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第35話 見かけによらない

《ーー敵機が襲来し上空避難中の戦闘機がこれと交戦中、避難者はそのまま待機ーー》


地下壕に今の外の状況がたまに放送される、弾道ミサイル攻撃は続いているのか時々部屋が揺れ、天井に溜まったホコリがヒラヒラと落ちてくる。


バスケットコート一つ分あるかどうかの広さの地下壕、そこに4、50人が身を寄せあっていた。ちなみに、地下壕と言っても綺麗にコンクリートで整備されていてトイレや非常用倉庫もある、非常電源なのかやや薄暗いが。


しかし、なんでこんな時に、こんな所にボクはいるんだ。


彼女達の隊長なのに、今はただの役立たずでしかない。


高射部隊の手伝いをしたくてもそんな知識はないし、ただのお荷物、避難に遅れた人を誘導することしか出来なかった。


考えれば考えるほど自分にイライラして、部屋の隅のベンチで膝に肘をついて前屈みになって、貧乏揺すりをしていると。


「あの・・・・・・」


誰かに声をかけられた、声の感じ的に女性かな?

いけないいけないと揺する足を止めて、顔を上げると。


「えっと?」


誰だろう、見たことは無い。部屋の暗さのせいだろうか濃いめの緑の前下がりショートボブに深緑の瞳、やや小柄で(胸は控えめ)雰囲気はおっとりした女性が、なんだかモジモジしながら立っていた。


「あの!先程は逃げ遅れているのを助けていただいて、あ、ありがとうございました・・・・・・」


ぺこりと深々とお辞儀をする彼女、あ!最後に手を引っ張って中に入れた人か!あの時は必死だったから顔とか全然見てなかった。


「あのままだとどうなっていたことか・・・・・・」


まあ、ね、ボクがもし飛んでいたら彼女を見つけられなかったし、だとしても他の誰かが彼女を見つけてくれていたかもしれない、偶然に偶然が重なっただけ。


「生きてるんです、忘れましょう」


既に過去のことをどうこう考えても仕方ない、悪いことを考えてしまうだけだ。


「あ、そうですね・・・・・・。隣に座っても?」


「いいですよ」


彼女を不安にさせないようにニッコリと笑い、ベンチの端により広めのスペースを開け、彼女かそこに座る。


が、座ったのはいいが黙ったっきり、ボクがなんか話すのも変な気がしたが、話をふった方がいいのか?見ず知らずの女性と話すのは全く慣れてないし、気の利いた事も言えない。藍さんとかはね、ほら、適当でいいしさ。


「私、第102補給隊のサガリと言います。去年空軍に入ったばかりで、最近この基地に配属されて・・・・・・」


なるほど補給科の新兵か、通りでなんか若そうというか初々しい感じがした。地下壕の場所がよくわからなかった、ってのも頷けるな。いや、避難訓練ぐらいしとけよって話なんだけど、今責めた所でだ、これで覚えただろうし。


「あの、名前を伺っても?」


んー、ボクは窮地に現れた白馬の王子様的な感じに目えてるのかな?完全にゲレンデマジックの類だ、しかも、よくわからない部隊に女の子の知り合いを作るなんて、藍さんになんて言われるか。


なんなのよあいつ!って発狂する姿が目に浮かぶ。


まっ、部隊違うし道端でバッタリ!はあってもしょっちゅう会うことは無いか、なんか言われたら正直に話せばいいし。


「ソラ、でいいですよ」


ニコッと笑うと、彼女も安心したように笑ってくれた。


「ソラさん、見たところパイロットのようですけど・・・・・・、しかもエルゲート空軍ですか?あ、この前この基地に派遣されたっていう?」


ボクの飛行服という服装と、胸のワッペンをみておやおや?と首を傾げるサガリさん、新兵にしては意外と詳しいな、補給員だからか?人は外見によらないな。


「ああ、故障してて飛べないんですよ、だからここに」


「じゃあ、私たちが出会ったのは、う、運命かもしれないですね・・・・・・」


なんだよ、自分で言っといて恥ずかしそうにするな!こっちまで恥ずかしくなってくる。しかも、やっぱりそう見えちゃってる?困ったな、偶然も必然とかよく言うけどさ、完全にたまたまなんだって。


「たまたまですよ」


ハハハと、苦笑いしてこの場をやり過ごそうとすると。


ドーーン・・・・・・。


今まででいちばん大きな爆発音が響き、部屋が大きく揺れ、男たちのどよめきや女性の悲鳴が響く。


「近いな。大丈夫で、す?」


するとサガリさんは、身を縮こめボクの腕にしがみついていた。困っちゃうなーもー。


「あ!その!怖くて、つい・・・・・・」


「大丈夫ですよ」


はわわ!と顔の前で両手を振る、ビックリはしたが、こんな場面で突き返す程ボクは酷くはない。彼女、他にここに知り合い居そうにないし、今だけだ。


「怖くないん、ですか?」


大丈夫というボクの言葉を聞いて、そっとボクの手を握る彼女の手は若干震えていた。緊張のせいか、手汗もかいている、大丈夫かな?


「そうですね、もう慣れました」


これよりも死にそうな場面、何回も経験してるしね。

へへへと笑っていると。


「凄い、ですね。私は到底慣れそうもありません・・・・・・」


まあ、慣れないのが一番いいんだよ、それよりこんな経験、一生しない方がいいに決まってる。生きるか死ぬかの瀬戸際なんて、こうやって何人も経験する方がどうかしてるんだ。


「それが普通です。・・・・・・ボクは普通じゃないんで」


また無駄にニコッと笑うと、彼女は何を思ったのか、また一段とボクの手をギュッと握り、優しい言葉をかけてくれた。


「そんなこと、ないです」



《スゴすぎ・・・・・・》


私は、イエローラインの実力を見せつけられていた。


50機はいたろう敵無人機を、文字通り彼らはあっという間に蹂躙していった。


無人機の中を突き進み、後ろについた敵機を僚機の二人が撃墜し、取りこぼしたのをツルギが理不尽機動で落としていく。


《何あれ、あれがローレニアを敗北に陥れた悪魔なのね》


あーあ、やってらんないと言わんばかりなロロウ、たしかに航空学校にいた時にチョット習った、イエローラインと呼ばれた飛行隊が、ローレニアの無人機をことごとく落とし、戦力を低下させ勝因の一因を作った、みたいな感じだ。


エルゲートからしたら撃墜王、ローレニアからしたら悪魔、まあ、そうなるよね。


《感心してる場合か、お前らもちょっとは手伝え》


おっと、様子見で外周を飛んでいたら、カリムに怒られてしまった。ソラが居ないからこういう指示するのは向いてないんだよね私、それに。


《ソラからカリムの指示に従えって言われました!》


こういう時は丸投げに尽きる。


《あの野郎・・・・・・、分かったよ、アルフレートはスコーピオンと共にカバーし合いながら迎撃を開始しろ。スパイダー2、後ろにつけ》


《ラズリ、ウィルコ!》


《スコーピオン1、ウィルコ》


さて、私たちは旋回してすぐにスコーピオン隊の斜め後方に着く。


《どうします?》


いつものように方針を聞いてみると。


《ちょっとは自分で考えな》


スコーピオン2に怒られてしまった、やっぱり私には隊長代行なんて無理!つくづくソラが居ないと何も出来ないんだな、と痛感させられてしまう。


《そうつき離すなザファー、まずは爆撃機を落とすぞ》


《あいよ、スコーピオン2、了解》


《ラズリ、ウィルコッ》


《レシル、ウィルコ》


なんかムカつく、けど私にはどうしようもできない、ここは素直に指示に従って無人機群のやや後方に位置する爆撃機に狙いを定めた。



地上部隊の対空射撃が始まったようで銃声や、遠くの方で爆発する音が微かに聞こえる。


外を見れるカメラぐらいつけてくれれば状況が分かるのに、いや、そんなことしたら混乱を招くだけか。今の状況も不安は不安だが、放送もあるしこれ以上の情報は不必要だな。


「サガリさんは、どうして軍に入ったんですか?」


不安を紛らわすために、ボクは世間話をしていた。


「えっと、家が貧しくて・・・・・・、軍なら安定してるしそれなりに給料も良かったので」


なるほど、まあ、陸軍とか海軍じゃなくて空軍を選んだのは正解だね、あっちは有無を言わさず前線に駆り出されそうだし。空軍はパイロット適正がなければ後方の陸上勤務間違いなしだ、高射部隊とかは別だけど。


「大変、ですね」


変に哀れんでも失礼だし、この返事が無難かな。


「いえ、こんな状況になるなんて思ってもいませんでしたけど・・・・・・」


だよね、いくら万年紛争してるとはいえ、こんな大規模攻勢は知ってる限りは初だ、ボクも思ってなかった。


「ソラさんは?どうして?」


「んー、ボクは、二人の兄に憧れて」


「お兄さんもパイロットなんです?」


「自慢じゃないですけどエースパイロットなんですよ」


へへっと笑うと彼女も凄いですね、と一緒に笑ってくれる。

今のボクでは到底足元にも及ばない、世界最強と言っても過言ではなかったメドラウトと、今も最強を誇るブルー隊、本当に自慢のお兄ちゃんたちだ。


「お兄さんは今はどちらに?」


「一人は一緒に飛んでます」


「おお、それは良かったですね!」


何故か自分の事のように喜んでくれる彼女、見た目通り凄く優しいな、二言目には暴力の藍さん、何考えてるか分からないロロウとはえらい違いだ。


「もう一人は今頃天国で寂しくしてると思います」


「え、あの、その・・・・・・、ごめんなさい・・・・・・」


シュンとしてしまった彼女、あんまりハッキリ言うべきではなかったかな。


「かなり前の話なんで、大丈夫ですよ」


八年前の話だ、自分の中では割り切ってるつもり、ニッコリ笑うもサガリさんは申し訳なさそうに俯いてしまう。


《ーー敵機を殲滅、空襲警報解除、戦闘機が着陸する、関係員配置につけーー》


お、終わったみたいだ、何事もなければいいが。


「じゃあ、みんなが心配ですので、これで」


空襲警報も解除されたし、立ち上がって出口に向かおうとすると、彼女はボクの手を握ったまま離さなかった。


「サガリさん?」


「あ、すみません・・・・・・。その、また会えますかね?」


んーーーーー、藍さんに勝てる度胸があるなら。会うだけならボクは一向に構わん、なんだけどね、そんなこと彼女に言ってもわかんないか。最悪、ボクが殴られるだけだし。


「はい、いつでも」


ボクは無責任にそう笑い、手を振ってその場から離れた。



駐機場に着くとみんな機体から降りてた、欠けた人はいない、良かったホントに。


安心してホッと胸を撫で下ろしていると。


「あ、ソラ!よかった、無事で!」


ボクを見つけた藍さんがものすごい勢いで走ってくる、まさに飼い主を見つけた従順な子犬のように。かわいい。


そしてそのままハイタッチ。


「聞いて聞いて!私、爆撃機にトドメ刺したんだよ!」


いや、テストで100点とった!みたいなノリで言われても。まあ、それだけ嬉しかったのだろう。


「ホントですか、見てみたかったです」


ニコッと笑うと、そりゃもう彼女はめちゃくちゃ嬉しそうに笑ってくれた。


そしてボクは、みんなを労う。


「ロロウ、藍さん迷惑かけなかったですか?イテ!!」


二の腕を抓られ飛び上がってしまい、慌てて振り向くとさっきまでニコニコだった藍さんにめっちゃ睨まれていた。嫌だなー、冗談ですよ。


「フフ、頼りになってたわよ」


マジで!?まあ、ロロウのことだ適当に話を合わせてる可能性もある、半分半分で聞いておこう。


「ありがとうございました」


「なぁに」


「いいってことよ」


シャリーフさんとザファーさんは、ボクの肩をポンポンと叩いてくれる。そして、ツルギに歩み寄ろうとすると、さっきまで立っていた彼は地面に塞ぎ込んでいた。


「あの、大丈夫です?」


「大丈夫です、お構いなく」


ツルギに聞いたんだけど?なんては言えない、あちゃー、と言わんばかりに顬に手をやる水咲さんに、ピクリとも動かないツルギ、んー、また後でいっか!次はカリムたちだ。


「おう、無事で良かった」


「カリムも心配してたんだよ。もちろん私も」


ツンデレのカリム、こんなボクを心配してくれるなんて正直嬉しかった、会った当初は、お前なことなんて知らない、勝手に死ね、ぐらいの勢いだったのに。人って結構すぐに変わるもんなんだな。


「ありがとうございます!」


少し迷ったがなんだか嬉しくて、ボクより少し背の高いカリムに勢いで飛びついてしまった、男だしねなんも恥ずかしくない、心配してくれたお礼だ。


と思っていたのだけど、首元からなんだかとてもいい匂いがして、え?と一旦顔を離して彼の顔を見ると、なぜか目をパチパチさせて赤くなっていた。それになんだか、胸辺りが柔らかいような・・・・・・。


「え?」

「な、なによ・・・・・・」

「えぇ!?」

「なんだよ!離れろ!」


なによ?そんな口調だったっけ?何が何だか分からず、カリムに顔を押されながらも、彼に抱きつき混乱したままリズさんに目線を移すと。


「カリムが赤くなってる!」

「なってねーよ!戦闘のせいで頭に血が上ってるだけだ、ってお前いつまで抱きついてんだよ!」


え、どういうこと?たしかにボクはカワイイ系だけどさ、この程度でこのドSが赤くなったりしないだろ?

しかし、リズさんの指摘にワタワタするカリム、それに対してボクは何を思ったのか、なんだか柔らかい気がした胸を触って(結構ガッツリ揉んだ)しまうと。


ある!


「ひゃわっ!ちょ、何しやがる!バカヤロウ!」

「ゴッ!!」


グーで脳天を思いっきり殴られた、そりゃそうだ、男にしても失礼すぎるだろ。でも、さっきの可愛らしい悲鳴に似た反応に、手に残る控えめなマショマロのような感触、これって・・・・・・。


「え、お、女?です?」


頭がかち割れそうな程痛かったが、事実をまとめるとそうなった、真顔で聞いてみると、彼は顔を赤くして両手で胸を隠し叫ぶ。


「なんだよ、俺が男なんて一言も言ってねーぞ!」


たしかに。


いや、でもさ、一人称俺って・・・・・・俺っ子?え?女?え?


・・・・・・え?


まてまて、状況を整理しよう。

ボクのことを心配してくれていたカリムに、嬉しくて飛びついてしまうと、めっちゃいい匂いがして、疑いつつ胸を触ると膨らみがあった。


その時の反応もなんか女の子っぽかったし、決定的なのは俺は男じゃないって言っている、以上のことから結論は。


カリムは女だ。


「えーーーーっ!?」


もうね、叫ぶことしか出来なかったよね。

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