第14話 基点
「カフェ・スカイ」
「いらっしゃいませぇー・・・・・・」
結さん、藍さんを両隣に一緒に実家たるカフェ・スカイに入ると、リュウお姉ちゃんの営業スマイルで出迎えてくれたがすぐに怪訝そうな顔で見られる。なんで?
結さんと藍さんを二人で一緒に連れてきたからかな?入ってすぐ立ち止まって考えているとお姉ちゃんの奥、カウンターに人影が見えた。まあ、お客さんの一人や二人いてもおかしくないけど気になって覗き込んでみると。
「あ、黒木さん!」
「おお、宙、なかなか基地で会えないな。お、長井も」
端島配属の空母艦載機隊隊長、ツルギの旧友、そして、お姉ちゃんのフィアンセ、黒木真さんがコーヒーを啜っていた。
そんなしょっちゅう会っていた訳では無いけど、ボクを従弟のように可愛がってくれていた彼はイケメンスマイルでそう言ってくれる。
「あ、そうだ、お姉ちゃんが聞きました、結婚おめでとうございます」
「結婚かぁ、おめでとうございます。黒木さん」
「けっ!!!!」
結さんは黒木さんと昔から面識があるしいいとして、特に面識のない藍さんの反応は聞かなかったことにしよう。例えるのも難しいほど目を点にして固まってしまっている。
「ありがとう」
僕たちの祝いの言葉に、彼は頬を掻きながら嬉しそうにニッと笑ってくれる。
「笹井の馬鹿が帰ってくる前に結婚しないと取られちゃ困るからな!」
「変なこと言わないでよぉ」
冗談を言ってお姉ちゃんと笑っているけど、黒木さんもお姉ちゃんのことが心配なのだろう。でも、大丈夫だ、多少の未練はあるかもしれないけどお姉ちゃんは本気だってことは僕も知ってるし。
「そうだ、宙がいることだしこの際ちょうどいい」
なんだか改まってボクに向き直す黒木さん、嫌な予感がするぞ?
「俺は海軍を辞める」
「・・・・・・」
ニンマリと笑っている黒木さん、俯いてしまうお姉ちゃんに結さん、空気を読んで黙る藍さん。
「もうリュウに心配はかけさせたくないからな、婿養子ってやつだ。俺はこの店を継ぐ、お義父さんと話もしてある」
「真くん・・・・・・」
そうなる、そうなるよな、これ以上お姉ちゃんに心配をかけさせたくないのはボクも一緒だ、行動が伴って無いけど。それに引替え黒木さんは、戦闘機乗りとしてのキャリアを捨ててまでお姉ちゃんを守ろうとしてくれている。
「宙」
「は、はい」
「リュウは任せて俺の分まで好きに飛べ」
「ありがとう、ございます・・・・・・」
ありがとうございます、であってるのかな?ボクは目を伏せた。
○
いつもの窓際4人がけの席、僕の隣に藍さん、対面に結さんが席についてお姉ちゃんの作るチョコワッフルとミルクコーヒーを待っていた。
「結婚かぁ、私も出遅れちゃったなぁ」
視線を感じるのは気のせいだろう、慌ててコップを手に取り水を飲む。
「結さんは誰かいい人居ないんですかぁー?」
ちょっと何自分から喧嘩売りに行ってんだよ。頬杖をつき、わざとらしいジトッとした目を藍さんが結さんに向けている。
「そうだねぇ、宙くん貰ってくれる??」
「なっ!!」
「ぶっ!!ゴホッゴホッ!!」
突然の発言に思わずむせてしまった。話を振った藍も面食らって固まる始末、えっとボクはどう返事したらいいんだろう・・・・・・。
もちろん結さん可愛いしそう言って貰えるのも満更でもないけど、藍さんがいるし・・・・・・。
ん?別に藍さんとはそんな関係じゃないよな?なんでボクは藍さんとの関係の心配をしてるんだろう、ただのエレメントのはず、え??
「どうなのー?」
何故か返事を急かしてくる結さん、これは攻勢に出ている!変にニヤニヤしてるしなんだか怖い!
「え、あの、その・・・・・・」
チラッと藍さんをみるとすごい形相で睨んできてる、下手なことは言えないし何も喋らない方がいいんじゃないか?でも、それはそれで結さんを唆してるみたいだし・・・・・・。
「ふふ、冗談だよ」
いや、絶対冗談じゃないと思うけど・・・・・・。ニコッと笑われるものだから何も言えない、一方の藍さんはなんかホッとしたように胸を撫で下ろしてるし。
「お待ちどうさま、なんの話ししてるの?」
お、救世主ことお姉ちゃんのご登場、これで話が変わればいいけど。
お姉ちゃんはお盆に載せたチョコワッフルとミルクコーヒーをテーブルに置き、さも当然とばかりに同じテーブル、結さんの隣に座る。
「黒木さんはいいの?」
「ん?ああ、お父さんと話してるから大丈夫だよ」
カウンターの方を見ると確かにお父さんと何やら話し込んでいた、サイフォンを出してるしコーヒーの入れ方でも教えて貰ってるのかな?
海軍を辞めると言ってもまだ辞めた訳では無いだろうに、ていうか部下はそこのと知ってるのかな?黒木さんもツルギ達と一緒に飛んでいたぐらい腕は達つし、そんな簡単に辞めさせても貰えなそうだけど。
「で、何話してたの?」
う、話が戻りそう・・・・・・。
「結婚っていいなーって話」
あー、結さんからその話振っちゃうのかぁ。
「あー、それで、宙は結さんと藍ちゃん、どっちがいいの?」
「お姉ちゃんっ!?」
思わずミルクコーヒーをひっくり返すところだった。
変に心臓の鼓動が早くなるのがわかる。
「決めれませんよねー、ツルギくんそっくりだし」
「やめてください!!」
否定はしないけども!!
それに、ボクに人が好きかどうかなんて早すぎます!いい歳ですけど!自分が何者かさえも分かってないのにそんな奴に好きとか思われる方が迷惑でしょ!
「結さんは?どうなんです?」
「ん?宙くんのこと?」
「はい♪」
とんでもないぐらいニッコリ笑うリュウお姉ちゃん、そんなの聞いてどうすんだよ!
「好きだよ、かわいいし」
ニコッとキラキラした目線を受ける。って、可愛くはないです!
「わー、藍ちゃんは?」
こらこら、なんだか機嫌の悪い藍さんになんてこと聞くんだ、また怒って帰るとか言われたら後が面倒じゃないか。
「わ、私は、別に・・・・・・、好きというか、そんなこ、
・・・・・・その・・・・・・いや、えっと・・・・・・」
多方面を番犬の様に睨んでいたと思うと急に俯き耳を真っ赤にする藍さん、だんだん声も小さくなってモゴモゴ言っているし、どうしたんだ?
「好きなんだね」
ニッコニコのリュウお姉ちゃん、どうやったらそんな結論になるのか。
「違います!!」
ほら、何故かは知らないけど顔を真っ赤にした藍さんは否定してるじゃないか。告白してないのに振られた感じがして複雑だけども。
「そうなの?じゃあ、隣変わってよぉ」
「嫌です!」
意地悪な結さんだ、隣にこられてら来られたでボクの方が恥ずかしいけど、藍さんはそれを断固として拒否する。なんだかんだ、ボクの隣が特等席だしね。
「まあまあ、藍さん困ってるじゃないですか」
後で何言われるか分からないのでとりあえず助けておこう。ここでいつもなら殴られそうだけど、そんなことも無くただ俯いている。
「宙は気楽でいいわよねぇ」
「だからなんでそうなるんですか!」
全く、お姉ちゃんは何が言いたいのか、考えても分からないし特に考える気もないのでチョコワッフルを頬張る。
いつもと変わりなくとても美味しい、頬張り過ぎて喉に詰まりそうになりミルクコーヒーを一口飲む。
ウゥゥゥゥーー・・・・・・。
え?
外から僅かに聞こえるサイレン音に、カフェの中が一瞬で静まりかえる。
そのまま間髪入れずにスマホから聞いたことの無いアラームが鳴り響き慌てて画面を確認する。
『端島に空襲警報、至急避難』
は?
その文字を理解する前に。
「帰るぞ!!」
ハッと声をする方を見ると黒木さんが出口に手をかけてボクたちを呼んでいた。
「ほら!ソラ行くよ!!」
「は、はい!」
藍さんに手を引っ張られ席を立つ。
「代金はソラにつけとくねぇ」
「あ、は、はいっ!」
いや、空襲警報だよ!早く逃げないと!と思ったけど、この家は地下シェルター付きだ。そんなに心配しなくてもいいと思うけど基地に近いし万が一はあるし・・・・・・。
「宙!」
「はい!」
お姉ちゃんに呼び止められ、一瞬止まる。
「し・・・・・・、頑張ってね!」
「もちろんです!」
そして僕達は四人でカフェを飛び出し、猛ダッシュで目の前の門から基地の中に入り、結さんは奥の陸軍のプレハブに行き、黒木さんも海軍の格納庫に向かい、僕達は一度自分の部屋に戻る。
○
滑走路を横目に部屋に走っていると格納庫からF-35が二機出てきた、垂直尾翼には「雪の結晶」当直のブリザード隊だ。
その二機は素早く誘導路に向かい、離陸準備をしている。
《方位200から国籍不明機三機が防空識別圏に侵入、アルフレート隊出撃準備》
ボク達もかよ!今全力で着替えに部屋に向かってます!
「急がないと!」
「わかってるぅぅぅ」
もつれそうな脚に鞭打って全力で走る、ほんと藍さんはヒールとか履いてこなくてよかった。
部屋滑り込むやいなや、なれない服を着ているせいか着替えを手こずる藍さん、もう何してんだよ!とさっさと飛行服に着替えたボクは彼女の着替えを手伝う、藍さんのブラとかパンツとか見ちゃったけど致し方なし!
「ちょ!ソラ!!」
「時間が無いんですよ!」
む、紫・・・・・・!なんて色を着てるんだ!
一瞬止まってしまったがズボッと飛行服を着させて部屋をダッシュで出る。
今までにないぐらいのスピードで格納庫に付いたがだいぶ遅れてしまった、既に整備員によりエンジンは発動しておりパイロットを待っている状態だった。
そして、コックピットに乗って点検していた整備員と交代し、ヘルメットを被り最終チェック。
《シューレ、計器チェック実施中!》
《ラズリ、同じく!》
《ーー管制塔了解、準備良ければ滑走路手前で待機しろーー》
《シューレ、ウィルコ》
《ラズリ、ウィルコ》
直ぐには離陸しない様だ、焦らないように漏れの無いようチェックを進める。
よし、終わり!
《アルフレート隊、滑走路手前似て待機する》
エンジン出力を上げて誘導路を通って指定箇所で待機。
出撃しないことに越したことはないが、状況がよく分からない。
《管制塔、状況は!?》
《ーーあー、国籍不明が防空識別圏に侵入しブリザード隊が対応に向かっているのだが・・・・・・、まて・・・・・・ーー》
ん?無線の向こうが何やら慌ただしくなる。
《ーー新たに国籍不明機4機が260度方向から東進中!アルフレート隊離陸許可!ーー》
マジかマジか!どうなってんだ!?
この島の西にはローレニアかグレイニア、タバルニアにしかないぞ?また、ローレニアがなにかしにこようってのか!?
しかし、ボクごときが考えても分からない。
《あ、アルフレート隊了解。シューレ出撃!》
《ラズリ出撃!》
僕達は斜めに並んで滑走路から飛び立った。




