第29話 偽装
一気に上昇し、真っ黒い雨雲の上には眩い青空が広がっていた。まあ、実際はバイザーのカメラ越しに見えるから全然眩しくはないんだけど、比喩だ。
敵は・・・・・・、いたいた。
赤外線カメラにて高高度にて編隊飛行する敵機を見つけ、レーダーにもその機影を捉える。
《下からの迎撃はちょっと不利ね》
ロロウの言う通り、太陽を背に向けられたらいくら赤外線カメラでも見えなくなりそうだし、撃ち下ろしはこっちが不利だ、さっさと高度を上げた方がいいか?
《どうするの?》
《考え中です》
案の定、藍さんに急かされるが、まだ考えがまとまっていない。敵はレーダーに写ってるだけで6機、このまま上昇しても孤立しそうだし、かといって雲の近くにいても乱戦になったら困る、ツルギもすぐに助けてくれるかは分からない。
《レシル》
《何かしら?》
頼りの綱はこの人だけ、もちろん藍さんも頼りにはしているがそれは前提条件、この人がどう出るかが問題だ。
《いけますか?》
何が、とは言わない。
《さー、貴方に任せるわ》
危機感を1ミリも感じないいつものような柔らかい声。今回信じてダメだったらその時考えよう、今は目の前の敵を落とすのみ。
《そうですか、信じます》
ボクの言葉に彼女はふん、と鼻で笑い明確な返事をしない。
《シューレから各機、これより急上昇し敵機の迎撃に向かいます。・・・・・・シューレ、交戦》
《この前のようにはいかないんだから!ラズリ、交戦!》
《お手並み拝見ね、レシル、交戦》
アフターバーナー点火、多少レーダーに写りやすくなるが元々ビーストモード、そんなの考えなくていいし下手したら既に見つかっている。
《スパイダー1、私たちはこのままでいいの?》
艦隊直俺のスパイダー2ことリズさんが戦ってるみんなのことを思ってか、いても立っても居られないようだが。
《目かっぽじって索敵を続けろ、そろそろ来るぞ》
《え、何が?》
《ーー敵性電波探知、感弱い、090度方向ーー》
今度はなんだ?気にはなるがボクたちはそれどころじゃない。
《来たぞ無人機だ、スパイダー1交戦》
《また無人機っ、スパイダー2交戦!》
《ーー悪天候と電波妨害で捕捉できない、頼んだぞ直俺機!ーー》
《マジか、こっちのP-3Cは探知してない、ソノブイ捜索を始める!!》
下もしたでヤバそうだ。
先行させてるP-3Cの磁気探知機を潜水艦が逃れている、てことは艦隊の目の前にいる可能性が高い、魚雷攻撃なんかされたらたまったもんじゃないぞ。
さてとボクたちも。
〈青薔薇を排除しろ〉
〈ラジャー〉
なんか警戒されてる訳でして。
なんかそんな目立つようなことしたかな?傭兵と互角ってことだけで警戒、されるか。
まあでも、ツルギ達がいることには気づいてはいない様子だからそれはそれで良かったと思いたい、数的不利だし粘れるだけ粘ってあとはツルギ達が・・・・・・。
〈見つけたぞ、イエローライン〉
《やべっ!!》
ツルギの焦りよう、この声は、聞いたことがある。僕の初陣で相手になった。
《寄りにもよってシャルルかよっ、ブルー隊、雲の上に出ろ!》
他の傭兵より飛び抜けて強いシャルル隊だ。しかし、ナバジギスタンの所属ではないはず、一体何がどうなっているんだ?
〈この気を逃すな、イエローラインを落として億万長者だ。シャルル隊交戦〉
ツルギ賞金首になってる!!各国で傭兵が暴れ回ってるってそういうことだったのか!
《くそっ、分かってはいたけど・・・。ブルー隊交戦!》
ツルギたちが雲の中から急上昇して現れ、少ししてF-15アクティブが4機、その後を追って上昇してくる。マジかマジか、こうなったらツルギの助太刀は望めない、ボクたち3機でヴァジュラ隊とその取り巻きの相手か。なんで毎度毎度数的不利なんだ、またまた骨が折れるぞ。
〈ちなみに青薔薇〉
これはヴァジュラ隊の1番機の声かな?以前聞いた高圧的な声と同じだが、返事をせずに聞くだけ聞いてみる。
〈おまえの首にも賞金がかかっている、オレの給料になれ〉
マジですか!?なんで!?聞くんじゃなかった!
《そ、それは光栄です。が、抗いますよ》
これがボクの精一杯の強がり。正直言うと小便チビりそうだけど、返り討ちなんてできるか?二人を信じるしかない。
上空の敵機が散開、各機バラバラに散らばってそのうちの数機がボクたちの方に突っ込んでくる。
えぇい、成るように成る!今考えても仕方ない、幸い敵は全機で向かってきていない、出来れば各個撃破したいところだ。
《どうする!?》
こうなっても藍さんに急かされる。
《ドッグファイトは厳禁、一撃離脱を心がけてください。散開自由戦闘!》
《ラズリ、ウィルコ!》
《良い指示ね、レシル、ウィルコ》
両翼を飛んでいた二人が機体を捻り散開。さてと、暴れますか。
〇
状況は思わしくない。
シャルル隊はツルギのみを執拗に追撃し2、3番機には目もくれない、これじゃ彼らが得意な戦法も意味が無いし。ボクたちも倍以上いる敵機に翻弄されていた。
《シューレ!》
まさかまさかのツルギに呼ばれる。
《合流だ、巻き返す》
これってツルギがボクのこと信用してるってこと?いやいや、そんな感慨に浸ってる場合じゃない、すぐに合流しないと。
《シューレ、ウィルコ、聞きましたね行きますよ!》
《ラズリ、ウィルコ》
《レシル、ウィルコ》
一旦散開し少し離れたツルギの元へ急ぐ、フランカーより足は遅いが逃げ切れない距離じゃない、ミサイルを撃たれたらフレアで回避だ。
《俺もそっちへ行く》
前方で乱戦状態となっているツルギたちが編隊を組み直しこっちに向かってくる。え?そんなうまい事いく?
《シューレ》
《分かってます》
《なら安心ね》
ロロウの心配には及ばない、上手く言うかは別としてツルギのやりたいことぐらい分かる。敵がそう簡単に引っかかるかが分からないだけで。
《やる事やったらそのまま雲の下に急降下だ》
《シューレ、ウィルコ》
ツルギもいっぱいいっぱいな様子、これは失敗できないぞ。既に彼らとそれを追う敵機は目前に迫っている。
しかしもうちょっとの所でミサイルアラートがコックピットに鳴り響く、直進で飛んでたらそりゃそうなるけど。
《捕捉されてるよ》
《合図でフレアを発射してください》
《ラズリ、ウィルコ》
危険な真似はあまりしたくないが我慢比べだ。敵もこのまま追って仕留めるべきが、一旦離脱するべきか悩んでるはず、じゃなきゃさっさと離脱してるだろうしね。
ツルギたちが引き連れるシャルル隊がボクたちの射程内に入った、電波妨害もない、あとは捕捉してツルギの合図を待つのみ。
みるみる彼らが近づいてくる。
まだか?
《右!》
ツルギの合図と共に思いっきり右に旋回、ボクたちの後ろにいたヴァジュラ隊は離脱したようだが、フランカーは未だ追撃姿勢、そしてミサイルを放ってきた。
シャルル隊もボクたちに向かって。
さすがにこれ以上は無理だっ。
《フレア!フォックス3っ!》
3機同時にフレアを発射、苦し紛れにレーダーホーミングミサイルを放ったが当たるか?そして、ツルギたちとすれ違うが彼らはまだ撃ってない。
それが何故なのか考える間もなくミサイル回避のために離脱、後ろを確認する前に複数の爆発が空に轟く。
《藍さん!ロロウ!》
冷や汗が止まらなかったが。
《無事だよ!》
《こんなので死ねませんね》
良かった、だったらさっきの爆発はボクたちの放ったミサイルが当たったか?。
それよりもツルギたちは無事かと彼の行く末を追うと、ミサイルを四方八方にばら撒きながら、というのは正しくないか、旋回中にミサイルを切り離し漂うミサイルを置いてけぼりにし飛ぶ彼ら。どうなってるんだとよく見ていると、放たれたミサイルはどういう原理か敵を見つけるやいなやその方向に一直線、フレアなど見向きもせずに、姿勢制御ブースターのようなものを噴射し90度に曲がったりとありえない動きでフランカーに命中していた。
しかし、シャルル隊の撃墜には至っていない。
《くそっ、APSかっ、奥の手だったのに》
防御装置が付いてるなんて無敵すぎる、この後どう対処するか考える間もなく。
《雲の下へ急げ》
ツルギの指示の元、雲下に急降下、ミサイル駆逐艦の支援攻撃に頼ることになった。
〇
《スパイダー2、あと何機いる?》
《もう、分からないよっ》
《泣き言を言うな。くそ、次から次へと》
スパイダー隊の方もてんてこ舞いと言った様子、しかしボクたちは構わずその中に突っ込む。
《状況はどうですか!?》
追撃が来る前に何がどうなってるのかの確認だ。
《俺らは無事だがフリゲートが一隻やられた、スコーピオン隊も潜水艦を見つけれてない、そのくせ無人機は次から次へとやってくる。手に負えんな》
直俺機2機じゃあ無理がある、レイシェール航空隊が戻ってきているそうだが間に合うかは五分五分と言った感じか。
《無人機は全て艦隊に任せる、シャルル隊は俺たちが、ヴァジュラ隊はスパイダー隊とアルフレート隊で対処しろ》
《スパイダー1、ウィルコ。死ぬなよスパイダー2》
《カリムが心配なんて珍しいね、大丈夫だよっ》
《シューレ、ウィルコ。数的有利だ、畳み掛けます》
《仕返し開始!》
《やれやれね》
各機旋回して追撃してくる敵を迎え撃つ。
《弟にいいとこ見せたいんだよ!》
二人のため息が聞こえたような気がするが気のせいだろう。ボクだってお兄ちゃんのいい所が見たい!
なんて恐怖を紛らわすために冗談を考えていると、ふと疑問に思うことが浮かんだ。
潜水艦は未探知。
無人機は西からやってくる。
それに、潜水艦から射出されるにしては数が多すぎる。
決定的なのは、民間商船の航行が作戦秘匿のために制限されてないこと。
《そういうことか!》
なんだなんだと周りに聞かれるが自信はあまりないし、敵に悟られないようにする必要がある。
いや、時間が無い強行手段だ。
《ここに潜水艦はいない!P-3Cは離脱し、スコーピオン隊は安全圏まで護衛、ボクたちで見つける!スパイダー隊はヴァジュラ隊を引き付けてください!》
細かく説明してる暇がない、ボクはとにかく二人を引き連れ飛沫が上がらないギリギリの高度を飛行し西に向かう。
《ちょ、お前!何を考え・・・・・・。リズ、絶対死ぬなよ》
《カリムこそ》
カリムたちには申し訳ないがもはやこれしか可能性がないし方法がない、無人機が居なくなれば全火力が傭兵に向くはずだ。
大きく隊形を広げ、悟られないように巡航速度で西に進んでいると赤外線カメラがしっかり捉えた。
民間商船に偽装したコンテナ船の、山積みされたコンテナから無人機が射出されている場面を。
録画も良し、何かあっても問題になることも無い。
《よくわかったわね》
《勘です!》
褒められて嬉しがってる場合じゃない、手持ちのミサイルじゃ撃沈は不可能、艦隊に連絡し対艦ミサイルによる攻撃を要請する。
《コンテナ船が無人機を射出しています!座標を送るので攻撃を!》
《ーー了解受け取った、SSM発射始め!ーー》
艦隊からあまり離れていなかったこともありSSMはすぐに到達、総勢8発の対艦ミサイルが無人機を射出していたコンテナ船二隻の土手っ腹に次々と命中、燃料に引火したか爆沈した。
《よし、艦隊に戻ります!》
さすがにこれ以上はいないだろう、念の為P-3Cを送り届けたスコーピオン隊に再度警戒してもらうことにして、激戦が続く艦隊上空に戻った。




