネームはソラが決めて」


そうなるよね。これについては期待してるのか、興味があるのか雑誌を畳んで上体を起こしてウキウキとこっちを見ている。


「教育団ではタックネーム無かったんですか?」

「え?番号だった」

「あー」


そっか・・・・・・、どうしようかな・・・・・・。

すると彼女の大きくてクリっとした瑠璃色の目が合う。


「っ!!」

「??」


ドキッとしたのは内緒だ、おかげでいいのが思いついた。


「ラズリ、とかどうですか?」

「ラズリ・・・・・・、ラズリ・・・・・・、もしかしてラピスラズリの?」

「まあ、はい」


安直かなぁ、そのまんま瞳の色からとったなんて言えない。ラズリかぁー、と頭をクネクネさせる藍さんは。


「気に入った!それにする!」

「ですよねぇ。え!?あ、いいんですか?」

「うん、カッコイイしぃ」


却下されるかと思いきやまさかの一発OK、まあでも藍さんもニコニコしていることだしいいか。

次は僕のだけど、これはもう決まっている。


「ソラのは?」

「ボクはシューレって決めてます」

「しゅーれー?」


神話に出てくる剣の名前だ、ソードにしようかとも思ったけど、ツルギが使っていたものばかり使うのも気が引けたし、もし会った時にいじられそうだし、そもそもレイさんに笑われそうな気もする。ちょっと捻ってこっちにした。


「カッコイイんじゃない?」

「そうですか?ありがとうございます」


彼女は意味とかは分かってなさそうだけど、こればっかりは譲れないからね。

これで部隊名もタックネームも決まった、残すは部隊マークだが。


「マークもソラが決めて、私こういうのはセンスないから」

「え、あ、はい」


アルフレートとかセンスの塊だと思うけどなぁ、マークを描くのが苦手ってことかな?

ボクはまたうーんと考える。


「ブルーローズとかどうですか?」

「青薔薇?」


ツルギのブルー隊のブルーに、ツバサお兄ちゃんはなんだかバラのイメージだったから合わせてそれを提案してみる、啓さんもブルー隊だしね気に入ってくれるといいけど。


「どれどれ花言葉はーっと」


ベッドに寝そべったまま、スマホでポチポチと検索する彼女。


「不可能・・・・・・」


あ、ダメかな・・・・・・。


「は、昔の花言葉で今は夢叶う、らしいよ」


夢叶うか、叶うといいなぁ。


「それにしよ!決定!」


藍さんも目をキラキラさせて喜んでくれてるみたいで良かった。

こうしてボクたちの部隊名、部隊マーク、タックネームは意外と早く決まり、荒木さんと整備員に報告に向かったのだった。


これからボクらは。


エルゲート連邦空軍端島第14飛行隊アルフレート隊

部隊マーク「ブルーローズ」

一番機、伊波宙、タックネーム「シューレ」

二番機、東條藍、タックネーム「ラズリ」


に決まった。


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