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第2話 年上の人

身辺整理も食事も済んだところで荒木さん案内の元、兵舎一階滑走路側のパイロット待機室へと足を運んでいた。


ボクの後ろには休みだからとさっきよりは丈の長いハーフパンツに履き替え、ライフジャケットを羽織っただけの藍さん、ガサツだ。まあ、めんどくさーいとか言われなかっただけマシかな。


そしてすぐ着いた、パイロット待機室。


「あまり緊張するなよ」

「はい!」


扉を開けて中に入ると五人のパイロットが談笑していた。

二人は飛行服で、三人はジャージにシャツ、飛行服の人がスクランブル要員で他の人は非番なんだろう。


「前に言った新任のパイロットだ」


荒木さんがパンパンと手を叩いて合図するとその場は静まり、みんなの視線がボク

に集まる。


「ライエンラーク空軍基地第一教育団から来ました、伊波宙中尉です!よろしくお願いします!」


先ずは第一印象が大切、ビシッと敬礼すると、片手を上げるだけの軽い感じで他のパイロットも敬礼してくれる。


「端島は万年人員不足でなぁ。ああ、海軍の奴らは隣の兵舎にいる、空軍としてな」


常時いる空軍パイロットがボクと藍さんを除いて六人は少ないな。まあ、海軍の艦載機隊が30人もいたら補充なんて来ないか。


「とりあえず、飛行服を着たこいつらが」

「フレイム隊の五十鈴謙(いすず けん)、大尉だ。よろしくな」

「二番機、フレイム2、敷戸俊(しきど しゅん)中尉です」


荒木さんのようなゴツゴツした体格でスポーツ刈りの人が五十鈴大尉、丸刈りで野球青年ような人が敷戸中尉。


「非番のこいつらが」

「ブリザード隊、氷上聯(ひがみ れん)大尉だ」

水多幹(みずた みき)中尉でーす」


ガタイはいいがロン毛で目付きが悪くなんだか取っ付き難いのが氷上大尉、ライエンラークに居そうな人だで、わかりやすく言えばよく映画とかの悪役に出そうな人。そして、小柄でなんだかお調子者のようなソフトモヒカン頭の人が水多中尉。


「んで、シエラ隊の俺とリンな。ようこそ、端島基地へ」


バラバラな拍手がボクを迎えてくれて、ありがとうございますとお辞儀をする。


すると、はいはーいとお調子者そうな水多中尉が手を上げる。


「なんだ水多?」

「教育団上がりで中尉って早くないですか?」


まあそう思うよね、ボクだってそう思ってる。

それについては荒木さんが答えてくれた、自分で言うのも恥ずかしいし。


「最近稀に見る成績優秀者だったらしくてな、あの北見中佐のお墨付きだ」


へー、とザワつく待機室。

言われるボクもちょっと恥ずかしい。


「え?その肌の色で?髪も白いし」


はぁ・・・・・・、ここでもそうなるよね。学生の頃はみんな子供の頃から友達だったし、この褐色肌のことについては誰も触れなかった。

しかし、本土に行ってからは違ったし、彼も元は本土の人間だろう、普通と違う人を見れば変に思う、排除したくなるのは生物として自然な行動だ。ボクは毎回そう思うようにして自制心を保っていた。


「バカ野郎!小学生かお前は!」


荒木さんが怒ってくれるが彼は小学生以下だ。


すると僕の後ろにいた藍さんが、俯き気味にものすごいオーラを放ちながら水多中尉の前にスタスタと歩み寄ると。


一閃。


彼はお腹を抱えてうずくまっていた。え?


「私の隊長をバカにしたら殴りますよ?」


えーっ!もう殴ってるんですけどー!

ボクのことをバカにされたことよりそっちの方が心配だ。これには荒木さんも頭を抱え。


「変なところは啓に似てるんだよな・・・・・・」


あちゃー、と言った感じ。なんか前にもやらかしてるのかな?一方それに関して藍さんはというと。


「姉と比べないでください」


と半ギレでスタスタと足早に待機室から出ていってしまった。

こ、怖い・・・・・・。


どうしたものかとアワアワしていると、一見取っ付き難い氷上大尉がボクに謝ってくれる。


「すまんな厳しく言っておく、今日のところは勘弁してやってくれ」

「あ、はい、言われ慣れてるので・・・・・・」


そう言うと氷上大尉は水多中尉の首根っこをまるでネコを掴むように引っ張り上げて、待機室から出ていってしまう。


「ほんとあいつはバカだな」

「逆恨みとかしなけりゃいいですけど」


五十鈴大尉と敷戸中尉も心配してくれる。

精神年齢が低いのも考えものだな、ボクはみんなにもう一度お辞儀をしていなくなってしまった藍さんを追うことにした。



彼女は部屋に帰ってフライトジャケットを脱ぎ、丈の短いショートパンツに履き替えてベッドで横になって雑誌を眺めていた。

あの感じを見たら超怖くて怖気付いてしまうが、ここは意を決してベッドから少し離れた所から話しかける。


「あのー、藍さん?」

「んー、なーにー?」


さっきの超怖い感じから打って変わって、初めて会った時の緩い感じに戻っていて訳が分からない。


「さっきは、ありがとうございました」

「あー、元からあいつ嫌いだったから殴る口実ができてちょうど良かったんだよねー」


えー、やっぱり怖い。

組む足を変えて雑誌のページを捲ると彼女は続ける。


「それに、私の隊長をバカにするやつは許さない」


まだ一緒に飛んでもないのにボクのことを隊長と認めてくれたみたいでなんだか嬉しかったけど、なんて返したらいいか言葉が詰まる。


「ライエンラークで首席卒業、どのぐらい努力したのかなんて、レイヌーンで中の中を狙っていた適当な私でもわかる。だからね」


雑誌をパタッと閉じてボクと目を合わすとニコッと笑ってくれる彼女。


「あ、ありがとうございます」


そう答えると。


「疲れたからちょっと寝る!」


なにか恥ずかしがるように、彼女はバサッと布団を被って壁の方を向いてしまった。



夕方。


「ちょっと外出してきますね」

「え、晩ご飯は?」


ちょっとと言いながら今の今まで寝息を立てて寝ていた藍さん、無言で出ていくのもなんだからと声をかけたら彼女は飛び起きた。


「外で食べてきます」

「私も行こーかなー!」


問答無用でベッドから立ち上がりいそいそと準備を始める藍さん、待て待て。


「古い友人と会うんで、藍さんとはまた今度で」

「えー、デートー?」

「そんな感じですかね」

「えっ?」


スンとフワフワニコニコしていた藍さんが一瞬で真顔になる。なんで?これには咄嗟に安全策でフォローするしかない。


「冗談ですよ、実家のカフェにちょっと帰ってきます」


嘘ではない、実家のカフェでお姉ちゃんとちょっと話て、それから街の方で結さんと久しぶりに食事するんだけど、それを言ったらなんだか着いて来そうで言わなかった。


「なんだー、ってあそこソラの実家なの!?今度挨拶に行かないと!」


それってエレメントとしてだよね?確認するのはやめとこう。

これって好かれちゃったのかなぁ?いやいや違うだろう、まだ会って一日も経ってないしゆるふわな彼女はこんな絡みいろんな人にしてそうだ。


「じゃ、行ってきますね」

「消灯までには帰ってくるんだよー」

「はい、分かりました」


そして、ボクは徒歩で基地前の実家たるカフェに急いだ。



「カフェ・スカイ」


カランカランと入口を開けると、いつものカフェエプロンを着たリュウお姉ちゃんが迎えてくれた。


「改めて、ただいま」

「おかえり」


ニコッと笑ってボクの頭を撫でてくれる。


「座って座って、いつものでいい?」

「うん、お願いします」


いつも座っていたカウンター席に座って辺りを見回す、お客さんは珍しく誰もおらず、内装も何も変わっていなくて安心する。


すると厨房からおじさん、いや、お父さんが出てきた。ちょっと白髪が濃くなったかな?しかしそれがダンディーさを際立て、いつものようにピシッとワイシャツを着こなしていた。


「いろいろありがとうございました」

「気にしなくていいよ、今淹れるから待っててね」

「はい」


コーヒー豆をミルに入れて挽き始めるお父さん、コーヒーの苦くもいい匂いが辺りに充満する。

そしてしばらくするとミルクコーヒーと半分のチョコワッフルがテーブルに置かれた。半分?


「はい、この後結ちゃんと食事なんでしょ?だからね、半分」

「ありがとうございます」


ミルクコーヒーをストローで啜る。久しぶりに飲むミルクの甘くてコーヒーのほろ苦い味が口の中に広がる。


ボクが端島からいなくなって結さんもここの常連となっていつの間にかリュウお姉ちゃんと仲良くなっていた、それに関してはボクは全然構わない。ちょっと情報が筒抜けなのが怖いけどね。


「美味しいです」

「良かった」


全く味が変わらないのも凄いよね、ボクは子供にも戻ったように足をプラつかせてミルクコーヒーを啜ったて、チョコワッフルをフォークにとり、1口。


「ちょっと固くしました?」


表面がいつもよりなんだが固く感じた。


「さすがニグルム!じゃなかった、宙!」

「ニグルムでもいいですよ」


お姉ちゃんからしたらニグルムの方が呼び慣れた名前だ、ボクは全然気にしない。


「世間体があるからね!そう、試行錯誤してるんだー、どうかな?」


まあ、前から知ってる人はいいけど初見さんからしたら変か。

ワッフルについては、ずっと同じものを出すのもいい気もするけど、変化もあった方がいいよね、ボクは思ったことをお姉ちゃんに伝える。


「ワッフルを固くするより、チョコを固くした方が好きかな、冷やしチョコワッフルみたいな?」

「それだ!!!!」


雷が落ちたようにビビビッと来たらしいお姉ちゃん、嬉しそうにボクに抱きついて喜んでくれ、ボクも嬉しくなって頬が緩む。

でも、いい歳なんだからもうちょっと落ち着いて欲しいけどね。


それから少し話していると、お店の外から重低音の排気音を響かせ、外を見るとバイクが入口の前に止まっていた。


結さんが来たみたいだ。


ボクは残っていたミルクコーヒーを一気飲みする。


「行ってきます、今度はエレメントと一緒に来ますね」

「うん、待ってるよ」


お姉ちゃんとお父さんに手を振ってお店の外に出ると、以前のようにサイドカー付きのバイクではなく、普通のオフロードバイクが止まっていた。


それにまたがっているのは紛れもなく結さん、ジーパンにカーキ色のボタンシャツを着て、ピンと足を伸ばした彼女は可愛らしく、僕に半ヘルを投げ渡してくれボクはそれを何も言わずに被る。


「お待たせ。サイドカー先輩が使っちゃってて、後ろでいい?」

「全然大丈夫です!」

「じゃぁ乗って」


後ろの小さいシートを指さす結さん、ボクは少し高いシートに手をかけて、足掛けに片足を乗せてよっと跨いで後ろに乗る。

ボクの方が体が大きくて、彼女は片足がちょっとしか地面についていないのに全くよろけずさすが陸軍だなと感心した、凄い体幹だ。


「ちゃんと捕まってねぇ」

「え?!えっとー」


どこを!?このオフロードバイク、余計なものが一切付いていなくてどこを握ったらいいのかと左右を見て探していると、彼女に右手を捕まれお腹に回される。


え?と困惑していると。「行くよっ」と急かされてしまい、ボクは察すると共に観念して結さんに後ろから抱きつく形となって彼女に捕まると、バイクは勢い良く街へとかっ飛ばした。


背中から伝わる柔らかくも弾力のある結さんの体にシャンプーの香り、平常心平常心と頭の中で自分に言い聞かせるが僕には刺激が強すぎた。


そして、まもなくレストランについてバイクを止めて中に入る。


店員さんも顔見知りではなくなっていて特段怪しまれることは無くなっていた、店内の他のお客さんも海軍の人がメインかな?知り合いがいなくてよかった、別に悪いことしてる訳じゃないけどさ。


「何食べる?着隊祝い、奢ってあげる」

「え?あ、ありがとうございます」


ここは年上お姉さんのお言葉に甘えてメニュー表を捲る。

どれにしようかなぁ。


「ハンバーグプレートで」

「私もそれにしよっ」


何にするか決まるとすぐに店員さんが来てくれて、サラダとパンとハンバーグが一枚のお皿にセットになった、ハンバーグプレートを注文。そして、結さんにこの四年であったことをいろいろ話す。


一度電話で話したような気もするけど、何に対してもうんうん、と頷きながら聞いてくれる彼女に気を良くして話が弾み、ハンバーグプレートが届いてからも話は続く。


「教官がツルギさんやツバサお兄ちゃんと知り合いだったらしくてですね!確か、イプシロン隊って言ってました」

「あー、北見さん?私も何度か話したことあるよ。世間って狭いね」

「ぅえっ!知ってるんですか!?」


彼女は陸軍だ、ツルギ達を知っていることも奇跡なのに教官の事も知ってるなんて世の中狭すぎる、まさか知ってるとは思わずこの話はしてなかったんだった。


「うん、怖くなかった?」


北見教官は生粋のライエンラークの人だ、第一印象は誰でもそうなるよね。実際怒ったらめちゃめちゃ怖いし。


「いえ全然、とてもいい人でしたよ。ボクのこといろいろ気にかけてくれて」


でも、彼のおかげでライエンラークに最後までいることが出来た。それはとても感謝している。


「そう、よかった」


結さんはニコッと笑うとハンバーグを一切れ口に運び、美味しいねと頷き、ボクも食事を進める。


「向こうで虐められたりしなかった?」


ボクはその質問になんて言っていいか困る、正直に言ったら心配かけそうだし、嘘を言っても信じて貰えそうにない。「そうですね・・・・・・」と悩んで時間を稼ぐ。

頭がいいからバレないように虐めてくるやつも多かった。世間は声高々と騒いでいるが何が多様化だ、いつもと違うものは排除しようとする、それが人間の本能だ、だからボクは目的を達成するために耐えるしか出来なかった。


「ボク、こう見えても強いんで」


へへへと笑って答え、否定も肯定もしない。

虐めらてそいつらに負けるような、そんな生半可な気持ちでライエンラークに行ってないしボクの味方になってくれる人もいた。


すると結さんは何やら悲しそう?心配そう?な顔をして、ボクの頬に右手を延ばして撫でてくれる。


「今日は、外泊届け出した?」


え?


「あ、明日はエレメントと話し合いがあって・・・・・・」

「そう、残念」


何かまずかったかな?

え?まさか?察してはいけないことを察してしまい瞬間的に顔を赤くすると。


「言ってなかったからね、・・・・・・また誘うね」

「は、はい・・・・・・」


誤魔化すように彼女はボクの頭をくしゃくしゃと撫でると、パンを半分に割って頬張る。

なんだか次の会話に困るな、どうしようと彼女をチラチラ見ながら食事を進める。


「エレメントってどんな子なの?」


あ、そういえばまだ言ってなかった!


「東條藍さんって人で、あの東條啓さんの妹さんらしいですよ。なんかゆるふわでペース乱されます」

「へぇ、本当に世の中狭いね。啓さん凄いクールな人なのに」

「なんか比べられるの嫌みたいなんで気をつけてくださいね」

「うん、気をつける」


会うことはあるかは分からないけど、カフェで会うかもしれない。咄嗟に比べられて結さんのこと殴られたらたまったものじゃない、気をつけないと。


それからあっという間に時間は過ぎ、食事を終え退店。

結さんの運転するバイクの後ろに乗り、彼女の背中に捕まって基地に帰る、時間も時間だし。


バイクのまま基地に入り、ボクの住む兵舎の前で下ろしてくれる、彼女の住まいの陸軍のプレハブはもう少し向こうにあるからね。


「今日はありがとうございました、久しぶりに楽しかったです!」

「そう?よかった」


辺りは暗く兵舎から漏れる明かりにぼんやり浮かぶ結さん、ボクは彼女に深々とお辞儀をする。


「あ、その、すいませんでした」

「ん?あー、また誘うね」

「はい」


ニコっと笑ってくれる彼女、すると彼女は右手でクイクイと僕を呼び、なんだろうと傍へ近づくと。

ギアをニュートラルへ入れて、バイクに乗ったまま左手でボクの肩を掴んで顔を近づけ。


「っ!!」


キスをされてしまった。

何が何だか分からず、一瞬の出来事だったが彼女の唇が触れた自分の唇を触って固まっていると。


「おやすみっ」


ガチャンとバイクのギアを一速に入れて、彼女は逃げるようにブーンと走り去ってしまった。

これって・・・・・・、そういうこと?外泊も誘われたも同然だし・・・・・・。

状況を理解するまでかなり時間がかかった。

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