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第10話 想い

オーブンが思いのほか小さくて少し時間がかかってしまったがピッツァはできたし、隙間時間を使ってコンソメスープとちょっとしたサラダも作った。


うーん、我ながら完璧だ。


「できたよ、テーブルに持って行って」


「はーい!」


それと、あれほど抵抗があったタメ口がなんだか今はスラスラ言えるようになっていた。まるで自分の体じゃないような、よく分からない感覚だ。


テーブルに料理を並べて、ルイさんがグラスにお酒を注いでくれる。なんのお酒かな?


「これは?」


「えっとね、梅酒って言って異国の果実酒だよ。ロックとかソーダ割りとかいろいろあるけど何にする?私のおすすめはロックかな」


「じゃー、ロックで」


「うん!」


グラスに氷を入れて混ぜ棒で一周回してくれる。

あまりお酒は得意ではないけどこれは美味しそうだった。


「それじゃ」


「「カンパーイ!」」


勧められた梅酒のロックを一口。


「甘いけど意外と濃いね」


「それがいいんだよー」


「なるほど」


ちょびちょびと嬉しそうに梅酒というお酒を呑むルイさん。

一気にグビっと呑むお酒では無いのだろう、ボクも彼女に習ってゆっくり呑むことにする。


そしてピッツァに手を伸ばすルイさん。


ナイフとフォークで器用に切り分けて、ボクのお皿にも取り分けてくれる。


「ありがとう」


「ううん、食べよ」


やや薄目に作ったピッツァをパクリと一口。


「うん!ツバサくんの味!」


「そう?よかった」


ニコニコでパクパクと食べるルイさん、ほっぺが落ちそうなのか、うーん、と頬を両手で支えているそんな彼女の顔を見ているとボクもなんだか嬉しくなってニコニコとしてしまう。

ツバサお兄ちゃんの作った料理はあんまり食べたことないけど、味付けが似ていたようでよかった。


まあ、ソースに野菜とかサラミやチーズを乗せて焼いただけだけどね。


黙々とピッツァを食べ続けるルイさんを見ていると、ふと目が合う。


「どうしたの?」


「あ、いや、可愛いなって」


「やだー、恥ずかしいっ」


へへへ、と微笑む彼女。これは本心だ、結さんのようにお姉さん感はなく、藍さんのようにふわふわしていない。キリッとしていてもなんだか愛おしい、そんなルイさんらしい可愛さがあった。


ツバサお兄ちゃんもそんな彼女に惚れたのかな?


「早く食べてお風呂入ろ!汗かいたし!」


「そうだね・・・・・・?」


ん?普通に言うものだから聞き逃すところだったけど、入ろ!ってことは?


「一緒に?」


「なに、嫌?」


また真顔に戻ってしまうルイさん、ヤバイヤバイ、夫婦なんだし一緒にお風呂ぐらい入るよな!訂正訂正!つってもまだ心の準備が!


「いや全然!入ろ!」


「うん!」


いやー、いろいろ大丈夫かなぁ。お姉ちゃん以外の裸とか見たことないし、ルイさん意外とスタイルいいし不安だ。



ここのジャクジーすごく広くて、大人二人入ってもまだ余裕がありそうなぐらい大きく、ジェットバスときたもんだ、いろんなスイッチを押すと光りだしそうだしかなりゴージャスだった。


その一人では広すぎる湯船に、食事を終えて高鳴る心臓を必死に抑えて一人で浸かり、ボクはルイさんを待っていた。


「お待たせ」


「う、うん」


やや細身だが大きな胸が揺れているのをチラッと見てしまい、慌てて目線を逸らす。ヤバイヤバイ、刺激が強いって!!


そんなボクを見てか、フフフと笑った彼女はしゃがんでシャワーで身体全体を流すと。


「入るね」


「う、うん」


湯船に浸かる僕の股の間に入り背中を僕の方に向けてくつろぎ始めた。

彼女の体重がボクの胸にかかって、心臓の鼓動が伝わってしまうんじゃないかと思うと余計にバクバクしてしまう。


ボクの爆発しそうなドキドキを他所に、手のひらでちゃぷちゃぷと波を作って静かに遊んでいるルイさん。静まれ静まれ、と自分に言い聞かせ。


「あ、ジェットバスみたいだからさ、スイッチ入れていい?」


我慢できそうにない!気を紛らわせる。


「ジェットバス?うん、いいよ?」


よかったよかった、頭元にあるスイッチを押すと、ゴーーーという音を立てて、泡と水流が浴槽の横側から勢いよく出はじめた。


「おお!すごいね!」


「だね!」


泡と水流でできた波でキャッキャと遊ぶルイさん、ウイジクランは浴槽に浸かる習慣とかあまり無さそうだし、そりゃ物珍しいよね。


爆発しそうな心臓を抑えながら、にこやかに彼女を後ろからしばらく眺めていると、見てしまった。


「どうしたのこれ?」


彼女の左手を掴んで浴槽から持ち上げる。


そこには手首に何本もできた蚯蚓脹れのような跡。


説明されなくても分かる、リストカットの跡だ。


「あ、これ?・・・・・・あれから何回も死のうとしたの」


「えっ・・・・・・」


ボクが彼女の左手を離すと、優しく自分の手首を擦るルイさん。


「でも死にきれなかった。みんなに来るなって言われて・・・・・・」


「・・・・・・」


「でも、そのおかげでまたツバサくんに会うことが出来た!」


ややぎこちないニコニコな笑顔で振り向いてくれるルイさん。


「ごめんね・・・・・・」


「謝らないで、ツバサくんのせいじゃないよ」


「ごめん・・・・・・」


「ちょっと、苦しいって」


気がつけばボクはルイさんを後ろから抱きしめていた。柔らかくも筋肉質で暖かくスベスベな彼女の肌、生きてる、ちゃんと生きてる、確認するようにギュッと。


「背中流してあげる」


「うん」


ボクは浴槽から上がり、ルイさんと背中の流しあいっこをした。



ボクが先にお風呂から出てソファでくつろいでいると、ルイさんも上がったようで脱衣場からドライヤーの音が聞こえ、彼女が出てくる間にまた同じことを考える。


やっぱりこのままツバサを演じるのも酷だよなぁ、でも言うタイミングがなぁ。


そんなことを考えながら頭を左右に揺らしていると、浴室からルイさんが出てきた。


バスローブに身を包みホカホカと湯気を漂わせ、ボクを見るとニコッと笑って冷蔵庫に向かう彼女。


その姿を、んー?と見ていると。


彼女は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、それをポイッとボクに投げ渡される。


「おっと、また飲むの?」


梅酒結構飲んでたと思うけどなぁ、ていうか一本空けてるけど・・・・・・。お風呂に入って酔いが覚めたのかな?普通逆だと思うのは気のせいか。


「うん、いいの」


彼女はまたニコッと笑って二人がけのソファ、僕の隣に引っ付いて座る。

彼女の火照った体温が肩や太ももを伝ってボクに伝わってくる気がする。


プシュッと缶ビールを開け、グビグビと喉音をたてながら美味しそうに呑むルイさん。

これ以上呑むと頭が痛くなりそうだったけど、せっかく貰ったビールを戻す訳にもいかない。ボクもプシュッと開けて呑もうとすると、投げ渡されたせいか泡が吹き出し慌ててそれを口に運ぶ。


「ととと!」


「ふふふ」


その姿を見てまた笑うルイさん、わざとだったのかな?意地悪な人だ。


「ねぇ、ツバサくん」


「なに?」


ルイさんはボクの太ももを擦りながら、何か思い詰めたように聞いてくる。


「これって、夢なのかな?」


「・・・・・・」


夢だけど夢じゃない、ボクはなんて答えたらいいんだろう。しばらく黙り込んでいると、先に彼女が口を開く。


「夢でもいいや、またこうやってツバサくんに会えたし」


トンとボクの肩に頭を預けてくるルイさん、それにボクは彼女の後ろから手を回し反対の肩に手を置いてゆっくりと擦る。


「夢じゃ、ないよ」


精一杯の嘘だった。


すると彼女は僕の方を向いて。「だといいな」と、ボソッと呟くと残ったビールを一気飲み。


「確かめてもいい?」


「え?」


どういうこと?と確認する暇もなくルイさんは立ち上がりボクの手を引くとベッドへと引っ張られる。


「えっとー・・・・・・、っ!!」


ベッドに座らされて辺りをキョロキョロしていると、ボクの太ももの上に座られ、頬を両手で優しく包まれるとそのままキス。

彼女の左手を柔らかい唇を無理やり離すことも出来ない、なされるがままにしているとそのままベッドに押し倒された。


「いいよね?」


「ちょ、ルイ・・・・・・、あっ」


拒否権などなし、それからは僕の上に乗る彼女の独壇場だった。



夜中。


ルイさんはボクの腕にしがみついたままスヤスヤと眠っている。ボクはなんだか眠れずに真っ暗な天井を見つめていた。


なんだか、どころじゃない結構一大事だ。


「初めてだったんだけどなぁ・・・・・・」


そうつぶやいて横を見ると、満足そうな可愛い顔をこっちに向けて眠るルイさん。時々彼女のスラリとした脚がボクの脚に当たってブルブルと身震いしてしまう。


ボクの初めてをお兄ちゃんの奥さんに取られるとかエロ漫画の見すぎだってレベルじゃない。それに相手は未亡人、シロお兄ちゃんに夢に出てこられそうだ。


その時は、お兄ちゃんのせいだ!って言ってやる。


まあでも、これでルイさんが満足してくれるならいいけど、一緒に帰ろとか言われたらどうしよう。さすがにそれは出来ないけど、彼女を放ってしまう訳にもいかない。


問題が次から次えと出てくる。んー、どうしたものか、と唸っていると。


「どうしたの?眠れない?」


パチッとルイさんの目が開き、僕の頭を撫でてくれる。あ、起こしちゃったか。


「あ、ごめんね。ちょっと考え事をしてて」


「そう?」


そのままゆっくりとボクの頭を撫で続けてくれるルイさん。


「ごめんね」


「え?」


今度は彼女に謝られた。ボクの頭を撫でる手をボクの腕に戻すとギュッと一段と強く抱きしめられる。


「私なんかのためにツバサくんを演じてくれて」


「・・・・・・」


なんだよ、分かってたのかよ・・・・・・。


「本当にツバサくんに会えたみたいで楽しかったよ」


「・・・・・・」


なんだよ、なんなんだよ・・・・・・。


「ツバサくんの遺書に書いてあったんだ、どうしても辛くなったら端島に行くといいって」


え?てことは・・・・・・。


「君、ニグルムくんでしょ?」


「・・・・・・はい」


今の今まで我慢していたものが全て出てきそうなほど涙が溢れ出てきた。


「お兄ちゃんのバカ・・・・・・」


体を起こして泣きじゃくっていると、ルイさんも起き上がってボクを優しく抱擁してくれる。

止まらない涙、袖で拭いても拭いても溢れてくる。


「男の子がそんなに泣かないの、ツバサくんは泣かなかったよ」


「だって、だって!!」


お兄ちゃんとボクは比べ物にならない。

なんでこんなにいい人を置いて逝ってしまったんだ、今度会ったらぶん殴ってやる。


「よしよし・・・・・・」


彼女の胸の中で一頻り泣いていると、少し落ち着いてきた。


「そういえば今の名前は違うんだよね?」


「はい、伊波宙っていいます」


「ソラくんか、いい名前だね。私はルイ・シロサキ、よろしくね」


「よろしく、お願いします・・・・・・」


シロサキ、か、結婚してるんだそりゃシロサキを名乗るよね。お兄ちゃんはいた、彼女の名前からお兄ちゃんの生きた証がわかって少しほっとした。


「あ、ところでさ、ソラくん初めてだった?」


「え、なんでですか?」


初めてだったけども。


「なんかぎこちなかったからさ、ツバサくんの初めての時みたいで初々しかったな」


かー!人の初めて奪っといてよく言うよ!

てか、お兄ちゃんもルイさんが初めての人だったのかよ!


「ボクの初めてを勝手に盗っといてぎこちないとか言わないでください!」


さっきまで泣いていたのが嘘のようにプンプンとルイさん怒る。


「それに関してはごめんね、でも抵抗しなかったよね?」


「まぁ、はい・・・・・・」


満更でもなかったし・・・・・・、ってこらこら。

変なことを考えてしまい頭をブンブンと振る。抵抗したら可哀想だからって思っただけです!


「かわいっ」


もういじわる!なんでボクはこうも年上の女性に弄ばれなきゃならないんだ。


「とりあえず、今日は寝ようか」


「そうですね、夜中ですし」


再び横になって布団にくるまるとルイさんも同じように横になり、彼女はボクの腕をがっしりと掴んで離さない。


「ルイさん?」


ボクはツバサじゃないよ?と思うが。


「お願い」


「分かりました」


もう少しツバサお兄ちゃんを感じていたいのだろう。

ピッタリと密着されて寝返りはうてそうにないが、それは我慢だ。


「ねぇ、ツバサくん」


「なに?」


呼ばれルイさんの方を向くと、チュッとキスをされ。


「おやすみ」


そう言って彼女はボクの腕に顔を埋め。


「おやすみなさい」


ボクも目を閉じた。



翌朝。


置き手紙を残し、ルイさんは部屋からいなくなっていた。


『ありがとう、ツバサくんに会えたみたいで本当に楽しかった。初めてを貰っちゃったのはごめんね。


ここにいる人には手は出さない、約束する。


これからも私はイエローラインを殺すために飛び続ける、それでもし私に何かがあったとわかった時は、ここに連絡して欲しいの。


それじゃ、またね。


追記:ホテル代は払ってるから安心して。


ルイ・シロサキ』


最後の行にはどこかの電話番号が書かれていた。

どこの電話番号だろう?気にはなったが今は確認する時ではない、そう思った。


「夫婦揃ってバカなんだから・・・・・・」


僕はその手紙を財布にしまった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] へへへ、とにやける彼女。これは本心だ、 誤用 にやける(若気る) 男性が女性のようになよなよとして色っぽい様子。 鎌倉・室町時代頃に貴人の側に付き従って男色の対象となった少年。
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